悪魔が来たりて(笙の)笛を吹く
【第67回フリーワンライ】
お題:
つき(変換可)=憑き
布団のぬくもり
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
悪魔というのはとかく性質が悪い。
人間の弱みにつけ込んで、言葉巧みに弄して、魂を奪い去る。麻薬のようなものだ。最初は公平な取引だと錯覚させて、常習性を持たせ、徐々に値を釣り上げていく。
どちらにしても、終いには全てを失ってしまう。
悪魔の中でも特に厄介なのは、人間の根源的な欲求に訴えてくる手合いだ。麻薬ならば甘言を断ち切れば良い。しかし、ヒトという種が持つ、根源的なそれを絶つことは不可能だ。それは不可分であり、ヒトをヒトたらしめる要素であり、つまりはそれこそが創造主から与えられた原罪に他ならない。
決して逃れ得ぬ生来持ち合わせた罪。生まれた瞬間から負った業。ヒトとして存在する以上は誰しもが抱える不可避の欲求。
誰も逃れることが出来ず、捨てることが出来ない、そんなものを狙う悪魔こそまさに悪魔の悪魔的所行と言える。犬にも劣る畜生だ。……人間の価値観と違って、悪魔は嫌われれば嫌われるほど職務を遂行していると言えるので、これでは褒め言葉になるだろうか。
それはそれとして。
悪魔というやつばらはとかくしつこいしめげない。振り払っても置き去りにしても必ず追いついてくる。人類最速の脚をもってしても正攻法で悪魔を攻略することは叶わない。
叶わないどころか、悪魔に太刀打ちなど出来るはずがない。悪魔には見ることも触れることも出来ない。だがやつらは一方的に干渉してくる。
我々に出来ることはただ耐えることのみ。悪魔に抗うにはそれしかない。しかし、それとてもいずれ力尽き、最終的には悪魔に屈服する他ないのだ……
この戦いに勝利の二文字はない。敗北か、さもなくば敗北までのカウントダウンを先延ばしすることしか出来ないのだ。
敗北、即ち終わり。絶対的な終焉。手遅れ。手詰まり。お手上げ。
だが人類は、その尊厳に賭けて、負けるとわかっている戦いに挑む。抗う。最後の一線を越えるその時まで。
「――で?」
「だからあとごふん……むにゃ」
「抗うどころか既に負けてんじゃん。いいからさっさと起きなさい」
「ぎゃふん」
『悪魔が来たりて(笙の)笛を吹く』了
春眠暁を覚えず。
悪魔のせいなのねそうなのね。人、それを睡魔と言う。