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サトリの異世界楽隠居譚  作者: 夢落ち ポカ(現在一時凍結中)
第二章 転生(憑依)して超頑張ったら学園に入学しちゃったよ
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第22話 サトリの長い一日(1)―――朝

長いです…長いです。

()=○○の心の声です

《》=サトリの心の声です

 

(サトリ視点)



 色々あって一ヶ月経って最近、欲しいものリストを作って気付いた事があった。


 欲しいものがありすぎだ。


 特にCADが欲しい、設計図を一々手書きするのが面倒だ。


 となるとパソコンが必要になってくるが、生憎とパソコンを自作した事もなく、パソコンの扱いは中級レベルの俺にパソコン的なものが作れる訳がない。


 そしてパソコンの事を考えていると電卓も欲しいしせめて手書きが面倒だからとタイプライターも欲しいと気付く始末。


 発達し過ぎた文明に長くいた事もあってか、無いと本当に困るとしみじみに思う俺なのだった。


 残念ながら俺に機織の才能は無かった。


 採寸とデザインだけ作り、オリハルコンとミスリルを繊維状にして業者に発注した。


 なので、とりあえずは手近な物から作ろうと思う。


 人工ダイヤの方は目処がついたので、まずは算盤(ソロバン)を作ろう。


 その次はタイプライターかな。


 文明を自分勝手に飛躍させている気がしてならないが、これも俺が自由を満喫する為だと思う事にしよう。


 今日も楽しい一日の始まりである。



 * * *



 魔導師派との一件、その後の魔導人形たちの性能試験以来サトリに声をかける者はほぼ皆無となった。


 同じクラスにいるデイジー、前触れなく呼び出しをかけてお茶会をするバルアミー、近況報告と称して勧誘をしてくるラインハルト、そして内心そんな状況を心配しているケリィくらいだ。


 番外として、錬金術科の学長や講師といった大人だが、こちらはむしろサトリに自分の研究の相談や愚痴ばかりである。


 クラスメイトすら話しかけてこないこの学生生活をそれでもエンジョイしていると平然と断言しているあたり、既に悟り(・・)の境地にいたサトリ、そしてお供をしてきている四体の魔導人形たちは今日も午前中を図書室で過ごしていた。


「いらっしゃいサトリ君。

 今日もかい?」

「はよーです、アッバスさん。

 いつものお願いします」


 毎日学生のいない筈の時間にいるサトリの事を年配の司書アッバスは覚えてしまっていて、主語がなくとも話の通じる間柄となっていた。


 七十代の中肉中背のアッバスはアッシュフォード学園の司書長をしている古参ともいえる人物だ。


 派閥にも属さず、ただ本が好きだからとこの図書館に勤めている生粋の本狂いである。


 アッバスが席を立ち壁にかけてある重厚な鍵束を手に取る。


「ほれ、それじゃあ今日も頑張って。

 気をつけるんじゃよ?」

「今日は当たりを見つけたいなぁ」

「わしも頑張って整理しているんじゃが、禁書区域は魔力濃度が濃過ぎてのう。

 体に堪えていかんわい」

「アッバスさんは適当に頑張ればいいんじゃない?

 俺は好き勝手にしてるだけだし?」


 そう言い残すと、サトリは学園にある最奥部へと歩いていく。


 サトリの禁書区域への立ち入りは国王であるレイクロードが直々に許可を出したもので、司書長であるアッバスも許可されていた。


 とはいえ、サトリも禁書区域へと足を踏み入れてまだ錬金術関連の魔道書を三冊しか見つけられていない。


 この広大な図書館の中で、長い年月をかけて収集整頓されてきた学園図書館だが、禁書区域だけは整頓がされずにいる。


 そもそも禁書とは何なのか、言ってみれば本を開いて読んでしまえば魂を蝕むほどの強力な魔力を宿した本の形をした汚染物だ。


 手に持つだけで震えや吐き気、目眩といった症状を起こす禁書もざらにあるほどで、禁書区域には空間を切り取るように結界が張られていた。


 いわば知識の詰まった放射性廃棄物汚染場である、常人ならば五分と経たず発狂する危険地帯だ。


 そんな地雷原よりも数十段上の危険な場所へ、サトリはほぼ毎日通っていた。


 結界の護符を持っているのでサトリには一切影響はない、フレアたち魔導人形に至っては護符がなくとも誤作動が起きていないくらいだが、もしもの為に護符を多めに持たされていた。


「それじゃあ今日はこの辺りからやろうか?

 フレアは奥の方を、シヴァは俺の右手を、エアは反対側を。

 ガイアは…ガイアは机で待機ね」

「畏まりました」

「了解ですわ」

「最速で行動しますっ!!」

「……ラッキー」


 四者四様の反応を見せ行動を開始する魔導人形たちを気にもせず、サトリも行動を開始する。


 いくら護符を大量に身につけていても、禁書区域は精神衛生上よろしい場所ではない。


 特に本を開いては呪詛の塊が襲いかかってくる度に護符が破られるのではないかと不安に駆られるので、サトリも好き好んでいる場所ではないのだ。


 いっその事全てフレアたち魔導人形に任せるのもよかったが、この広大な禁書区域に四体で任せるのは如何なものかと思い、いないよりはマシという事でお目当ての錬金術書を探しているのだ。


 ガイアに関しては力加減が出来ず禁書を粉砕(・・)するという事故を起こしているので、実質一人と三体で活動していた。


「ねえねえシヴァお姉ちゃん、これすごいよ!!

『悪魔召喚術と扱い-初級』だって、おもしろそうっ!!」

「だめよエアちゃん、悪魔なんて契約だけは遵守しているけど、虎視眈々と契約者の魂を狙うウジ虫よ。

 そんな危険な存在をマスターの側に置く訳にはいかないわ」

「じゃあ…あっ、これもすごいよ!!

『精霊召喚と扱い-中級』だよ!!

 あたし精霊さん見てみたいな!!」

「だめよエアちゃん、精霊なんて悪魔よりもタチが悪いわ。

 契約も適当にしか遵守しないし契約者の都合なんて無視して好き勝手する害虫よ。

 マスターの研究を邪魔する存在を側に置く訳にはいかないわ」

「シヴァお姉ちゃん…厳しいね」

「マスターの護衛ですからね私は。

 マスターの安全第一が私の存在理由だから、そういうのには敏感なのよ」


 悪魔にも精霊にも厳しい生真面目でサトリ第一主義を掲げる長女(シヴァ)にサトリは苦笑していると、フレアが呆れた表情で妹たちの元へとやってきた。


「………貴女たち、話すのはいいので手を動かしなさい」

「「…ごめんなさいフレア(お)(ちゃん)さん」」


 長兄でもあるフレアに叱られ、シヴァとエアががっくりとうな垂れているのを見てサトリは内心噴出していた。

「《……ホント、人間みたいだなぁ。

 ていうかおもしろいこの状況。》」


 傍からその風景を観察していたサトリはといえば、フレアたちの触れ合いに和みながら魔道書を手に取っては目的の物ではない挿し戻すという作業を繰り返している。


 ガイアのいる方へと視線を向けると、何が面白いのか目を瞑って突っ立っていた。


 時折サトリのいる方へと目を開けて何度か瞬きをしては閉じてを繰り返している。


 手持ち分沙汰でいて暇そうな人間そっくりな行動をとるガイアにほっこりしていると、サトリは手に取った魔道書に目を向ける。


「……ふーん、『錬金術の秘奥-賢者の石とは〔概論〕』かぁ。

 賢者の石かぁ…不老不死になれるんだっけあれって?」


 前世においては秦の始皇帝が求め仙人を蓬莱から呼び寄せようとし、竹取物語ではトキジクノカクという木の実を食べればなれるとされた不老不死。


 サトリとしては、別段不老不死を追い求めてはいない。


 理不尽な死を迎えなければ、老衰で死ねれば満足なのだと思っているサトリにとって、賢者の石は単なる研究対象になれるのかも怪しい胡散臭い題材なのだ。


 脊椎動物には細胞分裂の限界がある事を知っているサトリとしては、その限界を超える事が出来るのかという疑問が根強く胸に巣食っていて、所詮は御伽噺の類だと諦めていた。


 誰もが追い求め、そして現実を知り打ちひしがれる、それが賢者の石だ。


「《膨大な魔力の込められた術式増幅器でもあり、液体にして飲み干せば病気の人間を健康にしたり、老いた人間を若返らせ、果ては不老不死が実現する―――そんなご都合主義な代物あってたまるか異世界(ファンタジー)。》」


 そう思いつつも、それが禁書となればそれなりの理由があってこの禁書区域に放り込まれる理由があるのだと思ったサトリは慎重に魔道書を開いた。


 凶悪で吐き気の催す魔力は存在するものの手に取ったサトリに襲いかかったりしない、むしろ防衛機能が一切組み込まれておらず拍子抜けしてしまったサトリは当てが外れたかと首を傾げながらページを捲っていく。


「何々…『賢者の石とは、人という存在を高次存在へと昇華する錬金術における秘奥である』ねぇ。

 確か、賢者の石における石という言葉は人を指していたっけ、あながち眉唾ともいえないのかな?

 それにしても、高次存在ねぇ…なるほど肉体という限界のある器より悪魔や精霊といった器を必要としない存在になれば確かに不老不死に匹敵する存在になれるんだろうね。

 …ふーん、この本にある賢者の石ってあくまできっかけで、魂を昇華、つまり鍛えるのは本人の努力…努力ってまた曖昧だな、作者適当過ぎるだろ、定義しろよ。

 …っていうか、これ材料書かれているのだけ合成したとして飲んだら間違いなく死ぬだろ水銀とかいくら練成しても毒素抜けねえよ!?

 途中まで興味深かったのに一気に胡散臭い代物になってきたぞおい

《いや、分離すれば何とか…けどそれやったらもはや水銀とは違う代物になる気が…っていうか作者誰だよ…って師匠じゃん!?

 なにこれ、このトンデモ魔道書一気に信憑性出てきたぞ、師匠が書いているっていう事は少なくとも証拠があって書いているはずだ。

 でも、師匠は不老不死の成功例が無いっていっていたけど、これを読んだ限り師匠自身が成功例じゃないのか?》」


 著者名には『アニムス』と記載されていて、今更ながらこの独特な文体と書き方に以前アニムスが作った世界にただ一つの薬草図鑑にあったものと酷似している事を思い出したサトリは、この著者のアニムスが自身の師匠であるアニムスと同一人物であると確信した。


 そして同時に、不老不死となっているのではと首を傾げたサトリだったが結局気にしないことにした。


 不老不死だからといって、サトリにとってはアニムスは錬金術の尊敬すべき師匠なのだから関係なかった。


 むしろ賢者の石を作り上げた手腕を全力で賞賛こそすれ、邪な思いなど欠片も思い浮かばなかったサトリは事情があるのだろうと思う事にしたのだった。


「…まぁこれは師匠に聞けばいつでもこの書かれているものより詳しく聞けそうだし後回しにしようか。

 とりあえず錬金術関連の魔道書を集めた場所においておこう」


 サトリはアニムスに聞けば何とかなると考えたが、たとえ話が聞けたとしてそれを理解出来るかは別問題である。


 そしてそれが理解出来たとして、実行出来るかもまた別問題であった。


 後にサトリはこの賢者の石の法を知り、酷く後悔と苦労をする事になる。


 ―――三時間後、午前の授業の終わりの鐘が鳴り、サトリたちは成果を確かめ合った。


「俺は今回一冊見つけたけど、フレアやシヴァ、それにエアはどうだった?」

「申し訳ありませんマスター。

 このフレア、マスターの望む魔道書を一冊も見つかりませんでした」

「残念ですが私の方も見つかりませんでしたわ、申し訳ありませんマスター」

「いい感じの魔道書は見つかりませんでした、ごめんなさいマスター」


 サトリ以外は外れだったようで、三体ともうな垂れていたが、サトリは気にするなといって励ました。


「俺の方で一冊見つかったからいいよ、そもそもいつも俺たちはお目当ての魔道書を見つけられない方が多いんだし、気にしなくていいんだ。

 適度に力を抜いて、自分なりのペースで進めていけば魔道書(アタリ)には確実に会えるんだからね」


 サトリが見つければフレアたちは全力で褒め称え、見つけられなければフレアたちが全力で慰める。


 フレアたちが見つければサトリは大げさに褒め、見つからなればフレアたちを慰める。


 ちなみにその様子をガイアは第三者目線で見ているだけだ、参加するのを嫌がっているようでもあった。


「……マスター、ご飯の時間。

 あと……デイジー様たちに、お守り渡すんだよ」


 アフターミーティングが延々と続く中、終わりを告げるのはガイアの役目である。


 むしろ、ガイアの役目はこれに集約されているといっていい。


 集中し過ぎてお互いの事しか見えていない灰汁の強い一人と三体に代わり、常識な発言を冷や水の如くぶっかけるのだ。


 スケジュールの管理はフレアの範疇でもあるが、フレアの場合サトリを最優先としてしまうあまり何かとスケジュールを守らない事が多い。


 執事としての性能を活かし切れずにいる所為で、この役目もガイアに一任されているといっていた。


 感情的な容量が他の三体と比べ圧倒的に少ない為、こうして何事にも冷静に対処出来るのはサトリとしても嬉しい誤算であったろう。


「そうだね、研究室に戻って持ってこないと。

 デイジー様の分と、バルアミー様、それにラインハルト様の分だね。

 あれは思いの外豪華で結構な大作になったし今日は良い事尽くしだねぇ」

「そうですねマスター、今日は帰りに市場に寄り高めのお肉を買いましょう。

 孤児院の皆さんとパーティーです」

「院長様に連絡が必要ね、エアちゃん行ってくれる?」

「お安い御用だよ、四十秒で行って帰ってくるよ!!」


 ―――ガンガンガンガンガンッ!!


 鈍い鈍い音が禁書区域に響く。


 人気の殆ど無い図書館に響き渡るがアッバスはこの音に大した反応をせず、禁書区域の方向を眺め『またいつものか』と苦笑していた。


 ガイアがサトリたちの会話を強制終了させる為にガントレットを打ち鳴らす音だと知っていた彼は、普段通り自分の職務を勤めていた。


「……マスター、ご飯の時間…終わっちゃうよ。

 あと…お兄ちゃんたち、そういうのは時間のある時にやって、今時間無いでしょ?」


 酷く冷たい視線と言動がサトリとフレアたちに浴びせられ、我に返ると引き攣った様子で頭を下げた。


「「「「は、はい、ごめんなさい」」」」

「……はぁ」


 呆れているガイアはサトリから鍵束を受け取ると禁書区域を閉ざし何度も閉まっているのを確認してアッバスのいるカウンターに鍵束を返す。


「……アッバス、鍵束」

「おや、今日は早かったのうガイア坊。

 急いでいるかね?」

「うん……人に、会わないといけないの」


 アッバスとガイアは波長が合ったのか、不思議な交友関係を構築していた。


 サトリの所為とも、お蔭ともいえるこの関係は孫と祖父のようにも見えた。


「そりゃ急がんといかんな、図書館からじゃあどこも遠いからのう」

「じゃ……また」

「じゃあの。

 …サトリ君や、夢中になるのはええがもちっとしゃきっとせんとのう」

「あはははは…耳が痛いです」


 アッバスから耳に痛い忠言を貰うと、サトリは苦々しそうな顔をして頭を軽く下げ、図書館を出て行った。


 ダメな(サトリ)たちと出来る(ガイア)の後姿に、アッバスは微笑ましいものを見る目で眺めるのだった。



読んで頂き、ありがとうございました。

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