フルル森戦~後編~
俺は一人で、馬に乗りカリアン平原を駆けていた。今は十月で少し寒くなってきた。吐息も白く美しく消えていく。
俺が目指すのは、カリアン平原の中央部に位置するオリガ帝国軍の陣営だ。近くまで来ているとあってそこまで遠くなかった。
(よし、やってやるか)
俺は、帝国陣内に来た後すぐに外を見張っている兵士に話しかけた。
「すみません、私はナストレアから来たもので、情報を献上しようとここまでやってきました。どうかこの帝国陣内で一番お偉い方とお話をさせて頂けないでしょうか」
「何?分かった案内する。付いて来い」
「ありがとうございます」
俺は、難なく帝国陣内に入る事が出来た。さすがに一〇〇〇人もいるだけあって大きかった。武具、防具、衛生兵室、簡易兵舎などたくさんあった。
「着いたぞ。この中にナストレア指揮官マース隊長がいる。粗相の無い様にな。では入るぞ」
指揮官の幕舎まで来た。ここからが正念場だと思いながら気を引き締めた。中に入ると体格が大きい(190ぐらい)、一人の男が椅子に座っていた。その隣には爽やかそうな青年が立っていた。
「そいつは何だ」
「は!ナストレアの情報を持ってきた者です」
「あんな小さい町の情報などいらん!一気に捻り潰してやる!」
「まぁまぁ、マース司令官。一様聞いておきましょうよ」
俺は、断れるかと思って内心ひやひやしていたが、青年の方は爽やかな笑顔で俺の方に向いてきた。
「私の名前はスノーハートと言います。長いのでスノーとおよび下さい。貴方は?」
「私の名前は天宮正輝といいます。マサキと呼んでください」
「マサキさんは、どんな情報を私たちにくれるんですか」
笑っていた顔が急に真剣な顔になって聞いてきた。
俺はその顔にこの人は優秀だと思いながら話した。
「まず、このままナストレアに行くと意味がありません」
「ほぅ。何故ですか?」
「ミスカト王国の軍隊がナストレアに駐留しております。その数約二〇〇〇ほどです」
「何だと!そんな馬鹿な!」
マース将軍は驚いていた。その隣のスノーも真剣になりながら顔をうつむかせていた。
「何故あいつらがここにいると言う証拠はあるのか!」
「それは、帝国に付く事よりも王国に付いた方が良いと私以外の者が言いました。それでも帝国に付こうと言った私は、ナストレアから追放されてしまいました。その事がどうしても悔しくて、ここまで来て良い案を献上して来た所存です」
「良い案ですか?」
スノーが顔を上げてきて俺に聞いてきた。俺は、心の中でガッツポーズを決めながら頷いた。
「まず、王国は明日の明朝に帰って行きます。それは、私がこっそりと聞いて得た情報です。しかし、ナストレア周辺を少し散策するとも言っていましたので、ここは危険だと思います」
「それじゃあどうするんだ。陣を後退させるか?」
「いえ、そのれよりも良い所があります」
「良い所ですか?」
「はい。ナストレアを少し南下した所にあるフルル森林と言われる森で昼間なのに暗くて隠れるのには良いと思います」
「確かにその森の中で陣を張って、王国が帰るまで待って一気にナストレアを制圧する。良い案ですね。それで行きましょう」
「あと、夜に森までに行った方が宜しいかと思います。その方が暗く敵にも見つかりにくいからです」
その話を聞いたマースとスノーは大喜びだった。
「よし、この戦いが終わったらお前の事を雇ってやろう!」
「そうですね。この頭の回転の速さは我が軍の軍師ギルフォート様とは言えないと思いますが、貴方は良い軍師になれますよ」
「ありがとうございます」
軍師。軍中において、軍の指揮する君主や将軍の戦略的指揮を助ける職務の事であり、最初にこの世界で軍師になったのがギルフォートである。ギルフォートは、現君主であるオリガを天下まで導いたのである。普通の人は喜びそうな言葉だったが敵である人に似ていると言われて複雑な気分になった。
その後マースに自由に陣内を回って良いっと言われたのでそこら辺を散策した。
「君は誰なんだ?帝国の兵士ではないようだが」
いきなり俺に青い髪の青年が話しかけてきた。体格はそこそこで年齢も俺と差ほど変わらないっと思った。
「私は正輝と言います。私は、ナストレアに追い出されてこの帝国に情報を献上しようと思って来ました」
「俺の名前はランスロットだ。この戦争を一刻も早く終わらせたくて帝国に入った。これからよろしく頼む」
俺とランスロットは、話が合ったのかつい話し込んでしまった。ランスロットが帝国の入った理由とか聞かせてくれた。
「民たちを守れるような存在になりたい。今の帝国は民たちに酷い圧政を虐げているが、俺は内部から変えようとしている。そのために俺は帝国に入ったんだ!」
その言葉を聞いて、もしかしたらどこか通じ合える所があるんじゃないかと思った。本当のことランスロットに話して味方になってもらおうと思ったが言えなかった。
ランスロットは俺と話をして満足したのか、笑って自分の兵舎に戻って行った。俺もマースが用意してくれた幕舎に戻って行った。
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その日の夜、俺と帝国軍はフルル森林に行軍していた。風が少し吹いているのでとても寒いがそうも言ってられない。俺以外の帝国軍人は王国が見つけて襲ってくるんじゃないかと内心冷や冷やしていると思う。そのお陰か1時間ほどで森に着く事ができた。
俺は、帝国軍全員と簡易テントが見えないぐらいまで森の奥へと入っていった。森の中はさらに暗く松明が無ければ歩く事すらままならないだろう。
「でかしたな!マサキ。これなら森に入ってこなければ見えまい」
「良い案です。素晴らしい」
俺はありがとうございますっと言いながら内心では帝国を倒す為なんだすまないっと思いながら作戦実行の時まで待った。
夜の十一時になり更に辺り一面が静かになった頃いきなり森から四方八方から声が聞こえ始めた。なんだなんだと帝国軍人は騒ぎ出した。
「何が起きている!」
「マース隊長、敵に奇襲されたようです!」
いつも爽やかな顔のスノーが相当焦っていた。それもそうだこんな真っ暗闇で突然の奇襲で焦らない奴はいない。
「何故だ、何で敵がいる!ここの森なら見えないではないか!」
「確かにそうですが、あらかじめここに伏兵を置いとけば、我らに気づかれず奇襲が出来るかもしれません」
「チッ。応戦だ!一気に蹴散らすぞ!」
「は!」
さすがに帝国の将だけあって対応が早かったが、松明で光で照らしているとはいえとても暗い地形では、いかに訓練している兵士でも敵に攻撃するのは難しいだろう。
しかし、ナストレアの方は、帝国ほど訓練はしていないが、森の中は熟知しており、夜目が聴くため松明などの類はいらない。そのお陰で光を使わずに奇襲する事が出来た。
「おらおらどけー!フリード様のお通りだ!」
フリードはナストレア1の戦い手だけあって、混乱しているが軍人を軽々斬って回った。その光景を見ていたマース将軍は怒りだし、フリードに戦いを仕掛けた。
「小僧、いくら俺の部下を倒しているからと言って調子に乗るな!俺が叩き斬ってやる!」
「良いぜ、行くぞ!オッサン!」
「俺は、オッサンじゃない!マースだ!小僧!」
「俺も小僧じゃない!フリードだ!」
二人はそう言い、マースは巨大な斧を背中から出して、フリードは手に持っていた槍で応戦した。マースは力を込めて、フリードの頭に振り下ろした。しかし、フリードはそれを槍でガードして、斧を滑らせるようにして槍を高く上げた。その後逆に頭に向かって力いっぱい槍を振りかざした。マースはそれに瞬時に対応して頭を少し後ろに傾けて避けた。
「やるじゃねーか!オッサン!」
「貴様こそやるな!小僧!」
少し距離を開けたかと思うとすぐに斬り合いが始まった。フリードは槍でマースを突こうとしたが、突く直前に左手で槍を掴まれてしまった。左手で掴んでいる間に、思いっきり右手で掴んでる斧をフリードの身体に向かって思いっきり斬ろうとした。
(これで終わりだ!)
マースはこの時勝ちを確信していた。だが、フリードは槍を掴んでいた手を急に放してその斧を手で掴んだ。
(ば、馬鹿な。俺の斧がこんな子供ごときに)
自分の力いっぱい振った斧が手で掴まれた事に驚いていた。フリードの手から血がたくさん出ていたがこの時の勝機を見逃すまいと腰にあった剣を素早く抜き、マースの身体をおもいっきり斬った。
「ぐふ……」
「はあ、はあ、はあ」
フリードは全身傷だらけになりながらも叫んだ。
「敵将マース討ち取ったぞーーー!!」
その一言で敵の部隊の指揮が一気になくなった。副将のスノーが大きな声で一喝して指揮を戻そうとしているが、混乱しすぎて意味が無かった。
「マース隊長が死んだなんて。早く部隊をまとめ直さないと……」
そう思いながら部隊の指揮を元に戻そうと思っている時に一人の少女が戦場にいた。その女の子は攻撃のスピードが速く、自分の部下が応戦しようにも全く歯が立たなかった。
「貴様は何者だ!私はマース隊長の副将スノーハートだ!」
「私は、アリス。フリードを補佐しているわ」
「女の子だからって手加減は出来んぞ!行くぞ!」
「私だってナストレアの戦っているんだからなめないで!」
スノーは腰に下げている剣をアリスに向かって思いっきり横から斬り込んだ。しかしアリスは思いっきり後ろに飛んで回避した。アリスは、懐に隠していたナイフを指と指の間に挟んで一気にそれらをスノーに向かって投げた。五本のうち二本がスノーが避けて残りの三本を剣で叩き落とし、すぐにアリスに斬りかかった。しかし、避けたはずのナイフが背中にいきなり帰ってきてスノーの背中に突き刺さった。
「ぐは、何故戻ってきたんだ……もしかして避ける事を予測して……いや、どうしてナイフが戻ってくるんだ……」
「私は、ブーメランの要領でナイフに回転をかけたの」
「……ふふ。私の負けです。そんな相手に私は勝てません。最後に良い戦いが出来ました」
そう言いスノーは倒れた。アリスはフリードよりは小さいが大きな声で言った。
「副将スノーハートを討ち取った」
その言葉を聞いたナストレア軍は歓喜を起こし、帝国軍は悲鳴を上げながら逃走する者まで出てきた。十倍近くあった戦力差が今では敵の数が半分まで減ってきていた。
「兄貴!もう俺らの勝ちか?」
俺は、戦闘の一部始終を見ていたが、横からフリードが話しかけてきた。
「まだ、完全に勝ってないからまだ気を引き締めといて」
「了解だ!ま、俺がいるから大丈夫だと思うけどな!」
頼もしい弟だっと思っていると、帝国側の方から声が聞こえてきた。ランスロットだ。
「帝国の諸君!何故そんなに慌てているのだ!今こそ我々の勇気を出す時じゃないか!でも、今回は敵に勝ちを譲ろうと思う。しかし、負けたのではない!戦力的撤退だ!次こそまいまみれる時に必ずや我が正義の鉄剣で叩き斬ってやる!」
そんな声がしたと思うと見る見る内に慌てていた敵が少しずつ冷静になって来た。さっきランスロットが言ったように敵が少しずつ撤退を開始した。
(やばいな。このままでは逃げられてしまう)
森の中だが、奴らは皆来た時の道を通って撤退を開始しているので外に出てしまう。俺は、フリードに敵の撤退速度を落としてもらえるように頼もうとした。でも、フリードは俺が言わなくても分かっていたようで、走って追いかけて行った。
「よぉ、大層な演説だったぜ!でもな、帝国に与する奴らは全員悪だと思っているんでね、すまんが、ここで消えてくれ!」
「貴様たちのような戦争をしか脳が無いような輩には分からないだろうが、私には帝国を変えると言う夢がある!ここで朽ちはてる事は出来ない!」
フリードとランスロットは互いの剣と剣でが火花を散らせて激突した。しかし、ランスロットは自分から攻撃しようとしないでずっと防御に徹していた。
「どうしたんだ!攻撃しないのか!」
そう言いフリードが相手を挑発して攻撃してきた所を反撃して終わらせようとしたが、そんな挑発を受け入れずひたすら防御を続けた。少し時間が経ちいきなりランスロットから攻撃してきた。さすがにその時は驚いたらしく少し馬を下がらせてしまった。
その時、ランスロットは思いっきり馬を走らせた。
「逃げるのか!?」
フリードは逃がすまいと馬を走らせようとしていたが、マースと戦った時の傷が手に残っていたので、手綱を握ることが出来なかった。
俺は、初めてランスロットの意図に気づく事が出来た。皆を逃がす為にわざと囮になって時間を稼いでいたのだ。あんな強い人がいる帝国軍を敵に回してしまったが、この先大丈夫なのかと思えてしまうがそれでも俺らには大切な人や故郷がを守る為にやらなければならない。
俺は、いろいろな事考えていたがそんな事はすぐさま捨てて皆に聞こえる声で勝利の雄たけびを上げた。
「我々の勝利だ!!」
時に、帝国歴五十八年十月十三日
ナストレア周辺のフルル森林で勃発した戦いは帝国一〇〇〇人対ナストレア一〇〇人の戦いは数で不利ながらもナストレアは奇襲戦法で大勝した。
帝国軍は、五八二人もの犠牲者を出した。
『フルル森林の戦い』と言われ帝国が初めて大敗した戦争になった。
読んでいただきありがとうございました。
今回は戦いをメインとしました。
感想や誤字、脱字がありましたら、書いてくれると嬉しいです。