ひと時の休憩
俺たちが、帝国軍を退けてから一日が経った。ナストレアは祭りになっていた。それもそうだろう。俺たちはあの帝国軍をしかも十倍の戦力差を覆す事ができた。今日の新聞にも帝国軍を退けたと記事にでかでかと載せられていた。その効果もあってか近くの帝国に所属していない町から我が軍の戦力下になりたいと言ってきた。リルブ町とマールニア町だ。それぞれ二〇〇と三〇〇と俺らの町より兵士が多く、合計で六〇〇にもなった。その他にも俺らに活躍を見て各地に反乱がおきはじめた。それを機に一気に攻めてやろうかとしたらこの祭りである。
「ヒック、兄貴~。飲んでるか?」
「俺はあまりお酒は飲めないんだがな」
「ダメだぞ~。兄貴にも入れてやるか~」
俺の所に来たと思うとグラスを出してきてお酒を入れてきた。フリードは相当飲んでいるらしい。
「ヒック、それじゃあ兄貴~。俺は違う奴の所に行って来るぜ~」
そう言い俺の所から去って行った。何しに来たんだと首を捻りながらフリードに貰ったお酒を飲んでみた。
「苦い。俺よりも年下のフリードがよく飲めるよな」
「それはお兄ちゃんがお酒に強くないからですよ?」
俺はそう呟くと、アリスが横から現れた。アリスの方もお酒を飲んでいたらしく少し顔が赤かった。
「アリス、お前飲見すぎだぞ……たくフリードにも言っとかなきゃな」
俺は、アリスの方を見ながら、今度フリードに注意してやる、と心に誓って、この場から離れようとした時、いきなりアリスが俺に抱きついてきた。
「お兄ちゃん~。今日も一緒に~お風呂入って~添い寝して下さいね~」
「なあ?!」
俺は、その言葉を聞くないなや素早く周囲を見回した。そしたらそこにエミルが見ていた。
「エミルさん。これは違いますよ。言葉のあやと言うやつでしてね」
「何が違うの?さっきアリスちゃんは今日『も』って言っていたわよ!」
どうしよう完全に怒っていらっしゃる、と思ってどうしようか考えているとアリスが更に追い討ちをかけてきた。
「ダメなの?」
「い、いや。ダメじゃないけど。いやいや、ダメだけど」
「もう良い!知りません!」
エミルは怒って行ってしまった。はあっと息をを出しながらどうやってアリスから抜けるか考えているとアリスの手の力がみるみる内に無くなってきた。どうしたんだろっと思って見て見るとアリスが道端で寝てしまった。しょうがないと思いながらも家まで送り届けて上げた。少しだけだが可愛いと思ってしまった自分がいるがそれは外面に出さないでおこう。
俺は、町の中をぶらぶらと適当に散策していた。その度に町の皆は英雄だの何だのとはやし立ててくれたが、俺が一人でやった訳ではない。もしかしたら一番俺が役に立たなかったのかもしれない。策をやった後はずっと戦局を見ていただけの存在だ。フリードとアリスがマースとスノーを討ち取らなかったら今頃どうなっているのか分からない。俺は、褒められているのにそう思うと複雑な気分になって来た。
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俺は、少し散策した後家に帰ってきた。まだ、エミルが怒っているかなっと思いながらエミルの扉の前で呼んで見た。
「エミル?いるか」
「うん、いるよ」
「さっきはゴメンな。アリスもお酒を飲んで思考が定まんなくなっていたから、変な事言ってしまったんだよ」
「さっきの事は全然気にしてないよ。入って」
俺は、エミルの許可が下りたので、失礼しますと言って入った。この世界に来てから何度も入った事があるが、女の子の部屋みたいに沢山物が置いてなく、本棚と机それとベットぐらいしかなかった。棚にはたくさんの本が置いており、領主の務めとかどうすれば領民がついて来てくれるかと言う本ばかりだった。
(才能だけじゃなく、少しずつ努力して領民から信頼を得たんだな。俺ももっと頑張らないとな)
俺は、心に硬く誓いながらエミルに話しかけた。
「エミル、フリードやアリス、その他の皆に報酬とかあげた方が良いんじゃない?皆命がけで戦ってくれた事だし」
「マサキは、自分の事頑張ったと思ってないの?」
「俺なんて戦いをただ見ている事しか出来ていなかったから。それで貰ったら皆に顔向けできないよ」
「そんな事はない!!」
「え?」
「マサキの策のおかげでフリードたちが戦いやすかったって言っていた!」
エミルは俺の顔におもいっきり近づけて言った。それはもう、キスが出来そうな距離まで。
「私自身も、その、あの」
エミルは顔を赤くしながら何か言おうとしていた。その時、いきなり扉が開いた。
「兄貴とエミル様ここに居るんだろ!…………お邪魔だったか?」
確かに今の俺たちはこれからキスをしようとしていたシーンに見えなくもなかった。俺とエミルは急いで離れると弁明をした。
「そそそそそんなんじゃないの!フ、フリード!」
「そそそそそうだぞ!そ、それより何しに来たんだ?」
俺は、誤魔化そうとフリードに聞いた。フリードは、はっ!となり慌てた様子で話し始めた。
「帝国に各地で反乱が起きているだろ?それが凄い勢いで鎮圧されてきているんだ!」
「なんだって!そんな馬鹿な!」
各地で起きている反乱の数は三、四万になると言われ簡単には鎮圧は出来ないと踏んでいた。しかし、フリードの報告では既に半分は沈静化されてしまっているらしい。
更にフリードは報告を重ねた。
「帝国が俺たちの事を危険だと思ったらしく、こっちに兵を向けたらしい!」
「何?どのくらいだ」
「数は現時点でわからないが、指揮官が……『破壊斧使いのゴットン』だ!」
俺は、その報告を聞いた後ただ絶望に浸った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回は、戦闘がありませんでしたが、次回に回すつもりです。
感想、誤字、脱字がありましたら書いてくれるとありがたいです。