第13話 早速絡まれました
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
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(サトリ視点)
使い魔申請をしに事務所へと行き、申請用紙にフレアとウルスラの種族や使用目的などを書き連ねていき受付をしていた女性に渡した。
そして五分後、上司らしいひげ面の男性と共に来た受付が俺を隣の部屋へと案内すると、記載内容に嘘がないか確認させてほしいと言ってきた。
どうやらフレアの出来があまりにも人間過ぎて、俺が奴隷を使い魔として連れてきたのではないかと疑っているらしい。
流石にスライムのウルスラは簡単に審査は通ったみたいだけど、失礼な話である。
少しイラついたのでフレアの胸部を開けて魔核炉を見せて機械人形だと証明した。
胸を開こうとした際、受付の女性が悲鳴を上げて何事かと事務所から数人やってきたが、まぁ証人は多い方がいいと無視をする。
幻覚を見ているのではと魔導師科から講師が派遣されてくるしで事態がどんどん大きくなるが、フレアが魔導人形なんて一目見れば判るだろうと思う、明らかに魔力の巡りがおかしいんだから。
魔導人形に張り巡らせている魔導回路は人間と違って綺麗に整えられていて、人間のものとは明らかに違う。
それに気付けないって、そもそも魔導師としてもあんまり優秀じゃないといえた。
まぁ事務所って完全にコネの集団らしくて、あんまり優秀じゃない貴族の子息子女とかが勤めているみたいだし、能力重視じゃないのは聞いていたけどこれは酷過ぎた。
「―――それでは失礼します」
俺は相手がようやく納得して開放されるまで間されるがままでいて、十分ほど経った後に開放された。
* * *
サトリは教室へとやってくると、クラスメイトたちから一瞬だけ視線を向けられ、サトリなのだとわかるとすぐに視線を外して会話を再開していた。
一部の生徒はサトリの後に教室に入ってきたフレアを訝しんでいるが、何もしようとはしない。
明らかに隔意があるのが分かってしまい、『灰色の学生生活になりそうだな』と内心でぼやいた。
「―――あらサトリ、遅い登校ね。
寝坊にしては太陽は上がり過ぎているわよ?」
呆れを含んだ挨拶をしてきたのはデイジーだった。
サトリは苦笑しながら事情を説明した。
「フレアの性能試験とかしていたら遅くなったんだ。
その後は師匠のお店で用事を済ませて学園に来てフレアの使い魔申請をしたら人間と間違われて満足するまで調べてもらって、ようやくこれたわけ。
…フレア、こちらのお嬢さんはエプスタイン侯爵家のご令嬢でデイジー様だ。
優秀で面白い錬金術師の卵だよ」
その話を聞いていた生徒たちの目がぎょっとしていた。
この生徒たちも、フレアが『使い魔』だと思っていなかったからだ。
サトリはフレアをデイジーに紹介すると、フレアがデイジーに一礼して挨拶をした。
「お初にお目にかかりますデイジー様。
私は魔導人形のフレアと申します」
流暢に言葉を喋るフレアに、デイジーも目を大きくして驚いていた。
フレアが魔導人形だったと驚いたのではなく、その性能に驚いたのである。
魔導人形にとって、人工頭脳に書き込む術式は一般的に偏るものとされていた。
戦闘に特化させた場合、言語機能などを最小限理解出来るようにしてそのほかの機能、つまり駆動系が滑らかになるような術式の書き込み方をするのだ。
それがデイジーが見たのはまったくその一般的な錬金術師の常識を打ち破るものだった。
流暢に喋るのみならず、駆動部、つまり関節部を動かした際に一切不自然な動きを見せず、まるで人間のような優雅に一礼して見せたのである。
確かにこの出来ならば、魔導に通じる者でも騙されてしまうだろう。
「……また、とんでもないものを作ったわね?
それと…そのスライムも使い魔なの?
見たことのない色をしているけど…異常種なのかしら?」
「はい、異常種のスライムですね。
名前はウルスラっていいます、主に役割は俺の癒し担当です」
プルプルと震えているウルスラはサトリの肩で跳ねていた。
「…まぁいいわ、貴方が非常識なのははじめて会った時からそうだったし。
本当に惜しいわね、貴方ほどの錬金術師を派閥に入れられないなんて。
貴方が派閥に入れば、夢の序列一位も夢じゃなかった気がするもの」
「そもそも派閥に興味ないので、どっち道入らなかったと思いますけど?」
「夢くらい見せなさいよ、一々気に入らないわね貴方は。
ていうかその魔導人形、フレアといったかしら?
講義中使い魔といえど教室にいられると問題だから、教室から出ていた方がいいわよ」
講師が講義中サトリの背後にいるフレアがいる事で余計な騒動を起こさない方がいいと判断したサトリはデイジーの提案に賛同した。
「それもそうですね、講義の妨げになっても困るから、借りている研究室にいっていてもらおうかな。
フレア、暫く俺の使っている研究室で待機していて、ウルスラも一緒にね」
「はいマスター、どちらの部屋になるのでしょうか?」
「三階の角部屋だよ、これが鍵ね」
「では、そちらで待機しています…ウルスラ、こちらへ」
「………ゴポッ」
フレアはサトリから鍵を受け取るとウルスラを引き取って教室から出て行った。
デイジーはフレアが教室から出て行ったのを確認するとサトリと共に席に座った。
サトリの席はデイジーの隣だ、成績順に横並びになっていてこの並び方は学園の慣習のようで、サトリは『隣の視線が怖いなぁ』と嘯いた。
「それよりも貴方、本当に錬金術の講義受けに来なかったのね」
「今更あんなのやっても復習にしかならないし、それをするならもっと有意義な事に時間を使いたいしね。
卒業まであと三年しかないんだから、禁書区域の中にある魔道書読まないと学園に来た甲斐がないし」
円満な学園生活が送れない以上、当初の目的通り知識を深めればいいと思い始めているサトリは首を竦めて答えた。
「確かに、この錬金術科だと知識面で貴方の知識を上回れる者はそうそういないかもしれないわね。
何せ最高の指導者が既にいるし。
そういえば、今日からだったわね、賢者様がベヒモスを退治する為に王都を出立されるのは」
「ああ、知ってたんだデイジー様。
俺昨日知らされてびっくりしたよ。
しかもお店の店仕舞いとか置き手紙だったし、あの人自分のお店の地下室の価値にずぼら過ぎだね」
「貴族たるもの、情報収集に目を光らせているのは当然よ。
…というより、何で弟子の貴方が聞いていないのよ?」
困惑しているデイジーに、サトリはアニムスが賢者と呼ばれながらも前世の友人たち同様自分の事にしか興味のない社会性に欠けるエルフなんだと語った。
「あの人やりたい事にしか興味ないからね…今回の依頼も国内だったから渋々受けた感じだし…研究の邪魔をしたベヒモスが八つ裂きになって後日研究室の棚に素材ごとに飾ってあっても不思議じゃないね」
デイジーは賢者の怒りを買ったベヒモスが八つ裂きになっていて、後日何でもないように棚に瓶詰めにされているのを思い浮かべて顔を引くつかせた。
伝説級の魔物が瓶詰めされているというのに、それを誇るでもなく『ちょっと取ってくるのに手間取った』程度の存在扱いに魔物ではあるがベヒモスに同情してしまうデイジーなのであった。
「…ベヒモスって錬金術で使われた事あるのかしら?
倒されたのって一例だけで、他国の話でしょう?」
二百年ほど前ではあるが、勇者が討伐して以降ベヒモスの素材が市場に出たという話をデイジーは聞いた事がない。
エプスタイン家の情報網を以ってして知られていないという事は、国が丸々買い取って有効利用したんだろうとサトリは推察した。
「災厄級にもなると何だって十分な素材になると思うよ?
魔導人形に使うんだったら戦闘能力とか竜種並になるんじゃないかな、あー師匠に幾ら払えばベヒモスの素材くれるんだろ」
「お金取るのね、師弟なのに」
「取られるよー、俺とか師匠にあれこれ聞いたりして対価として特許渡したりしたし、肥料の特許料の二割は師匠に渡してるし…錬金術ってものが成功するまでお金かかるから。
まぁ、俺は守ってもらっているし色々教えてもらってるから何ともないんだけどね」
「さり気にとんでもない事言ってるわね、特許ってもしかして去年出した魔導式キッチンのこと?」
「ですよ?」
さも当然のように返したサトリにデイジーはもうこれで何度目になるのか目を大きく開いて驚いた。
サトリが肥料以前にとんでもない発明をしているのに気付いたからだ。
しかも時期的に見てサトリが錬金術を学んで半年も経っていない頃にあの特許が世に出たということは、サトリがその頃から魔法省にいる国家錬金術師クラスの実力を持っていたという事だ。
聞き耳を経てていた生徒たちもこれには驚いていた。
肥料とは違い、あの技術は錬金術を半年学んだくらいで到達出来ないほどの繊細で緻密な計算で設計された、いわば芸術品の域に達していた魔道具だったのだ。
それが錬金術を始めたばかりの、素人に毛が生えたくらいの子供に作られたとあればどれほど非常識なのか、考えるだけに恐ろしい事実に一部の生徒は現実逃避し始めた。
「あれ貴方だったのね…うちの料理人とメイドたちが喜んでいたわよ。
便利なもの作ってくれたって」
「孤児院の生活って意外と力仕事が多くって、だからキッチン作ったんですよ。
キッチンなら火加減も調節出来るから火傷の恐れもありませんしね。
むしろ今までの錬金術師の人って何であんな身近な事に気付かずにほったらかしだったんですかね?」
「単純なものよ。
貴族の錬金術師ならそもそも厨房には行かないし、平民の錬金術師なら研究に没頭して食事を作るより外で食べるから。
あと貧乏な錬金術しだと一発逆転系の発明を狙うから兵器の研究にのめりこんだりするから食事なんて栄養が取れればいいからって適当になって目がいかなくなるのよ」
「なるほど、そういう事かぁ」
サトリはデイジーの言葉に納得する。
確かに貴族ならば食事は料理人が作ってくれるからそもそも厨房の中の事を知らないだろう。
平民の錬金術師にしてもそう、金はかかるが外で食べた方が自分が作るよりも早く食べられるし何より時間の節約になるだろう、この場合も厨房に足を運ばなくなる。
そして最後に貧乏な錬金術師、これはサトリにも以前は当て嵌まったが一発逆転を狙うものがそもそも違った。
戦場で使われる兵器となれば確かに一つ一つが高価で一度成功すれば簡単に金貨の山を築く事が出来よう。
だが、前世の銃器を知るサトリからすればあまり進んで開発したくない類の発明であった。
前世の銃を取ってもそう、簡単に人を殺傷する道具を一度作ったが故の悲劇をサトリは歴史を以って知っている。
その行った非道は圧倒的火力、つまり銃器がトリガーになっている。
魔導師であれば才能がものをいう世界だ、精精が局地戦で済むだろう、平原を一瞬で焼き尽くす魔法などは限られていて、その犠牲者は限られる。
だが、銃器となれば話は別である。
あれは魔力を使わないのだ。
それが世に出てしまえば、魔導師以外の魔力を持たない全ての人間にも武装が可能となってしまう、戦争の形が変わってしまうだろう。
犠牲者は際限なく増え続けるだろう、何せ弾薬があれば幾らでも攻撃可能な武器なのだ、魔力が尽きて回復に時間がかかる魔導師より遥かに有用だろう。
更に追究すれば、ここは異世界である。
魔法という概念がある以上、どんな変化が起きるかサトリにも予想出来ないところが多々あり、だからこそサトリは最初から兵器の開発を除いて生活に不可欠な魔道具を作る事にした。
幸いキッチンにしても孤児院では必要だったのですぐにアイディアが浮かんでいたから形にするのは簡単だった。
アニムスに特許の権利を譲渡した以外、誤算でもなんでもなかったのである。
「兵器関係はあんまり作る気になれないかなぁ」
「あら、貴方の事ならこっそり何か作っていると思ったのだけど、作っていないの?」
意外だといわんばかりの目をしたデイジーに、サトリはため息をつきながら肩を竦めた。
「作ったが最後国に徴発されそうな代物がアイディアにあるけど、趣味じゃないし作る気はないですね」
「趣味じゃないからって作らないなんて贅沢な頭しているわね貴方って」
「…ありがとうございます?」
「褒めてないわよ!!」
「知ってますよ?」
吠えるデイジーに茶化すようなサトリのやり取りに他の生徒たちは何であの二人があそこまで気安い仲になれているのか心底不思議がっていたという。
そんなやり取りの中、算術の講義をする為に講師がやってくる。
生徒たちは会話をやめて自分の席へと座り、サトリもデイジーも黙った。
そんな中、一人じっとサトリを見つめている者がいた。
それは真っ当な感情ではない。
嫉妬や憎悪、殺意といったドス黒い感情だった。
読んで頂き、ありがとうございました。
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