ルナリアス城攻略1
カチャリと後方からドアが開く音が聞こえた。
「失礼します。フリダム軍約五〇〇〇がルナリアス城に向け、前進しております。我が軍六〇〇〇の兵はすでに準備しております。スルト様、ご指示をお願いします」
「…………」
しかし、答えなかった。スルトは、窓の外を見ているだけで一向に命令を下そうとはしなかった。
「ス、スルト様?」
「…………」
今度は窓の外から視線を離し、兵士の方に向いた。そうすると人差し指を立てた。
「は!了解しました。すぐに準備をいたします」
兵士はそれに頷くと失礼しますと言って出て行った。
彼は、再び窓の外に目をやった。外には、鳥がおり仮面の中から覗いていた。
鉄の音、血の匂い。そう今は戦場にいる。
俺達フリダム軍は帝国軍を挟み撃ちで一気に殲滅をしようとしている。まず、少数(一〇〇〇)で敵を誘い込みそこに左右で挟み撃ちと言う簡単な戦法で殲滅しようとしているのだが、流石帝国軍。鍛えられた兵士は囲まれていても動じずその場で踏みとどまっている。
フリダム軍三〇〇〇の兵士で四〇〇〇の帝国軍をおびき寄せて、残りの二〇〇〇で城の攻略戦が始められていた。その中には俺、フリード、アリス、アルンがその中に入っており、エミルやマラハイ、リンセンス、ジョルシーは三〇〇〇のフリダム軍の指揮をやってもらっている。
流石に城門近くでも兵士の数が多かったが、それよりも大変な事があった。
「こんな大きな城門どうしろって言うんだよ。大砲も効かないなんて予想外だぞ!」
そう、ルナマリア城の鉄壁の門が入り口を封鎖していた。城の壁には弓兵が控えており、俺たち目掛けて矢をつがえて撃ってくる。そいつらを倒すにはこの中に入らなくてはならない。しかし、城門が邪魔をする。悪循環である。
「くそ!どうすれば良いんだよ」
来る敵の剣や矢を何とか避けながら考えた。しかし、こんな状況で思いつくことが出来ない。どうすればいいんだ。
「兄貴!あれってゴットンじゃないか?」
「何を言っているんだ。あいつは今療養中……だ……ぞ?」
遠くで馬で駆けてくる二人がいた。ゴットンとガロットだ。ゴットンは笑顔で手を振っているが、相当無理しているようだった。ガロットは、腰に片手を当てながら痛そうな顔をしていた。
「ゴットン、お前は療養中のはずだろ?何でこんな所に。ガロット殿も何で」
「それがゴットンが行くって言う事を聞かなくてだな」
「儂には最後に遣り残した事があってな……だからここまできたんじゃ」
「そんな事言わないで休め爺」
フリードは、本気で言っていたがゴットンは言う事を聞かずに前に出た。しかし、それをフリードが肩を掴んで抑えた。
「お前が何をしたいのかわかんねーけどよ、今は休んでからやるんだな爺」
「この大馬鹿者が!!」
その声が辺り一面に響き渡った。フリダム軍も帝国軍もその声で戦いを止め、ゴットンの方向に視線を向けていた。それを気にせず言葉を続けた。
「儂はな、お前達に夢を見せてもらったのじゃ。帝国軍では一生叶えられそうに無いと思っていたがお前達と戦い、仲間になったおかげで充実した日々を短時間だが過ごせた。儂の体はもう長くは無い。このまま寝ていても良くなるどころか悪くなる一方だ。だったらその人生を消費させてまでお前達に夢を叶えさせてやりたい、そう思ったのじゃ。フリード、儂から放してもらえないのかのう。最後のこの老いぼれの頼みをきいてもらえないのかのう」
「くっ!」
フリードは歯を食いしばりながら手を放した。
ゴットンはマサキの方に向き返ると行って来る、そう言って城門前まで近づいていった。帝国兵士はそれに急いで矢をつがえて撃った。一〇〇本の中から一〇本ぐらいの矢がゴットンの体を貫くと思われた。
だが。
「ゴットンの勇姿は誰にも邪魔させんぞ」
先ほどまでとは打って変わって『砂漠の悪魔』に相応しいほどの迫力に帯びていた。
アリスとアルンが信じられないといった顔で俺の傍まで来た。
「……ゴットンはどうしてここにいる?」
「夢を叶えに行くんだよ」
「夢ですか……」
アルンは呟くように言った。
ゴットンは更に近づき斧を構えた。
「儂の最後の力じゃ!喰らえ!」
周囲に風が意思を持つようにゴットンの周りに集まりだした。
俺は、吹き飛ばされないように伏せてゴットンを見続けた。ここで止めたら一生後悔すると思って。
他の皆も同じようにやるが兵士によっては耐え切れず吹き飛ばされていた。
ゴットンは、目を閉じていた。その時が来るのを待っていた。今だ!
「吹き飛ばせ!そして勝利を呼び寄せるのじゃ!大旋風!」
いきよい良く風が城門に叩きつけた。大砲でもビクともしない城門が徐々に歪んでいった。そして、城門を丸ごと吹き飛ばした。
『うわああっ!』
城内に居る兵士達の断末魔が聞こえてきた。
「全軍、敵の本拠地を占拠するんだ!」
俺は兵士達に号令をかけるとすぐさまゴットンの所に近づいた。
「ゴットン!お前って凄いな。あれのおか……げだ……」
俺は異変に気付き脈をはかった。止まっていた。
「ゴットン、お前の事は忘れない。この戦いが終わったらお前の墓を建ててやるからな」
「ゴットンは私が預かろう。マサキ、後は頼んだぞ」
「はい!」
俺は、ゴットンが命を賭してでも開けてくれたルナリアス城に入ったのである。
前回は遅すぎたので今回は早くしてみました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。感想等お待ちしております。




