第10話 早速お呼ばれ
()=○○の心の声です
《》=サトリの心の声です
*5/6ケリィの総合成績一位を削除し、文官科一位に統一しました。
(サトリ視点)
試験も終わって早一週間、俺は新築された孤児院(全面俺出資)でふかふかのベッドで横になって合格通知書を眺めていた。
当然といえば当然だけど、俺はアッシュフォード学園の入学試験に合格していた。
錬金術科で堂々の一位だ。
そして隣で同じく合格通知をもらっているケリィの成績がどういうものなのかといえば、やはりというかなんというか、文官科一位という孤児じゃ間違いなくありえない成績だった。
やはり孤児になる前詰め込み教育していただけあってか凄まじいものがあるな。
制服も届いたので早速内側に金に物を言わせて護符の原材料を買って防御系と状態異常系を自動で発動する護符を作り縫い付けた。
裁縫スキルが上がって、最近こっちでも食べていけるんじゃないかとちょっと思っている、ビーチェより上手くなって恨めしそうな目で見られているけど。
それから一週間、受験勉強が終わって師匠の店で修行兼店子に励んだり、新しい技術を何にしようかと選別及び検証をしたりと楽しく過ごしていた。
だがしかし、平穏に過ごしていた俺のペースは呆気なく崩された。
「…お茶会…ですか?」
「はい、第四王子ラインハルト様より豊穣の錬金術師殿を王子の主催されるお茶会に招待されるということで、こちらの招待状をお届けに参りました」
嵐がこっちに向かってくるのをさすがに軌道修正する力はまだない。
使者としてやってきた人にどんな服を着ていけば良いのか、無作法なんだけど無礼打ちされないのかとか根掘り葉掘り聞いて―――正直この人も貴族の出かと思ったけど平民の出だった。無礼打ちされなくて良かったよ―――命の危険性が無い事を確認してから招待状を受け取った。
いや、だって招待されたら実は別の場所で闇討ち準備してる怖い人たちとエンカウント…なんて怖いからさ、使者の人の心の内側全部覗いたよ、知りたくもない性癖も知っちゃったけど。
結果はシロ、この人は第四王子の側近の一人で誠意を見せる為にこの人を送り込んできたらしい。
目的はもちろん俺の勧誘だ、表向きはお茶会だけど錬金術師派から持て余され、宙ぶらりんな状態の俺を手中に収めたいようだ。
あわよくば次の王様になろうという野心を持っている彼にとって、俺はいわば内外に彼の公平性を見せ付けるアピールにもなっているようで、実力さえあれば平民だろうとのし上がれるという餌をちらつかせる訳だ。
中々考えているなと舌を巻いた…まぁ、そもそも俺が受け入れればの話だけどな。
残念ながら俺は受け入れる気は欠片どころか微塵もないのでそもそも成立しない話だ、すごくどうでもいい。
そういう事したいならケリィにも声をかければいいのに、俺よりも成績優秀なんだから。
シスターアニョーゼに事情を説明すると『おめかししましょうね』とピントのずれた喜びようで、反応に困った。
* * *
(サトリ視点)
おめかしなんてなかった、いいね?
アニョーゼに送り出された俺は七三分けを迎えられた馬車の中で適度に崩し、馬車から見える王都の風景を眺めていた。
学生時代、ちょっと高かったけど馬車に何度か乗ったことがあったので、その頃を思い出した。
まだ俺身長が低いからなんともいえないが、高い位置から見下ろすというのは中々面白いものがある。
正面には俺を退屈させない為に第四王子から送り込まれた二十代の執事―――セバスチャン…セバスチャンだった、ちょっと名前に感動してしまった―――を何度か見返す。
柔和な顔立ちで際立った美形という訳ではないが人を安心させる顔つきというのはこういう事なのだろう。
内心も俺の事を蔑むでもなく、あくまで賓客として王子が俺に対して不躾な事を言い出さないか心配しているという、出来た人物である。
まぁ善人ではないが。
彼は王国に、とりわけ王族に忠誠を誓っているあたり目の前にいる俺が国の害になれば容赦なく襲いかかってくるだろう。
優しさと厳格さを併せ持つ、人として尊敬に値する人種だ。
こういう人間もいるから、俺も人間不信止まりなんだよなぁ…救われるという何というか、ほっとする。
「サトリ殿、何か私の顔に何かついていますか?」
そんな目で見ている事に内心ちょっと黙り込んでいたことに焦っているセバスチャンになんでもないですといって首を横に振る。
「馬車に乗るなんて久しぶりなんで、ちょっと気分がよかったんです」
「以前にも馬車に乗ったことが?」
「ええ、ずいぶん昔ですが。
歩いている時と馬車との目線が違うので、楽しかったんですよね」
「そうですか…失礼ですが振舞いからして、もしやサトリ殿はイーブル皇国では階級の高い家の出身の方なのですか?」
セバスチャンから馬車に乗れるのは特権階級の人間が大半で、戦災孤児な俺が昔乗ったというのが気になったんだろう、思わず口走ったことに後悔する。
「…とんでもない、自分はしがない中流階級の、ごくごく平凡な両親から生まれたちょっと錬金術に長けた子供ですよ。
馬車といっても、こんなガラスつきの馬車なんかじゃなくて、乗り合いの馬車の事を言ったんですよ。
勘違いするような言い方をしてすいません」
口を滑らせたのは拙かったが、我ながらうまくかわせたと思う。
ていうか、振る舞いって言うけど俺大人しくしていただけなのになんで疑われるんだよまったく。
これだから優秀な人間は困る、中身がグルグル巡っていて面白くてたまらないね、怖いけど。
…でも、この面白そうな事を探している時にあの最悪な失敗をしたんだから、いい加減面白いからってだけで事を騒がせることは控えないとなぁ。
止められるだろうか…なるべく、衝動を抑えるとしようかな。
「そうでしたか、それは失礼しました
(さすがにこの短期間でこの少年の素性は分かりませんでしたが…やはりきちんとした教育をされているように感じますね。
所作や物腰、態度に至るまでまるで貴族の若君のようで…どこぞの貴族の落胤となると調べるのに時間がかかりそうです。)」
あぁ、結局セバスチャンは俺が実は身分を隠している良いとこのお坊ちゃんの落胤なのではと疑ってしまった。
そもそも両親自体この世界にいないから探しようもないけどね、イーブル皇国行っても無駄足ご苦労様で終わっちゃうよ。
…肉体的な肉親に関してもそもそも俺が生きているなんて想像していないだろうし探しもしないだろう。
無駄足無駄骨を踏むだろう間諜たちに内心舌を出して笑いながら、俺はセバスチャンとの会話を楽しみながら王宮へと向かっていく。
二度目の王宮はやはり威圧感がくるものもあるが、感動というのもどこか薄れたようで、縮こまらずに辺りをきょろきょろと見回してしまう。
まるでおのぼりさんの様だが、実際おのぼりと思われても仕方ないだろう。
擦れ違う貴族から俺の事を知っている貴族や文官たちの心の声が聞こえてきて自分の上司や同じ派閥の貴族へ伝えようとする意図ばかりで、俺の事を利用する者だらけだなと呆れてしまった。
まぁ王宮の中で俺は連中から見れば金のなる木だからな。
どうにかして接触して蜜を吸おうと画策しているんだろう、そのうち寄付の話を持ちかけたりして俺と接触したり…なんて奴がいそうだし、警戒しておくに越した事はないな。
案内された先は開けた庭で、おそらくは王族の個人的な空間だ、数人のメイドや四方の端に近衛騎士がいたりと最小限の警備なのに少し驚いた。
「待っていたぞ、豊穣の錬金術師」
その中心にいたのは黄金色の髪を肩まで靡かせた少年だ。
その眼力は正直子供とは思えないほど英気と烈気に溢れていて、正直身震いするものがある。
顔立ちもさっぱりとした美少年ではあるが、眼力が彼の存在感を更に如実に表していた。
第一声にしても活気に弾んだ声音で自信に満ち溢れていて、将来は間違いなく大成するだろうと思わせるに十分だった。
なるほど、これが…。
「…おい、黙ってないで挨拶しろよ」
と、横から将来の覇王と呼ばれそうな少年との邂逅に水を差したのは、目つきの悪い俺よりも頭ひとつ分ほど背の高い少年だった。
体つきと腰に佩いている小剣からして、彼の護衛なんだろう。
なんというか、覇王少年とまるで反対だ、目つきの悪さが護衛君の印象の悪さを際立たせていて、せっかくパーツはいいのに子供っぽさがまるで見られない、性格の悪そうなクソガキである。
「ああ、失礼しました。
お初にお目にかかります、ラインハルト王子殿下。
サトリと申します、姓はありません」
普通ならここでおべっか丸出しな美辞麗句でもやるんだろうが、なんとも思っていない相手にしても意味ないからする気はない。
覇王少年あらため―――レイヴァン王国第四王子ラインハルトは面白そうな目で俺をしげしげと眺めていた。
「(へぇ、俺に対して物怖じしない胆力はあるみたいだな。
父上はこいつに関してはちょっかいをかけるなって言われたけど、これほど優秀なら欲しいと思うのは当然だろう?
さて…どうやって跪かせてやるかな…。)」
ラインハルトはどうやら生粋のドS少年のようだ、嗜虐的な心の内が若干どころじゃなく表情に出ていて、正直ドン引きである。
帰りたいなーお腹痛いなー。
「座るといい、俺のお気に入りの茶を振舞ってやる」
「恐れ入ります、光栄です」
心の底から思ってもいない事を口にしてしまったが、まぁ紅茶は好きだし目の前の茶菓子も美味しそうなので、その点だけは興味深々だ。
そして出されたのは…何故か湯飲みと急須、そして前世でもよく飲んでいた緑茶と思われるの茶葉だった。
ああ、この世界にも緑茶ってあったんだな。
すごいなこの子、その年で緑茶の味が分かるなんて…実は長命種が化けていたりしないよな?
俺も緑茶は好きだけど十歳そこらで味利きとか出来ないぞ、極端な味なら分かるかもだけど…これが生まれの差という奴か。
しかもこれってばイーブル産の一番茶らしく、イーブル出身と思われている俺の事を配慮した作戦のようだ。
ラインハルト発案のようで、大人顔負けのもてなし方である。
実際ラインハルトもこの緑茶は気に入っているようで、演技じゃないから余計に行動が様になっている。
カリスマ性の高さといい、なんというか絵に描いたような王子様だな、恐れ入るよ。
上のお兄さん方もこれに匹敵するくらい優秀なんだろうか…ちょっと気になってきたな。
「…美味しいです、爽やかでいてほんのり甘味もあって、お茶菓子に合いますね」
「そうか、振舞った甲斐があったな。
故郷の味を思い出せたならよかったのだが」
「流石にこれほど上等なお茶は飲めませんでしたが、懐かしいと思えたのは確かです。
お心遣い、感謝いたします」
まぁ、留学生時代は故郷が遠過ぎて輸入品を買うのもきついというのもあって飲んだのは本当に久しぶりだ。
イーブルじゃなくて前世の懐かしさだが、感謝以外の言葉もないのは確かだな。
参ったなこりゃ、断るのも一苦労だぞったく。
「それで…今日呼ばれたのは一体どのような御用向きだったのでしょうか?
生憎と、自分は殿下とは顔も合わせた事もない筈でしたが…それ程気になるものがあったのですか?」
正直子供だと思わず、子供の形をした大人だと思うことにして、先手を仕掛ける。
それをラインハルトはははっと笑うと、面白そうなものを見る目で口を開いた。
「ああ、俺とお前は初対面だな。
お忍びで王都を歩き回った時に一方的に見てはいるが」
なんという衝撃的事実。
まぁ、貴族でもそういう事あるらしいし不思議じゃないといえばそれまでだが、ラインハルトの場合絶対に市井巡って優秀な人材探しとかしてるんだろうなぁとしか思えなかった。
その時に見られたのなら、普段は異能を最小限にしか使っていない俺じゃあ気付かないわな。
「そうでしたか、おかしな行動をしている子供と見られていないか不安になってしまいますね」
「ああ、町中から生ゴミを集めている子供がいると聞いてこっそりと尾行してみたのだ。
中々見ものだったぞ」
うっわ、そんな頃から見られてたのかよ、下手したら国の上層部並みの情報収集力じゃん。
うーん、実は気付いていないだけで忍者みたいな奴いたりするのかもしれないな……ああ、いたな。
茂みの中にいるよ、気をつけないと。
まぁ、お茶にも毒は入っていないし今回は様子見程度なのかとは思うけど、用心に越した事はないかな。
茶菓子がうまい。
「それはまた…お目を汚してしまい、申し訳ありません」
「俺は錬金術に造詣がそれほどないから、変な事をするお前をただ見ていただけに過ぎない。
結果的に俺の想像を超えるお前の偉業を目の当たりにした俺も思い出した時流石に身が震えたな」
「…偉業、ですか?」
「そうだ、偉業だ。
当然だろう、それまで農作物など天候の良し悪しや干ばつ、他には蝗害などで収穫量が左右されてきたという常識を、土地の改善や細かな配慮で大豊作ともいえる収穫量を実現させたのだ。
俺も実際に見てはいないが、報告をした者は興奮しきりだったぞ?
王家御用達の商人なぞまるで『黄金の絨毯』を見ているようだ、とまで言ったそうだ」
「それは…光栄です」
興奮して語るラインハルトに、俺はそりゃ税収が増えて良かったね位の感想しか浮かばない。
黄金の絨毯ねぇ…なんとも詩的なことで、俺としては金儲け出来てラッキーくらいにしか思ってなかったけど、まぁそれでやらかしてるからなぁ。
…植物紙も出したら確実に一波乱ありそうだし…師匠に何割か出す代わりに防波堤になってもらおうかなぁ。
「まぁ、お前は孤児院の再建や食卓事情を変えたかったのが目的だったから、そこまでの思惑はなかったのだろう。
精々が大金になって儲け儲け、と言ったところか」
「……そこまでお気付きでしたか」
…怖いなマジこの王子様、流石はあの腹黒タヌキ…もとい、あの王様の子供だ。
「そして父上に認められて一年早く学園へ入学…しかも錬金術科では二位のエプスタイン家の次女を圧倒的に突き放しての歴代最高得点を叩き出しての一位だそうだ。
大したものだ、これほどの話題性を持つ者など、ここ最近ではいなかったからな、宮中でも持ちきりだぞ?」
へぇ、具体的な点数はあの通知にはなかったけど、そんなに実技の方は凄かったんだ。
ということは、錬金術科一位は実技のお蔭な面が高いっていう事なのかもな。
遠回しに『お前一般常識どうなってるの?』って言われている気分だが、まぁ転生してまだ二年も経ってないし、これくらいなもんだろう。
入学しても専門性の高い錬金術科は一般常識なんて最低限、やるとしても高度な計算式をする程度、それにしたってこの時代の数学はまだ発展なんてしていない、高等数学なんて夢物語である。
なので別にそこまでする必要はない、近々記憶を引っ張り出す魔法が使えるようになるし、問題ないだろう。
「そうでしたか、それなら同じ孤児院にいるケリィにも同じことが言えるのでは?
文官科一位の成績でしたよ?」
その言い回しならケリィにも当てはまるだろう、孤児ではあるがケリィは商業ギルドでも将来有望とされていた麒麟児だ。
文官になると聞いた時の商業ギルドの面々はお通夜状態に直行したくらいだからな。
貴族にイジメられても傷一つなく過ごす為に、俺と同じだけの護符をつけているから学生生活はまぁ大丈夫だろう。
肉体的には、と注釈はつくけど。
俺もイジメは何度かされた事あった、何せ前世も孤児だったからそれをあげつらわれて笑いものにされた…なんてな。
もちろん報復はした、首謀者の奴には精神的にも社会的にも潰したし、関係者も根こそぎ引き篭もりになるレベルのトラウマも残した。
いやはや、あれは中々骨が折れた。
大企業の御曹司なんて潰すなんて初めてだったから、ちょっと首謀者君を軽くストーキングして精神構造を徹底的に洗って文化祭の時に彼の『ちょっとしたお遊び』をムービーでダイジェストで流したのはいい思い出である。
モザイク修正大変だったよ、編集失敗しまくって修正ずれていたけど。
このちょっとしたお遊びというのは一般的に軽犯罪から重い犯罪行為までレパートリーは豊富だったのでこれが証拠になって彼は逮捕起訴された。
今頃実刑喰らって臭いメシをブタ箱で食っているだろう…あちらとこちらの時間の流れが同じならだけど。
最終的に大企業の株が大暴落して外資系にそっくり買収されたから被害は最小限に留めた、従業員は素行不良や成績不振な社員を除いて首を切られていたが、まぁそれは俺関わってないしどうでもいいか。
まぁ、今回はお貴族様相手なので慎重にならないといけないんだが…正当防衛って適用されるものなんだろうか?
「…ああ、あの男か女か判別し辛い奴な。
あれはもう文官になると決めているんだろう?
確かに孤児でありながら並み居る貴族、そして王族で教育を受けた俺たちを軒並み抑えて主席合格して見せたのは驚嘆したが、それはあくまでも成績の面というだけだ。
あのような試験など所詮は記憶力とそこそこの応用力があれば何とでもなる、それでもあの成績は実際見て笑ってしまうがな。
話が少しそれたな、つまりあいつの能力も確かに良いがまだ実績がない。
確かに目を見張るものもあるが、あいつは王権派ではなく文官派だ。
それを掠め取るとなると将来的に文官派筆頭のケルヴィン公爵家にケンカを売る羽目になるからな、お前のようにはいかないのだ」
何とまぁぶっちゃけてくれたものである、ケリィが聞いたら絶対にキレてるな。
にしてもケルヴィン公爵家か…文官派のトップは公爵家なんだな…ふむ、序列は今年二位になる可能性が高いと、去年が三位だったから順当にいけば普通に繰り上がるだろうな。
ていうか、文官って事は成績凄かったんだろうなぁ…錬金術師派ってどうやって二位維持していたんだよ、謎である。
「なるほど、やっぱり本題はそれでしたか。
錬金術派から不干渉をされて宙ぶらりんな状態な自分を殿下が手に入れると」
「最初から気付いていたくせによく言う、鏡を見せてやろうか?」
「結構です、身嗜みには来る際に気をつけているので、何もおかしなものは見えませんよ?
それよりも、殿下も鏡を見られてみては?
とても楽しそうに見えます」
「ははは、それはそうだろう。
欲しい者が目の前にいるのに楽しくないはずがないからな」
「そうですか、自分は生憎と誰かの下にいようとは思いませんので、他をあたってください」
「俺は一度狙った獲物を逃がす気はないぞ?」
獲物認定されちゃったよ、やだなぁ肉食系女子も嫌だけど肉食系男子に迫られてもちっとも嬉しくないよ。
見た目子供だけど中身覇王だし、可愛げが無いにもほどがある。
「おかしいですね、陛下に自分の事にはちょっかいをかけるな…みたいな話があったと思ったんですけど、殿下はそのお言葉に異があるという事なんですか?」
まぁ、ここでやられる訳にもいかないので反撃はする、ただぶら下がっている餌じゃないんだよ俺ってば。
国に飼われるのなんて真っ平ゴメンだ、あっちいけったく、しっしっ。
「ほう、孤児という割には中々いい耳を持っているじゃないか?
出所はお前の師である賢者殿か?
(ちっ、こいつ知っていたのか…どこで漏れた?
あの時の会話は兄上たちもいたし信頼できる近衛騎士やメイドたちしかいなかった。
どういうことだ…?)」
「まさか、師匠はその手の事に殆ど興味持っていませんよ。
耳に関しては…まぁご想像にお任せします」
混乱しろしろ、んでもって早いところ切り上げてくれ。
ついでに諦めてくれたらもっとラッキー、ていうかしろ、してくれ、お願いだからほっといてくれ。
この絶対王政バリッバリの王国で平民が王族に気に入られるとか騒動の元なんだって気付けよ人の迷惑考えろって。
「…おい、無理矢理吐かせても良いんだぞ?」
ああ、そういえばこの目つき悪いガキもいたっけ、面倒だな。
「はぁ、その時は前みたいに師匠が出張ってくることになりますよ?
このお呼ばれ、当然師匠にも伝えていますし。
師匠が怒ったところ見たことないですけど、師匠が止められるのなら拷問でも何なりしてみればどうです?
まぁ、貴方では僕に触れる事すら出来ませんけど」
制服のボタンを少し外して内側をガキに見えるようにしたら、ラインハルトと揃って目をぎょっとさせていた。
ふはははは、驚いたか、それもそうか。
「俺が開発した新型の護符です、これがあればどんな物理的、魔法的な攻撃や妨害も結界が自動で防いでくれるという優れものでして。
上級魔法はもちろん、上級冒険者の本気の一撃を何度受けても防ぎ切っています。
この城から出て、師匠の下までいくには十分でしょう?」
加えて結界の中から攻撃できるから魔法を安全に撃ち放題だ。
完全封殺である。
「…今度からお前を呼ぶときは手荷物検査が必須だな」
「その時は腹痛になってお断りするので、諦めてくださいね」
ここではじめてため息をついたラインハルトは忌々しそうに俺を睨む。
だがしかし、俺ってばそんな覇気の薄れた睨みっぷりじゃ全くもって怖くないんだよね。
最初の時の迫力で睨まれたら少しはたじろいだかも知れないけど、へこんでいる所で睨んでも負け犬の遠吠えっていうか。
そもそも子供であろうと身体検査とか手荷物検査しなかったそっちの落ち度だからね?
俺を怖がらせたいのなら、俺が拷問を受けていた時の精神状態にまで落とし込まないと。
「…今日はやめだ、今度はもっと考えてお前を呼び出すから覚悟していろ?」
「諦めてもらえないんですね、残念です。
どうしてそこまでして公平性を内外に見せ付けて王位継承権を上げたいのか知りませんし興味もありませんが、正直自分は派閥抗争に興味ないしどうでもいいのでどこの派閥に誘われても組しませんよ?」
しれっと王子様の目的を暴露させると、何故それを知っている、みたいな顔をして睨んできた。
いや、だからもうそれは飽きたってば。
四方にいる近衛騎士の人らが段々と近付いてきているが、正直怖いとは思わない。
まぁ、原因は俺なんだけど。
茂みにいる忍者っぽいのを一瞬だけ睨み、俺は王子様をねめつけた。
「俺はただあの学園には錬金術を学びに行きたいのであって、王宮の縮小版みたいな派閥抗争なんて非効率的な事したくないんですよ。
陛下あたりは自分の人柄をどうやら知っているみたいですし、自分の性格上放置して自由にさせた方が国益になると見ているからああして殿下方に声をかけたんだと思いますよ?」
不愉快だけど、あの狸は俺の人柄を知ってるからな、利用させてもらうか。
「それでは今日はこれで。
また学園でお会いしましょう。
何かご入用でしたら王族の方々限定で格安で御符か魔道具でも贈らせていただきますので、どうぞ申し付けください。
では」
席から立つと俺はラインハルトに一礼し、背を向けて中庭から出て行く。
背後からは『少し静観するとしようか』といまだ諦め切れていない第四王子の心の声が漏れていて、最大派閥からの接触は少しは控えられるだろうとほっと一息ついた。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想ご指摘お待ちしています。