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異世界在住早二年

 この異世界に跳ばされて、後悔をしたことなんてないつもりだった。


 だから、今日この日が初めての後悔になるのだろう。





「貴方のそんな声は知らないわ!」


 つい私は声を荒らげて叫んでしまった。この世界に来て困っていた私をずっと支えてきてくれたクリストファーに、初めてそんな意見をした。


「ですが……」


 彼は困った顔をしている。


「今さら反論されても困るのよっ!」


「そんなことを仰られましても……」


「何よ、嘘吐き! 私の味方だって信じていたのに!」


 腹が立って、私は会議室に資料を置き去りにして部屋を出た。





 自分に与えられた部屋に戻り、ドアをきっちりと閉める。


 悔しかった。やっとこっちの世界での生活基盤が整うと思っていたのに。いつまでもクリストファーに頼っていたらいけないと思ったから、自立できるようにと頑張ってきたのに。


 窓からテラスに出る。見えているのは御城下だと教えてくれたのはクリストファーだった。


 街の明かりは疎らだ。日本と違って電気が普及しているわけじゃないので、どこもかしこも暗い。


 見上げれば月が浮かんでいる。今月は二回目の満月だ。


 ブルームーンって言葉、こっちにはあるのかな?


 ふと、そんなことを思う。





 ここが異世界らしいと気付くのに、時間はそこそこ掛かった。金髪碧眼の人々が流暢な日本語を操るのを不思議には思ったが、そういう場所もあるのかもしれないなどと受け入れてしまったから、違和感を覚えるのをやめてしまったわけだ。


 その後、切り傷を負った私をクリストファーが見つけ、この城に連れて帰り世話をしてくれたのであるが――。





 浸っている場合ではなかった。私はため息をつく。今後のことを考えねば。


「サクラ」


 声をかけられて振り向くと、さっき置いてきたクリストファーがいた。


「乙女の部屋に勝手に入らないで。貴方、そう教わらなかったの?」


 彼は私より二つほど年下の十八歳らしいが、西洋人系の顔立ちにしては幼い。次期城主だそうだが、頼りなく感じるから私はいつだって強気だ。


「――サクラ、君はどうして僕が反対に転じたのだと考えているのです?」


 彼は私の問いには答えなかった。彼に問われて、私はすぐ返す。


「それは貴方の気が変わったからでしょ?」


 裏切り者だと罵るつもりで告げると、クリストファーは悲しげな表情を浮かべた。


「気が変わった理由には、意識は向かなかったのでしょうか?」


「え?」


 理由と言われても何も浮かばない。


 悩んでいると彼が近付いてきた。テラスにいた私は手すりまで追いやられる。手すりの向こうはガーデンだ。落ちたら、多分ただじゃ済まない。


 見上げる位置にクリストファーの顔があった。出会ったときよりも背が伸びている気がする。


「君を手放したくないのです」


 告げて、彼は寂しそうに微笑んだ。


「ですから、君の事業には手を貸せません。貸すとするなら、僕の妻になってからです」


「……はい!?」


 口付けをされそうになったところで、彼を突き飛ばして走った。


 行き先なんて決まっていない。でも、距離をおきたい。





 異世界在住早二年、私の未来はどこにある?



《了》

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