ススリゲ砦の攻防3
ススリゲ砦の内部で椅子に座りながら溜息をしていた。遠くで何人もの女兵士が彼を見てうっとりしているが、そんな事を気にしていられなかった。
「はあ……ガルロス一〇〇人佐は何故私を連れて行ってくれなかったのだ。確かにここはサンバラ地方におけるルナリアス城のただ一つの道であり、重要な役割を担っている砦。こんな大役を任せてもらえる事は、光栄に思いますが……流石に荷が重過ぎますよ、はあ……」
先ほどから溜息をしているのが、ガルロス率いるオルガ皇帝陛下直属部隊、「黒の騎士団」の副指揮官を務めるキリング一〇〇人尉である。こんな事は初めてではないが、そんな簡単になれるものではなかった。
「皇帝陛下の為にここを突破させる事はできない。スルト大将軍に迷惑をかけられない。しかし、何故陛下は私達にこんな任務を下さったのか、今も理解が出来ない。度重なる人事異動、そして何よりおかしなのは、残虐な粛清。逆らった者は皆、殺す。前の陛下なら考えられない事だらけだ。ガルロス一〇〇人佐も帝都に任務で帰還をなされたが、大丈夫なのだろうか……何かなければよいのだが……」
先ほどから嫌な予感しか沸いてこなかった。帝国には黒の騎士団をはじめ、たくさんの重臣が忠誠を誓っているが、その代わり階級が下がれば下がるほど、忠誠心などがなかった。今では反乱軍に混じって責めてくる始末。昔はそんな事がなかったのだが、皆恐怖と言う念で縛られて行動しているに過ぎなかった。
「我らがしっかりせねば。フリダム軍さえ倒してしまえば、元の陛下に戻る。頑張らなければ」
そう決意していると、他の女兵士を退け、キリングの前に片膝をつけて頭を下げた。
「ただいま戻りました、キリング一〇〇人尉。無事任務を達成することが出来ました」
「アルン殿良くやってくれた。上にはきちんと報告しその分の働きを伝える事にする」
「ありがたき幸せ……オラルド一〇〇人佐は見当たらないようですが?」
「オラルド一〇〇人佐はガルロス一〇〇人佐と共に帝都に向われた。任務とか言っていたが、よう分かっていない。それがどうした?」
「いえ、何も。それでは我が部隊も戦列に加えさせてもらいます」
「分かったが無理はするなよ。戦いが始まるまで休息をとっておけ」
「ははっ!」
再度頭を下げて部屋から出て行った。その後を見つめていた。
キリングは、アルンに少し親近感を抱いていた。自分が仕える主に絶対なる信頼と忠誠を抱ける人物であると出会った時から感じた。時には剣となり、時には盾になって主を守る。自分と同じ人に会えたのが、とてもうれしかった。しかし、彼女には一つ違う所があった。本当に自分が仕えようとする主が未だに見つかっていないこと。オルガ陛下に忠誠を誓っていない。今では味方だがいづれかは敵になるのかもしれない。その時は……
「帝国の未来の為に邪魔になる事は言わなくても分かるほど。ならば敵になった場合、戦場で討ち取るのみ」
キリングは無意識で感づいているかもしれない。アルンが裏切る事を。
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