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異世界武士物語  作者: 源因幡介利貞
第二章 神を捜すは山海の地
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盗まれた逆安珍

 街道に一際目立つ男がいる。男の姿は小袖に袴、頭には笠をかぶり、肩から脇腹にかけて紐を回して、荷物を背中に背負っている。

 それだけならば、評価は珍しい服装の男に留まるだろう。この男が目立っているのは他に理由がある。

 なんといってもこの男、清浜三郎太はあろう事か無精髭を生やし、今にも人を殺しそうな幽鬼のような顔つきで歩いているのだった。


「おのれ盗人……出て参れ……盗人……」


 盗人とは一体どういうことか、三郎太を知っているものならば、その姿を一目見ただけで察しがつく。

 三郎太が今腰に指している刀は一本のみ、一尺九寸の脇差、和泉守兼定だけだった。

 それでは三郎太が愛刀、蛇切逆安珍はどうしたのか。その話は三郎太にまだ無精髭が生えていない頃に戻る。



 ウェパロスの街から出立し、途中ウェパロスと同じか、それ以下の規模の町に寄りながら北東のアヅマを目指して数日、三郎太はある街で笠を買い求めていた。


――どうにもこの頭では人々の目を集めて勝手が悪い。この際だから月代を伸ばして総髪にしてしまうか。


 そう考えた三郎太は、頭髪がみっともなくない程度に生えそろうまで、笠を被り旅を続けようとした。

 笠を買い、店を出た三郎太は露天の老人に声をかけた。


「おい、ここから次の町までどれくらいかかる」

「んん~~~今からじゃ~もう夜になっちまうな~明日の~朝にここを出れば~夕方には着くだろうよ~」

「この町で一番安い宿はわかるか」

「へへへ、この町で宿なんて2つしかないし~どちらも一緒さ~向こうの通りさ~」

「そうか感謝する、おい、これはいくらだ」

「100エ~ン」

「ならばこれだ」

「はいまいど~」


 一応礼儀として、よくわからない果物を買い、三郎太は教えられた宿にむかった。



「むむむ……」

「なんだい、金が足んないのかい」


 教えられたとおりに宿についた三郎太だったが、中に入ろうとはせず、受付の女の前で難しい顔をして唸っていた。


――金が足りないわけではない。しかしこのままでいくといつか……。


 ウェパロスの村長から得ていた路銀は既に底を見せつつあった。


――この季節では野宿も厳しいか、いや背に腹は変えられぬ……。


「なぁなぁ、お兄さんさぁ」


 三郎太が決心をしたその時、気配もなく、突然真後ろから聞き覚えのある呼びかけをうけた。 

 思わず驚く三郎太だが、振り返るとそこにいたのは例の少女ではない。


「なんだ、お主は」


 そこにいたのは白、というよりは銀に近い髪を短く切り、水干のような服を着た大層な美少女、ではなく美少年。小生意気な雰囲気を醸し出す、はつらつとした容貌をしている。


「お兄さん金ないんでしょ、実は俺もなかなか厳しくてさ、よかったら一つの部屋を二人で借りようよ。俺は床でも机でも寝れるし。な!」

「なんだ、お主、男娼の類か」

「いやだなーそんなんじゃないよ、もしかしてそのほうが良かった?」

「くだらん」


 三郎太は確かに女の心がわからぬ男だが、だからといって男を好むような男ではない。


「そんなことされると困るのはこっちなんだけどねぇ……」

「いいでしょうお姉さん! ここは貧乏男二人を哀れんでさぁ……」

「まっ! お姉さんなんてやだよぅ! しょうがないね、はいこれ鍵、問題起こさないでくれよ」

「まてい、お主ら勝手に……」

「いいから、いいから」


 押し切られた三郎太だったが、所詮一宿一飯、宿代が安く済むのならこれでいいか。と、己を納得させて、鍵を受け取り部屋へ行く。不要な荷物を置いた後再び町に出ようとすると例の少年もついてきた。


「名前教えてよ! 俺はシユウ!」

「三郎太だ」

「腰の剣、なんだか面白いな!」

「どっちだ」

「長い方!」

「これの良さがわかるか」

「うん!」

「そうか」


 他愛の無い会話をしながら町を歩き、日が落ちると米料理があるらしい飯屋に入った。


「サブローはどこから来たんだ?」


 その質問で思い出す。


――町長はアヅマの人間は俺に似た服装をしていると言っていた。もしやこの少年の水干のような服装のことか。


「遠いところからだ。それよりお主、アヅマを知っているか」

「アヅマ? あぁ~、知らない。それより遠いところじゃわかんないよ!」

「それでは日本を知っているか、そこが俺の故郷だ」

「聞いたことないよそんなとこ、デタラメ言ってはぐらかそうとしてるな!」

「好きに考えよ」

「ふんだ! もう、知らない!」


 機嫌を損ねたようで黙るシユウ。三郎太も喋り疲れたのでこれ幸いにと、黙々と食事を済ませた。



「なぁなぁサブロー、昼に受付で言ってたこと。実際どうなのさ」


 三郎太が宿に戻り寝支度をしていると、女将が好意で運んだ簡易寝台の上からシユウがニヤニヤしながらそんなことを聞いてきた。


――男娼がどうだという話か、下らん。


「寝ている最中に迂闊によらば斬る。気をつけておけ」


 それだけ言うと三郎太は魔石の灯りを消し、寝台に横になった。



 翌朝、三郎太は目を覚ますと同時に異常に気付き叫んだ。


「おのれ、してやられた!」


 叫び、寝台から飛び降りて急いで靴を履くと、兼定と荷物袋を持って部屋を飛び出す。


「女将! 同室の男はどうした!」

「え、朝早くに出てったよ、というかあんたも一緒だったじゃないか……」

「どっちだ!」

「そんなの知らないよ、朝食はどうすんの」

「いらん! 代わりに保存できるものをよこせ!」


 女将からカチカチのパンを受け取った三郎太は宿を飛び出し、直感で右の道を選んで走り出した。



――やったやった。盗ってやった。なんだあいつ口ほどにもないじゃないか。


「寄らば斬る……プフッ! ハハハ! かっこつけちゃってさぁ! 馬鹿でかわいい男だなぁ、ヒヒヒ!」


 恐ろしい速さで木々の間を駆けて行くのは銀髪に水干の少年、シユウ。その手には逆安珍。


「それにしてもいい武器だなぁ……ふふっハハハッ! あいつには勿体無い! やっぱ目をつけておいてよかった」


 シユウは早い段階から三郎太に目をつけていた。シユウが三郎太を初めて見たのは三郎太がウェパロスを出て次の町に寄ったとき。その時から三郎太の刀に惹かれて付きまとい、ついに盗みに及んだ。


「あいつアヅマって言ってたな……懐かしい名前だし、そうだなぁ……その内行ってみるか」


 そう言うとさらに速度を上げて駆ける。その動きは人の域を遥かに超えていた。



 宿を飛び出した三郎太は辺りの人々にシユウの行方を尋ねたが誰一人としてそれを知る者はいなかった。

 仕方なく町を出た三郎太は髭を剃るのも、身なりを気にするのも忘れて、ひたすら何日も駆け回り、野宿し、また何日も駆け回り、今に至る。

 もはや東西南北どっちに向かったのかもわからない。体は汚れ、足は疲れ腹は減り、その姿は浮浪者同然。見るに堪えなかった。

 三郎太は、武士たるもの、民の手本になるように身だしなみには気をつけねばならないと心がけていたが、もはやそんなことには気が回らず、ひたすら逆安珍と盗人を求めてさまよっていた。


「おのれ……おのれ……」

「そこのあなた」


 突然声をかけられ顔をあげる。そこで初めて、三郎太は自分が山道の入口にいることに、そして目の前に四人の少女が立っていることに気づいた。

 そして四人の来ている服が振袖に似ていることに驚いた。しかし、その振袖は裾がかなり短く、膝が見えるほどである。


「どうしたのです? そんな姿で、こんなところで。」

「お主ら、銀髪の、若い男を、見なかったか、こんな刀を持っている」

「人探しですか? ……とにかく、そんな格好で外を歩いてはいけません。私たちは旅館をやっています。おこしになって、少し休まれては?」


 客引きか。三郎太は財布が心配になったが、確かに自分がひどい格好をしていること、自分がひどく疲れていることに気付き、ついていくことにした。そして山の奥に案内されたのを一瞬不審に思ったが、疲れのせいか、それ以上のことは考えなかった。



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