エミルの悩み
その頃、ガルーダ町でのんびりとしていたエミルが不機嫌な顔を隠さず椅子に座り紅茶を飲んでいた。
不機嫌な理由は周知も知っていたので、声をかけないでいた。
(何でいつも……このままじゃ私だけ役に立たないお飾りの王女じゃない。あと、マサキと一緒に闘技場に行きたかったなー)
そんなことを思っているとユーリがニコニコと周囲に笑顔を撒きながら紅茶のポットを持ってきた。
「エミル様、お代わりなどいかがですか?先ほど住民の方に紅茶の葉を貰い、すぐに作りましたからとてもいい香りで、おいしいですよ」
「……お願いします」
「かしこまりました」
エミルに恭しく礼をした後に、静かに注いでくれた。
ユーリは、料理でも剣術でも何でもこなす、いわゆる万能型だった。人が困っていると手を差し伸べてくれて、ガルーダ町の女の子にはとても人気だと聞いた。
マサキもそうだが、鈍感で少しでも危険だと一緒に行かせてくれない。ガルーダの町まで行くのだってゴットンが何か言わなければ連れてってくれなかっただろう。
私は、フリードみたいな剣術の才能やアリスのような何でもそつなくこなす才能もなく、マサキのような知将でもない。
(だから私は連れてってもらえないのね……私にも才能さえあれば……でも)
私に何が出来るの?さっきも言ったけど何も才能なんてない。
少し住民に慕われているぐらいしか何も取り柄の無い私が、フリダム王国を建国して自由の国を作れるのか最近心配で、眠れない日も出てきた。
私がいなくて大丈夫なのではないかと……。
その事を悩んでいると、ユーリが爽やかな笑顔で突然、話をはじめた。
「エミル様は私の事を、何でもこなす人だと思っていますか?」
「え……う、うん」
私は突然話を振られたものだから少し驚いたが、首を縦に振った。
その事に少し苦笑い気味になりながらも話を続けた。
「私は……エミル様と同じくらいの年齢の時に何も出来ない自分がとても嫌になり、この町の領主を辞めて旅に出ようとしました」
ユーリは、昔から何でも出来るのかと思っていた私は、驚きを隠せなかった。
「出て行こうとした私をある人が止めてくれました。その人が、『お前はそれで良いのか、それで悔しくは無いのか』と言われました。私は、その言葉を言われて悔しいが皆を守る為の才能が私には無いのだと反論してやりました。そしたら彼女は、『それ程のことが言えるんだ、お前なら出来る。才能は生まれ持ってくるのではなく、努力して自分で勝ち取るものだ。でも、そこまで行くまでに時間はかかるだろうから今自分に出来る事をやれば良い。それが才能と言う奴だ』といわれました。その後は、その人に言われた通り止めずに頑張ったおかげで、この町を守って来れました。エミル様は、自分で分かっていませんが、私が欲している、とても良い才能を持っております。自信を持って下さい」
「私の……才能?」
「それは自分でお探し下さい。時が来ればいずれ気づきますよ」
意地悪な笑顔を見せた後、ユーリは自分の分の紅茶も入れて飲んだ。
私はその笑顔を見ながら、少しだけやる気が出てきた。
心の中で、ありがとう、と言って少し冷たくなったおいしい紅茶を口に含んだ。
一人の兵士が慌しく、失礼します、と行って入って来た。
「報告します。マサキ様率いる敵城偵察部隊一〇〇〇が敵に奇襲を受けた模様です。その後の状況はただいま調査をしておりますが、未だマサキ軍師やその他の将の生死は不明です」
「そ、そんな……」
「更に、このガルーダに帝国軍が侵攻中です。およそ三〇〇〇!」
連続で最悪の報告が上がってきたが、ここでしっかりしなければフリダム王国が終わってしまう。
マサキやアリス、フリード、シンクの無事を祈りながら素早く指示を出した。
「五〇〇の兵をマサキ隊の生き残りを救出に行って下さい。残りの二五〇〇で帝国軍を向かい打ちます。指揮官は……私が勤め、副指揮官はユーリに任命します」
「了解しました」
「では、素早く準備をして下さい」
『はっ』と言い終わるとすぐに出て行った。
戦いになってもユーリは笑顔を絶やさなかったがその顔に少し驚きが混じっていた。
「素早い判断です。私には、そんな事は出来ませんよ」
「今、私に出来る事をやる。マサキが笑って帰ってこられるようにしないとね」
「そうですね。やはり私は貴方についてよかったと思います。この戦い絶対勝ちましょう!」
「ええ!」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
活動報告も書きましたのでよろしくお願いします。




