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異世界武士物語  作者: 源因幡介利貞
第二章 神を捜すは山海の地
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しぶとい奴

 三郎太は夢を見ていた。


「サブロータ殿……サブロータ殿……」


――む、八郎かこんな遅くに何をしに来た。


 やってきたのは知り合いの子である八郎だった。齢は十二。弓に長けているが、剣も修めたいと思い、三郎太を師と仰ぎ稽古を頼んでいる。


「……」


――稽古にはまだ早すぎる。せめて日が出てから来ぬか。


「そう……て、これ……から……ね」


――ええい、もっとはっきりと喋らぬか。……さてはお主もまだ眠いのだな。ならばここで朝まで寝るが良い。寒ければこれを貸そう。


「……」


 ――剣の道を志すのも良いが、弓もおろそかにしてはならぬぞ。一芸に秀でたものでなければ天下に通じぬ。奉公もままならぬ。


「よく……がら……れるね……」


――しかし、何故だかお主の声を聴くのも懐かしい気がする。もう少し語ろうか。そのまま朝を迎えても差し支えあるまい。戦になれば敵は我らの寝るのを許してくれんのだ。丁度いい鍛錬よ。


「……」


――あぁそうだ、剣よりもまず教えておかねばならんことがあるのだ。八郎よ、身分にかかわらず、人として常日頃気に掛けなければならないことがある。それはな、父母への孝行だ。お主はまだ幼いからよくわからんかも知れんがな、世の摂理として、孝行心が起きた時分には既に父母はいないものなのだ。ましてや己が先に無くなりうる。父母だけではない、お主が世話になっている人全てに常に真心を以て接するのだ。そうでなければ必ず後悔することになる。


「……こと……んないよ」


――なに、わからんだと。いや、つまりはだな……う〜む……、確かに言われてみれば俺もよくわからんな。何故だか伝えなければならぬ気がしたのだが。むしろ俺もできておらぬし、いや、だからこそ後悔したと……うーむ……。


「……」


――まぁよい、今から気に掛ければ良いのだ。お主はよくよく俺の姿を見て手本とすべし。


「そ……かな……しょ?……あっ……きた……あね!」


――待て、何処に行く。まだ少し話すことがある。



「さ、三郎ちゃん……?」


 三郎太が目を覚ますと目の前にはスミレの顔。


「……お主も死んだか。足が悪かったか」

「さ、三郎ちゃん……!」

「他はどうだ、まさか蚩尤めが約束を違えたか」

「み、みんなぁ!!! 三郎ちゃんが起きたぁ~!!!」


 言って三郎太に飛びつくスミレ。


「ぐっ……、や、やめんか……」


 全身を襲うきしむような激痛に、三郎太も思わず苦悶の声をもらした。



「バカスミレ、絶対安静だって言ったろ」

「ごめんなさい……」


 スミレは拳骨をくらいしょんぼりと項垂れていた。

 いつもの四人に一人多い。大人の女だった。崑崙の女性の普段着とは異なって、作務衣に似たものを着ている。


「お主は……」

「あっ、この人はマキさんと言って、私たちの先輩にあたる元巫女の方です」

「そうか、や、見苦しい姿を……」

「今更見苦しいも何もあるか。私はお前の腹の中身まで知っているぞ。それにお前が寝ている一週間ほとんど世話と治療をしてやったんだ」


 とんでもない恥辱を受けた感があるが、三郎太はそれほど気にならなかった。それよりも、


「一週間、一週間もか……」

「あぁ、正直これで目がさめなかったらダメだったね。よくわからん薬草の贈り物に感謝しな」

「なんだそれは」


 ――薬草の贈り物? 治療した者のあずかり知らぬところで俺が助かったというのか。


「いやな、三郎太さん。一昨日なんだけどな、朝私が様子を見に来たら三郎太さんの枕元に大量に草木が積まれててさ、汚い字でなんか書いてあるけどよく読めないから仕方ない。草木を調べたら全部高山とか、荒れ地とか、砂漠とかそういう危険な場所で採れる。高価な薬草で、びっくりしたけど三郎太さんを救うにはそれしかないし、使ってみたんだよね」


 アザミが不思議そうに説明する。


「む、ふーむ。そうか、いやしかし、薬草とは言うがあの傷はそれでどうにかなるものではあるまい」

「そこで私なんだよ」


 マキが出てきた。


「私は連合の大聖堂に潜ってた時に治癒魔法を習ったからな、自慢じゃないが、もう少し在席していたら聖女指定を貰えただろうくらいには使えた。感謝しろ」

「あぁ……かたじけない」


 治癒魔法、聖女、勿論思い出すのはマリアのことだった。


「お主らの怪我は、良いのか」

「一番ひどかったスミレでももう治ってるのよ。あんたよ、一番最後は」

「そうか、それは重畳」


 不思議と自分よりもこの娘達の身の方が心配になった。それもそうか、この世界で我身を思うは我ばかり。父母も兄もいないのだ。この四人とはわけが違う。三郎太はそう理解した。

 そこで三郎太は重要なことを思い出した。


「蚩尤は逃がしてしまったが。あれはよかったのか」

「……正直に言えば不安はあります。もしまたあれが襲ってきたらと思うと……。でも、なんだか大丈夫な気がするんです」

「記録に聞く炎はあんな理性的じゃあない。きっと事情があるんだろうが、ま、今はいいさ。私はもう疲れたから寝る。お前らも病人に構いすぎるな」


 マキはそう言い放ってさっさと出ていった。


「そうね、私達も行きましょう。三郎太さん、何かあればこの鐘を鳴らしてくださいね」

「あぁ」

「絶対安静だぞ! わかったな!」

「見に来た時に起き上がっていたら張り倒すから」

「うぅ……さっきはごめんね三郎ちゃん……」


 本当のことを言えば、スミレ以外の三人だって大声を上げて喜んで三郎太に飛びつきたかったが、スミレが先んじてそれをしてしまい、マキの叱りを受けたのでタイミングを失ってしまいできなかった。


「あぁ、またしばらく世話になるな」


 四人を見送った三郎太、視線を横に向けてそこにある臣下を見つめた。


「お主らも良く休め、ご苦労だった」


 三郎太はもう生きながらえてしまったなどとは思わない。唯々、三郎太は生きて再びあの四人に会えたことと逆安珍を取り返せたことに、この上ない幸せを感じて再び眠りに入った。


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