閑話 派閥の長(学園)たち
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
サトリのお話をしています、裏話的なことも話していたりして、長いです。
サトリたちが生徒会室から出て行って五分も経たないうちに、生徒会室にはラインハルトたち以外に新たな住人が招かれていた。
一人は騎士科の青年、齢十五と思えないほどの大柄な体格と肉付きは王宮にいる近衛騎士顔負けの覇気を漲らせている。
彼の名はアーサー・デュ・ドヴォルザーク。
ドヴォルザーク伯爵家の次男にしてレイヴァン王国内において騎士派と呼ばれる派閥の、アッシュフォード学園において纏め役を任されている者だ。
内実共に質実剛健を体現したかのような性格で、既に近衛騎士団への入団が内定していた。
彼は継嗣ではないため伯爵とはならない、長男のルバイトは心身ともに健康で継承問題においても何の波風も立たないくらいに政治感覚に優れていたからだ。
派閥の優を競わず、融通の利かない面も見られるが国に対する忠誠は疑いなく、騎士と剣の道を求道する変わり者と見られている。
その隣にいるのは年相応の、否、それ以上に針金のような細さをした青年だ。
赤茶色の髪の毛を襟足で結び、覇気を漲らせているアーサーを隣にしても身動ぎもせず会話が始まるのを目して待っている彼の名はヴェニス・バンカス。
レイヴァン王国における唯一の平民派閥、商人連合と呼ばれる派閥において屈指の財力と大陸西部において影響力を持つバンカス商会の次期会長をと推されている青年だった。
バンカス商会の歴史はレイヴァン王国中期まで遡るほどで、レイヴァン王国の経済を回してきたのはこの商会があればこそという者もいるほどに、彼らの経済感覚は大陸全体から見てもずば抜けていた。
大陸西部においてバンカス商会に手に入れられない物は存在しないと言わしめるほどで、上級貴族でさえ彼らに対して時折だが強く出られない事もあり、派閥における順位は五位だが、それまではずっと最下位だった。
明らかに実力を隠していると見られていて、王権派のみならず、他の派閥も彼らの動向には注視していた。
そして最後の一人、今回派閥の代表者たちが呼ばれるきっかけとなった人物が少し離れた位置でイスに腰掛けていた。
アルヴィレオ・ツァーク・レヴォルタ、先日暴走した魔導師派と呼ばれる派閥において纏め役を任されている人物だ。
先の侯爵ハインドの孫であり、直弟子でもある彼は不機嫌さを隠し切れず眉間にシワを寄せて、その秀麗な顔立ちに険を宿らせていた。
彼が領地へと帰っているうちに起きた騒動の所為で、彼には学園内の派閥における管理責任を問う声が派閥では囁かれていた。
アルヴィレオとしては当初の目的としてサトリに関わる気は毛頭なかった。
何せアルヴィレオはサトリが入学してきた当初からサトリの魔導師としての力量が自分と同格かそれ以上だと気付いたからだ。
師であるハインドから常に油断大敵は身を滅ぼすと教えられていた彼は、挨拶程度を交わす仲までは許容してはいたが、派閥内に取り込む気など一片も考えていなかった。
サトリが自分と同類、否、それ以上の怪物だと気付いていたから。
自分における魔導への探究、サトリにとっての錬金術への探求。
アルヴィレオには継承権はない、庶子だからだ。
母親が貴族の血でないという理由で生まれた時から継承する資格はなかったが、兄弟の誰よりも魔法の才能があった。
だからこそハインドが彼を見出し、侯爵家の為にと教育してきた。
年に見合わない、拷問とも思える詰め込み教育。
魔法で治せるからと、心的外傷を顧みない実戦教育。
元々あった才能を、アルヴィレオは見事に開花させた。
その実力は齢十五の内にC級からB級の魔物を狩れるほどの実力派の魔導師として成長した。
だが、サトリはそれ以上の実力者で、異常者だった。
アルヴィレオは魔導師の修行が嫌だった。
泣き喚いても止む事のない拷問という名の教育は自分には魔導師としての価値しかないと思わされ、嫌で嫌で仕方なかった。
魔導の探求は少しでも自分の価値を見せないとハインドに見捨てられると思ってやってきたことだ。
しかし、サトリは違った。
上がってくる報告は常軌を逸したものばかりだった。
外法とされる魔力量を増やす修行を毎日続け、魔力制御の失敗で血塗れになっても自力で魔法で治していく妄執ぶりに何がサトリを駆り立てているのか理解できなかった。
一年後、出来上がったのがアルヴィレオより四才下にも拘らず魔力量だけなら宮廷魔導師を圧倒し、加えて魔力制御に関していえば自分かそれ以上の精度を持つ魔導師に至っていた。
アルヴィレオの十年間の拷問という名の教育は、サトリの一年間にも及ぶ狂気の沙汰としか言いようのない自己鍛錬によって覆された。
怖かった、アルヴィレオはサトリが怖かったのだ。
自分が培ってきた魔導師としての価値観が、ただ錬金術を上手になる為だけに自分を上回る魔導師となったサトリが怖かった。
サトリは壊れている、と確信を以ってアルヴィレオは断言出来る。
サトリは天才だ、史上稀に見る天才だろう。
彼にかかれば食糧事情が改善され、文化水準が向上し、経済価値全てが覆される。
それが簡単に、ただ思いつき程度の技術が世界を改変させるのだ。
たとえ本人にとって取るに足らないものだろうと。
サトリにとってはこの世界全てが取るに足らないものと見られているようで、自分が価値のない存在ではないかと考えてしまった。
だからこそサトリが怖い。
何を考えているのかわからないサトリが怖かった。
だからアルヴィレオは無理矢理にでも自分から適当な理由をつけて領地へと戻った。
必要最低限の接触を避けるように。
幸い成績も優秀で最低限の出席であろうと魔導師科の評価は実力重視で試験の成績を残せば卒業出来る。
後は卒業するまでサトリと係わり合いにならないように避け、そして問題が発生した。
纏め役としての任を放棄したとも見られたアルヴィレオに、派閥内の人間は功績を挙げようと企てサトリに手を出したのだ。
そして無惨にも失敗し、その余波は魔導師は全体にも及んだ。
アルヴィレオとしては管理責任を問われようと構わなかった。
それでサトリと係わり合いにならないのであれば、むしろ進んでその座を捨てただろう。
元々ハインドはアルヴィレオに纏め役の任を与えるに辺り乗り気でなかったし、そのハインドも侯爵位から降りてうやむやとなってしまった。
今回の『今後のサトリへの対応』という最重要課題は派閥の枠を超えた取り組みだ。
たった一人の、貴族でもない少年の扱いを派閥の長たちが真面目に取り組むなど前代未聞だが、サトリ一人が世界規模の最重要人物であればこの場にいる彼らとて役不足と取られかねないだろう。
何せ未だ学生の身、高度な政治交渉など得意分野でもないアルヴィレオやアーサーに至っては門外漢、精々が表情を取り繕う程度だ。
「―――時刻となりました、会議を始めましょう」
王権派のトップ、エリザベートが司会進行を務めることとなり、会議が始まる。
アルヴィレオにとって憂鬱で気の遠くなる会議が始まった。
* * *
アッシュフォード学園における派閥抗争は国内の派閥抗争の代理戦争だ。
たとえ趣味思考性格が合おうが、主義主張目的の異なる派閥となれば縁というのは廃れていく。
この場にいる七人は、辛うじて繋がっている縁が今にも断ち切れてしまいそうなほどの状況だった。
「…アル、今回は災難だったな。
下の者が勝手に動き、挙句国家規模の大問題に発展するとは」
ラインハルトがかつてお互いが呼び合っていた呼び名を使い慰める。
二人は幼少時何度もパーティーで会っては遊んでいた仲だった。
王権派、魔導師派は派閥は違えど関係は良好で同盟関係にあり、自然と親同士の繋がりから子供の集まりも自然とそうなっていた。
アルヴィレオは庶子という事もあり、ハインドが後ろ盾をしていながらも派閥内において微妙な立ち位置にいたがラインハルトは優秀なアルヴィレオを当時から目にかけてよく声をかけていたのだ。
当時の事を思い出しながら、アルヴィレオは襟を正すと深々と頭を下げ謝罪を口にした。
「この度は殿下方王権派並びに各派閥にも大変ご迷惑をおかけした。
これも全ては私の不徳の為すところ、近々私に代わり他の者がこの席に座る事になりましょう。
今後はこのような失態がないよう誠心誠意忠を尽くす所存でございます」
先月起きた魔導師派とサトリが起こした大事件の事を謝罪したアルヴィレオに、各派閥の長が瞠目する。
今回の問題は確かに大問題だったが、アルヴィレオは魔法以外においても極めて優秀な人間であるというのがこの場における全員の認識だ。
それをアルヴィレオはさも当然のように自分が魔導師派の長の任を解かれると見ていて、思わず既に決定しているのかと驚いたのである。
そこへ錬金術派の長デイジーが手を上げる。
この場において派閥の長であろうと最上位は王権派であり、議長でもあるラインハルトへ発言の許可が必要だ。
敵対している派閥ではあるが、その誰もが聞かなければならない質問をしなければと思い、デイジーは手を上げたのだ。
幸いにして、ラインハルトはデイジーへの発言を許可する。
「…代わり、とアルヴィレオ殿は申されましたわね?
今の魔導師派にアルヴィレオ殿に代わる人材がいるか知らないのだけど、誰か知っていて?
私としては、今回の件は完全に事故という認識でみているのだけど」
「事故…といいますと?」
アルヴィレオがラインハルトとエリザベートの方へと視線を向けると、エリザベートが事情を説明する為に口を開いた。
「あれは…魔導師派だけでなく、全ての派閥を狙いにした罠だったのです。
デイジーさんの証言によれば、貴方たち魔導師派が敵対してしまったサトリさんは当時作ったばかりの魔導人形フレアの対人戦闘データを欲していました。
そこに折悪く魔導師派が罠に食いついてしまったのですよ。
言い換えれば、この不幸とも呼べる事故は中立を保っている騎士派にも降りかかっていたかもしれないというべきでしょう」
「我が派閥において、そのような慮外者はいないので心配はしていませんが……なんとも理不尽な事故があったものですな」
アーサーが首を竦めながら苦笑する、他の者も同乗した。
理不尽でもあり悪質な事故である、手ぐすね引いて待っている存在がいるのに『事故』という認識である通り、サトリという存在がどう見られているのかがよくわかる認識だ。
意思を持った災難、大方そういう見方で捉えられたのはサトリにとっては行幸なのだろうが、振り回される側としてはたまったものではなかった。
アルヴィレオもその事実を知らされて深い溜息をついた。
間違い無く自分にとってサトリは鬼門的存在なのだと思ったからだ。
「アーサーから見てどうだ、あの魔導人形を仮想敵と想定して、我が国の兵力で勝利する事は可能か?」
「十中八九全滅ですな、奇跡が百度起きればどれか一体を行動不能に出来るかどうかといったところでしょう。
軍上層部も今頃極秘裏に分析班を編成して行動を開始するでしょうが、大方自分の見立てと似たような事になるかと思われます。
…いや、出来なければ困るとも言えますな。
あんな災害と戦わされる身にもなってほしいものです」
ラインハルトはアーサーの意見と自分が見たあの災害の見本市といっていいあの状況を思い出し、眉を顰めた。
レイヴァン王国は国力こそあれ軍は脆弱といっていい、それは他国から見てもそういう認識をされていた。
栄えはしているものの軍は脆弱、軍がまともに機能していたからこそ先立っての帝国との戦争は辛うじて勝利出来たのだ。
連続してあのような戦争が起これば再編の完了出来ていない場所から瓦解するという報告書が軍情報部から宰相府へ届けられていて、国力が回復傾向にある今は軍備の再編、増強は国の急務であった。
「…アル…いや、それよりもデイジー嬢にも聞こうか。
あの魔導人形は錬金術師のそなたから見てどれほどの代物だ?」
「空前絶後の出来栄え…としか申せませんわ殿下。
幸運にもあの四体の内一体を軽く見せてもらったのですが…正直これを錬金術を十年も学んでいない者が作ったとは思えないものでした。
使用されていた材料の内、判明しているのは先日賢者様が討伐されたベヒモスの筋肉、それに魔導師派から賠償として受け取ったオリハルコン。
少なくともこの二つが使われているのは確かでしょう。
加えて、人工頭脳…噛み砕いていえば、頭の出来といえば分かるでしょうか?
賢者様の持つ最強の魔導人形【虐殺人形】のレトを基礎に更に洗練されているとサトリは口にしていました。
実際フレアという魔導人形と会話を何度もしていますが、本当に魔導人形なのかと疑ってしまうほど、人に近い出来でしたわ。
そもそも魔導人形とは…」
「…すまないデイジー嬢、そなたの魔導人形の熱意は十分伝わったから結論を述べてくれ。
加えて質問だ、宮廷魔導師の総力を以ってして、あの魔導人形を破壊することは可能か?」
研究者気質の強いデイジーの弁の回りが加速し始めた事を察して、ラインハルトが強引に待ったをかけた。
デイジーも気付いたのか小さく謝罪してラインハルトからの質問を答えた。
「結論を申し上げますと…この国の宮廷魔導師の総力を挙げようと、一体の損害も与えられないことは確実ですわ」
デイジーは、そもそも魔導人形は錬金術師における盾にして矛なのだと説明した。
加えていえば、後衛を錬金術師、魔導師とするならば、前衛が騎士であり、この場における魔導人形なのだといえば全員が理解した。
接近戦、あるいは防衛を主軸に作られた魔導人形は近接戦闘に特化しているのが常識とされている。
人工頭脳の容量の問題で魔法が使える空きがないのも問題だが、魔導人形とは本来戦闘職ではない錬金術師が逃亡するまでの捨て駒として、足止めの駒として利用するのだ。
人らしさなど本来不要で、戦闘に特化して一秒でも長く足止めするのが魔導人形の常識―――だった。
「あの性能試験を見た限り、まだ四体とも余裕が見られました。
おそらくは切り札が有ると私は見ていますが…あの場で見せないほどの切り札ですわよ?
間違いなく凶悪極まりない物に違いありませんわ。
サトリと敵対するのならば…そうですわね、大陸西部の国軍が死兵となって足止めし、宮廷魔導師たちが広域殲滅魔法を一週間絶え間なく撃ち続ければ…もしかしたら破壊出来るのではないでしょうか?
なので、誰とは申しませんが次にサトリに手を出すというのでしたら、死ぬ前に遺書でも書いておく事をお勧めするわ」
前提として、たとえ大陸西部が一丸となる事は間違いなくないだろう。
レイヴァン王国とスレイン帝国は長く因縁の関係にあるし、その隣にあるスティーヤ諸島連合国は内戦の危険性を孕んでいて強調する以前に協力出来よう筈がない。
イーブル皇国は軍こそ強力だが我が強く義にも厚い、一丸となって個人の持つ戦力を殲滅するなど非道な行為に同調する事はないだろう。
この場の話題にはないが、それこそ魔王という脅威でもない限り、世界が一丸となって戦う事はない。
「それはこの場にいない教会の人間の話かい?」
話は流れ、バルアミーが教会の名を口にした時、その場にいる全員の顔が厳しいものとなった。
とりわけヴェニスだ。
「…商業ギルドからの情報によれば、教会の一部がサトリ君を『聖人認定』をしようという話が上がっていますね。
実物を見れば呆気なく潰える話題でしょうが、世間は期待するでしょう」
聖人認定とは、教会に多大な貢献をした聖徒に対して死後何十年とかけて調べ上げられ、そして認められるものだ。
生きたまま聖人とする例は、未だ一度としてない。
そしてここ近年では、聖人は現れていなかった。
「生きた人間をそのまま聖人とするか…明らかに利用する気満々だな。
実際は金儲けと面白い事にしか興味を向けない子供だというのに…中央の連中は随分とおめでたい頭をしているようだ」
ラインハルトが吐き捨てるように教会を批判するが、それを咎める者はいない。
ラインハルトは教会があまり好きではない。
大陸西部にいる者たちは総じて中央の上層部から疎まれ左遷させられた者たちばかりで、話の合う者は幾人かいる。
左遷された者たちは優秀でいて現実をよく見極めている良識人だったからだ。
だが、彼らから聞く中央の教会の生臭坊主たちの話を聞いて、はっきりいって評価はゴブリンと同じかそれ以下となっている。
「…サトリ君は教会の孤児院にいるから、中央の上層部も彼の事を教会に属している人間だと思っているんじゃないかしら?
あの子は教会とは相性が悪いわ、悪過ぎるといっていいわね。
そもそも彼は神を信じていないもの。
何があったのかは知らないけど、相当神に恨みを抱いていると見ていいわ」
ここでようやく、口を開かなかったエリザベートが口を開いた。
実際に会話をした事のないアーサーやヴェニス、アルヴィレオを除いてラインハルト、バルアミー、そしてデイジーが深く肯いた。
サトリが前世で拷問を受けていた時、何度も神仏の名を呼んで救いを求めた事があった。
だが、有史以来啓示や予言をを与えてこそあれ、神仏の類が実際に直接的な行動を以ってして救われた例はない。
それがトドメとなり、長年抱えてきた恨みやつらみ、理不尽や怒りがサトリの中で爆発した。
孤児となってからの理不尽の連続、人間不信、道徳とはかけ離れた暴力の嵐にサトリは『救い』というものを諦めた。
殺される最期の瞬間、サトリが抱えていたのは諦観だった。
故に、サトリは宗教という『超常的な存在に願わないと生きていけない』という弱さを唾棄し、力を求めた。
魔導人形は、その最たるものといえる。
理不尽を跳ね除け、自分を裏切らず、あらゆる暴力から守り打ち砕く存在を手にしたサトリはこれでようやく人心地つくだろう。
それに茶々をかける者がいれば、間違いなく世界規模で騒動を起こす。
一地方では済まない、それこそ魔王に匹敵する脅威となって。
故に、各国はサトリという存在に注意を払った。
「…ヴェニス、商業ギルドはそれを阻止しようとしていると思ってもいいのか?」
「はい殿下、こちらとしましてもサトリ君が聖人に認定されるという不利益を見過ごす訳にはいきませんので。
赤字覚悟で本部にいる幹部たちは阻止しようと躍起になっています」
サトリが取り込まれるなどヴェニスや商人連合、そしてその人となりを知っているレイヴァン王国商業ギルド支部は考えていない。
だが、アキナイ自由都市連合にある商業ギルド総本部は強引にサトリをイウェルダ教国に連行し、その利益を独占するのではと疑念を募らせた。
歴史の常として、優れた人材の囲い込みは国でもよく見られるが、イヴェルダ教もその例に漏れずにいた。
サトリは冒険者ギルドにも属さず、商業ギルドをよく利用してはいるものの属してはいない、そして何より国にも属していない。
そこに教会が拉致したとしても、手元においておけばそれだけで各国を威圧する強力な切り札になるのは間違いない。
『教会の庇護下に置く』と公式発表でもされればそれこそ終わりだろう。
―――ただし、実現すればの話だが。
強引な拉致はサトリの守護者となった四体の魔導人形に任せればいい、後は商業ギルドで教会を抑えれば万事解決である。
「…となると、後の問題はスレイン帝国ですね。
多額の賠償金を支払った上に我が国に金を生む鶏が現れたのです、面白い筈がないでしょう。
事実、最近帝国からの入国者が今年に入ってから増加傾向にあります」
バルアミーが父である宰相アルマンドから聞かされた情報を全員に聞かせると、一様に渋い顔をした。
―――スレイン帝国、レイヴァン王国よりも歴史が古く何度も矛を交えてきた軍事国家だ。
レイヴァン王国を筆頭に軍事行動が生きがいと思われるほどに血腥く、後ろ暗い工作をする彼らは敗戦から間もないとあって敗戦後に隙を突こうとクーデターを起こそうとした反帝国勢力の撃滅に掛かりきりであった。
すぐには動かないだろうが、工作の為の下準備には時間はいくらあってもいいものだ。
「……手を拱いているばかりでは芸がないからな。
ヴェニス、王都の不動産はどうなっている?
特にサトリが住んでいる孤児院周りだ」
「そうですね…あの辺りはスラムに近いとあって空きが目立ちます。
ですので早めに穴埋めをすれば対処可能かと」
ラインハルトの考えていることが解ったのか、ヴェニスはすぐに自分の記憶から最適解を探し出すと、スラスラと返答した。
ヴェニスはすぐにこの事を父に報告して空き物件の穴埋めに対処する事になる。
そして主だった報告は終わり、他に何か報告がないかを確かめ合う一同の中でデイジーが声を上げた。
この時既に挙手による発言の許可云々は終わり、各自自由な討論の場となっていたので誰も咎めようとしない。
「…まだ先の話にはなると思いますが、夏季休講後最初に行われる『学外実習』にサトリを参加させてもいいのでしょうか?
今回の話し合いで終わるとは思えませんので、次回の場で皆様のご意見を聞かせて頂きたいのだけど、どうでしょう?」
学外実習、言い換えれば全ての学年、学科合同で行われる『軍事訓練』の事だ。
指揮官である領主科、兵站の管理を任される文官科と商業科、実戦部隊である騎士科、魔導師科、そしてその補佐をする錬金術科の計十人で構成されている。
サトリがもし参加するとなると、その部隊は間違いなく政治色の濃いものになるのは間違いない。
それとなくそれぞれが顔を見合わせ、諦めたようにため息をつく。
「各派閥の勢力が均等良くするのであれば、抜け駆けは許されないな」
「むしろ私はサトリ君のいる部隊に行きたくない、合わす顔がないからな。
というより私はその頃には任を解かれている筈だから関係のない話だが」
「当時の魔導師派の長が謝意を以ってサトリの側を守る事が誠意というものだと思ったが…アルヴィレオ、まさか会いたくない一心で言ってるんじゃないだろうな?」
「私は別に構いませんよ?
比較的文官派は彼とは仲が良くも悪くも…いや、私個人的に仲は良い方ですから協力は惜しみません」
「商人連合からはおそらく自分が出るでしょう…こちらもサトリ君とは仲良くしたいので、恩を売り、日頃の恩も返すにはいい機会ですからね」
「錬金術科は私以外誰も立候補しないでしょうからなんとも言えませんわね。
規格外の錬金術師であるサトリの技術を見られるので文句なんてないけど」
それぞれ思惑を吐露し始め収拾がつき難そうになってきたので、エリザベートが手を叩いて声を上げる。
「そこまでよ、デイジーさんが言ったでしょう?
この問題は次回に持ち越しだと。
派閥に持ち帰って慎重な候補を挙げて次回の会議で発表し合う事、いいですね?」
有無を言わせずエリザベートは全員を肯かせると、会議は終わった。
こうして、サトリの居ぬ間に各派閥は意見を交換し終え、手にした情報をそれぞれの派閥に持ち帰っていくのだった。
くどかったでしょうか?
補完的な、次なるフラグという事で書きました。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想お待ちしています。




