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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第二章 転生(憑依)して超頑張ったら学園に入学しちゃったよ
26/46

第24話 サトリの長い一日(3)―――昼

まだまだ続きます。

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

 



 サトリは現在、テーブルマナーと格闘していた。


 礼儀作法とは他人への心遣いであり、思い遣りやいたわりといった様々な思いの詰まったものだという。


 前世の礼儀作法において貴族という珍しい友人のいたサトリも為になるといわれ叩き込まれたが、今世において役に立つことは多く、また『こんなに面倒な事をしないといけないの?』と思わせるものも多かった。


 サトリ以外の殆どの生徒は貴族出身とあり、この講義を受けなくとも免除を勝ち取る生徒も少なくない。


 だが、免除を勝ち取らなかったからといって、この場にいる全員がサトリのように礼儀作法に暗いという訳でもないのだ。


 音を立てないようにサトリは皿に乗った肉を小さく一口大に切り、口に入れる―――振りをするという作業をこれで三度繰り返していた。


 礼儀作法など今時小さな商会の長でも修めているといわれ、明日ようやく行われる事になったサトリと宰相アルマンドの会食を控えていた為、少しでもテーブルマナーを向上させておこうと思ったのである。


 講師を務めているディアンナ女史はサトリの作法をつぶさに見つめて、ここでようやく口を開く。


 つんとした表情をした女性で主に専門は淑女教育に携わってきた人物らしい。


 マナー全般に通じているらしく、こうした講義を依頼されるほど有名人だった。


 一時は、王族の指南役にまで上りついた女性でもある。


「サトリさん、この調子で頑張れば貴方も一角の紳士になれますわね。

 後はそのいつも気を使っているその眉間の皺を何とかすれば、更に完璧ですわよ?

(たまに変な作法が飛び出してくるけど、サトリさんは優秀な受講生で助かりますわ。

 やはりお国柄というものなのかしら…イーブル皇国から確か留学生が来ると聞いていたし、少し調べてみようかしらね?)」


 この一月の間に、世界情勢は揺れに揺れた。


 サトリが四体の魔導人形を作り出した事が世界中に知れ渡り、更に新たな発明―――例によって農作業を効率よくさせる為の農機具を数点―――した事でサトリの評価は天井知らずに高くなっていった。


『是非とも我が国で指導してほしいいや我が国で』と国を通じて要求する国も出てくる始末で、そうした国に対してサトリは取扱説明書と考えられる限りの対処マニュアルを高額で売りつけて金を巻き上げていた。


 鍛冶師ギルドや木工ギルドとの仲も良好となり、ドワーフといった他人種――――――や社会的地位の高い人間と何度か会ったりと濃密な日々を暮らしていたサトリにとって、礼儀作法をいち早く修めるのは急務であった。


「…スローライフはどこいった?」


 社会的影響を欠片も考慮せず、ただ金儲けと食事の安定を求めたのが出発点だったにも拘らず、サトリは『豊穣の錬金術師』という二つ名を不動のものとし、次の作品を期待されていた。


 おかげで、自分の専用武具に関しては遅々として進んでいない。


 授業終了の鐘が鳴る、サトリはナイフとフォークを置くと席から立ち、教わったとおりの作法でディアンナに指導への感謝を口にした。


「これで明日の会食では何とか凌げそうです。

 今日の夕食もテーブルマナーの復習を兼ねてやってみます」

「向上心があるのは良い事ですわ。

 ではサトリさんには後日宰相閣下との会食の際に自分のテーブルマナーがどれほどの物だったのか報告書を上げていただきましょうか。

 もちろん、マナーに関しての報告書ですわ。

 何らかの機密や経済活動のお話を盛り込まれても困りますので、その点は注意してくださいね?」

「…はい、わかりました」


 面倒な宿題を押し付けられてしまい、サトリは半拍固まってしまうがディアンナにじっと睨まれるとすぐに返事をした。


 他の生徒もちらほらと席を立って講義室から出て行く。


 サトリもディアンナが口にしていたイーブル皇国からの留学生の話を明日の会食の際の話題に入れようかと考えていたが、その考えは途中で遮られた。


「―――おい平民、話がある」


 不機嫌に不機嫌を重ねたような声でサトリに声をかけられ、振り返ってみると見覚えのある顔だった。


「ええと、ヴィレッジ子爵家の?

《……うわぁ、面倒ごとだぁ》」


 サトリと同じ錬金術科でヴィレッジ子爵家の四男、アゾルがそこにいた。


 げんなりしつつ、サトリは今日は濃い一日になりそうだと内心でぼやくのだった。



 * * *



(サトリ視点)


 学園の裏手、人気のいない場所に連れてこられた俺は目の前にいる少年―――アゾルが何を考えているのか道中でおおよそ知った。


 アゾル・ヴァン・ヴィレッジ、十二歳。


 ヴィレッジ子爵家の四男であるアゾルは癖毛のある金髪といつも不機嫌なのか眉間に皺が寄っていて、せっかくの整った顔立ちが台無しな少年だ。


 入学試験においては確か学科で三位…だったと思う、優秀な人材だ。


 というよりも、俺は以前から彼の事を知っていた。


 入学当初からアゾルは俺の事を物凄い凝視していたからだ、嫌でも気付くほど。


 念の為に覗いてみたが、聞こえてくるのは大体が嫉妬から来る怨嗟くらいで、それが表情にも出ていただけなので放っておいたのだがどういう訳か問題が大きくなっていた訳である。


 ―――闇ギルドへの依頼。


 どうやらこのお坊ちゃんではなく、彼の父親がアゾルを使って俺を殺そうと計画していたらしい。


 懲りない連中である。


 既に仲介役を何十人も使って、その仲介役も何人か消して痕跡を辿り着かせないようにしている辺り徹底している。


 ここに呼んだのは最後通告というか、殺人予告というか、内心が混線し過ぎてよくわからない。


 時折後悔しているかのような内心が湧き上がっては貴族としての義務やら家の意向やらで押し潰されていたりと、内心が百面相をして判断が付かないでいる。


 本人も正気じゃないのだろう、優秀だと思っていたのに残念なことである。


「それで、お話とはどのようなもので?」


 内心をグルグルと目まぐるしく回しているアゾルを尻目に、俺は努めて冷静な様子を装って声をかけた。


 そんな態度が気に入らなかったのか、アゾルが一瞬むっとするがその表情をすぐに打ち消してまた百面相を始める。


 普段なら他人の百面相ほど面白い物はないんだが、闇ギルドに殺人依頼してる家の人間の百面相だからなぁ…ちょっと反応に困るというか。


 まぁ死ぬ気はないし、来たら返り討ちにする気満々だからどうでもいいというのはあるんだけどな。


「………ろ」

「はい?」


 ようやく口を開いたかと思えば聞き取り辛く、俺は思わず聞き返してしまった。


 あれ、今この人なんて言った?


「…この国から出ろ、と言った

(…やはり無理だ、私にはこいつを所定の場所に連れて行く事は出来ない。

 類稀なる頭脳、錬金術の腕前、そして魔導師としての才能、どれもが際立っている。

 既に功績も数え切れないほどだ、我が子爵領もその恩恵に預かっている。

 それなのに、用が済めば暗殺して闇に葬ろうなど世界の損失だ!!

 正直嫉妬も湧くが、デイジー様もあれは規格外だと言っていた、比較するのがおかしいとも言っていたし、確かにそうなんだろう。)」


 ………ふむ、どうやらアゾル君は最後の最後で踏み止まってくれたらしい。


 暗殺者がやってくるから国外逃亡しろと言ってくれているらしい、具体的な説明をしてくれないのでちょっと勘違いしそうだが、まぁ俺にかかれば事情はツーカーなのだ。


 さて、どうするか…早く片付けないとフレアがここにやってきてアゾルを楽しく料理し兼ねないからな。


「えっと、大丈夫ですよアゾル様。

 事情(・・)は分かっていますから」


 うん、この子は意外とまともだし、敵認定はギリギリセーフかな。


 まぁお家の人は今のところアウトなんだけど。


「な、何だと!?」


 驚いているアゾルに俺はとりあえずやんわりと声を抑えるように指を口元に当てた。


「すぐ近くまで来ているんでしょう?

 情報は既に掴んでいます、アゾル様の役目もまぁ理解してます。

 貧乏くじを引かされましたね?」


 そう、このアゾルは暗殺者を指定された場所に連れて行くと言う貧乏くじを掴まされたのだ。


 同じクラスメイトだという理由で。


 彼にはどうやら二つ上のお兄さんが学園にいるようだが、この件の事は知らないらしい。


 あと二人お兄さんがいるみたいだけど、全員領地にいるみたいでノータッチのようだった。


 子爵家の当主であるお父さんが独断で行動しているようだ。


 うーん、このお父さんには消えてもらうしかないのかなぁ……王都にいるみたいだし暗殺返しするか?


 殺人だと思われると困るから、毒殺……毒検出する魔道具があるからそれも難しいか。


 夜までには考えつかないと拙いな。


「ど、どうしてその事を!?」

「まぁ、うちの魔導人形は優秀でして。

 …何というか、以前はこういう事もよくあったから安全対策には全力なんですよ」


 嘘です、フレアたち四体を作ったんで最近は完全に怠っていました。


 だってあの四体がいれば人質取られても余裕で対処出来るし…生きていれば何とか命を繋ぐ事も出来るくらい俺の魔導師としての腕前は卓越しているからな。


 手術もまぁ出来なくはない、魔物相手だが生物と言う括りでいけば大体いけるしな。


 とりあえず心臓と頭が無事なら元通りには出来る、なので油断していた。


 まさか、錬金術師派が性懲りもなく俺に手を出してくるなんて思っていなかったからな。


 いや、デイジーのお兄さんが知れば間違いなく潰すだろう。


 となると完全に子爵家の独断という事になる…益々消えてもらわないと俺の人生の障害になるな。


「…で、アゾル様には二つの道があります」


 俺は異次元鞄から盗聴防止と結界の魔道具を展開すると、二人きりの状況を作る。


 なんとこの結界を展開する魔道具、光学迷彩も付け足しているので本当に二人きりの状況を作れたりする、秘め事には持って来いの魔道具だ…はじめてが男相手なのはちょっといただけないが。


 生唾を飲むアゾルは俺が漏らし出した魔力に怯え後ずさるが、この結果意は外からの攻撃を守る結界ではなく、逃がさない為の(・・・・・・)結界だ。


 逃げられないと気付いてからは忌々しそうに舌打ちするが、観念したのか先を進めろと言って俺を促した。


「一つ、計画を断行…つまり貴方のお父上の意向通り俺を暗殺者のいる場所へと連れて行き暗殺させること。

 この場合、貴方を含めて子爵家全体が俺の敵になります。

 俺の採る対処手段は、貴方を含めて子爵家の血を完全に絶やすことです。

 中途半端に残すと後が面倒ですからね、面倒な雑草は根っこから絶やすに限ります」

「…雑草とは、言ってくれるな平民め。

 ……それで、二つ目は何だ?」


 強気な口調だが覇気の無い、どこか諦めた調子の声音だ。


 それもそうだろう、心を覗かなくても想像は付く。


 俺がはっきりと殺す(・・)と宣言した以上、アゾルは俺にそれが出来ると確信しているのだ。


 それくらい彼我の実力差を知って尚、父親の命令を聞いたのは親子の情や嫉妬心が捏ね繰り回されて瞬間的に殺意へと昇華してしまったんだろう。


 人は理屈一辺倒ではない、むしろ感情で生きる動物だからな。


「二つ目は、主犯である貴方のお父上にこの世から退場してもらうこと。

 そしてアゾル様はこの件に関して一生口外しない事です。

 つまり、父親を切り捨てて生き残るという後味の悪い結末です。

 この選択肢を取った場合、契約の魔法用紙(スクロール)を強制ですがやってもらいます。

 もちろん、俺も貴方に一切の危害を加えないという近いです」


 まぁ、間違っても俺は殺さないけど他の奴が殺しちゃうぜ、という外道行為はしない。


 言ったからには約束は守る。


 それにこいつはまぁまぁ優秀だからな、錬金術師派にはデイジー以外にも伝手は欲しいし同じ錬金術師として話もしてみたい。


 なにせ『効率的に魔力を使って魔道具の魔力量を減らす為の研究』なんていう難しいこと考えているんだ、今は実力が足りなくてもいつかとんでもない技術を確立しないとも限らないしな。


 こいつの言っていた通り、こいつが死んだら世界の損失…とはいかないが、人材の損失はよくないと思う。


 俺だって、前世の恐怖から敵は片っ端から皆殺し、老若男女関係無く一族郎党皆殺しにして復讐の連鎖なんて根本から断ち切るスタイルを取りたいという気は多分にある。


 が、それはもう人の考えじゃない、バケモノ(・・・・)の思考だ。


 生憎と俺は魔力も人並み以上で前世の知識のおかげで錬金術師としての腕前も卓越しているし、極め付けは人の心も読めるバケモノみたいな存在だ。


 だが、心までバケモノになった覚えは無い。


 あの時俺を拷問した連中には恨みも憎しみも恐怖もある。


 出来る事なら復讐して俺が味わった拷問をそっくりそのままやり返したいくらい恨んでいる。


 おかげで俺の人間不信は人間嫌い半歩まで辿り着いていて、おそらくこれはどうしようもないくらい刻まれてしまった。


 ―――俺はもう、人を心の底から好きになる事は出来ない。


 近しい存在になればなるほど疑っていき、何度も何度も心を覗く。


 だけど、それでも俺はバケモノにはなりたくない。


 バケモノみたいな俺でも、せめて前世の学生時代に送っていた、人間らしい生活をしたいのだ。


 深くなくてもいい、ほんの少しでいいんだ。


 話せる友人がちょっといて、面白おかしく生きていければそれでいい。


 死ぬ間際に、『あー面白かった』と言って死ねる人生であればいいんだ。


 万人に認められなくても、たとえ誰一人として認められなくても。


 俺は俺の考える『人間らしい人生』を歩んでみたいんだ。


 その為だったら、たとえ犠牲が出ようと構わない。


 だけどその犠牲は最小限だ、血染めの道なんて気分良く死ねないからな。


 だから、色々と理由をつけて俺はアゾルに選択肢を迫った。


 生きられるという道を。


「……本当に、すまない


(こんな顔をさせてしまったんだな俺は…貴族の人間として、俺は恥ずかしい。)」


 短い謝罪だが、アゾルは心の底から後悔しているようだった。


 そして、アゾルは俺に答えを返した。


「…父を、よろしく頼む」

「……なるべく苦しませずに、終わらせますね」

「いや、別に苦しめて殺してもいいんだぞ?

 別に俺は父ことを慕っていた訳じゃない。

 かといって、嫌われていた訳でもない。

 単純に、俺は父を好きになれなかったから、死んでも心なんて悼まないから生きるという選択肢を取ったに過ぎないんだ

(そうだ、俺は庶子で期待なんてされていなかった。

 兄たちからは可愛がられていたが父はそんな素振りを見せなかった。

 だからそんな父を切り捨てたとしても、俺は後悔なんてしない。)」


 内外の告白を聞いて、俺はただ肯いた。


 感想なんて無い、ただ肯くだけだ。


「…それじゃあまず、近くにいる暗殺者から片付けますので、場所を教えてください」


 俺はアゾルから暗殺者のいる場所を聞き出すと、少ししてやってきたフレアたちに命じて『狩り』を命じる。


 護衛役のシヴァを残して、フレアたちは暗殺者を狩り出しに向かう。


「……さて、講義もまだ少し残っていますし、戻りますか」

「…そうだな、行くとしよう」


 顔色の優れないアゾルをよそに、俺は顔色も変えず歩き出す。


 本当に、今日は濃い一日である。


読んで頂き、ありがとうございました。

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