遠出~後編~
俺達は、そのまま二日目の朝を向かえ、進軍を開始していた。事前にフリードたちと話をしたが、アカーサス城の近くの町に兵を置かせてもらうことになっており、先に行ってもらっている。
なるべく早めに行きたいが、昨日の帝国との残党兵が近くにいるためつい遅くなってしまっている。相手は戦いで消耗しているとは言え、まだ一二〇〇と兵が残っている。こちらは、敵が油断している隙を突き圧勝したが、敵よりまだ少ない。もう一度戦闘があるとは思うと、皆の空気がぴりぴりしていた。
でも、ゴットンだけは、笑っていた。
「そんな緊張するんじゃないわい。戦闘になったら考えればよかろうて」
「そう言うものですか?」
「軍師殿が一番顔に出してはいかんぞ。皆が不安がってしまうからのう」
さすが、と口から言葉が漏れていた。元将軍とは言え、戦いの為に身を置いてきた彼が言ったので、言葉の重みがずいぶんと違いとても勉強になった。
俺は、ゴットンの話をきちんと頭で理解しながら行軍をしているといつの間にか夜になっていた。昨日と同じく近くに簡易の幕者を作り、担当を決めて、敵がいつ襲ってくるか分からないので、すばやく食事をとった。
夜の一一時頃、暗くなっている中、カンカンっと大きな音があたり一面に響き渡った。
寝ていた俺は、何事かと思い飛び起きてしまった。外に出てみると、兵士達が慌てふためいていた。近くの兵士に事情を聴いてみるため話しかけた。
「何があったんだ。詳しく話してくれ」
「すぐ近くに敵が現れたんです!数は不明です!」
俺がいるにも関わらず大きな失態を犯してしまった事に愕然としてしまった。
しかし、ゴットンに言われた通り顔には出さないようにして、すぐに命令を出した。
「五〇〇の兵はゴットン、二〇〇の兵は俺に従い反撃に出る!他の兵士はエミルをお守りするんだ!」
「ただちにっ!」
そう言うとすぐに大きな声で兵を集めに行った。それを見ていたゴットンは、俺の元に近づいて来た。
「たぶん敵は、ランマルだと思うぞ。あいつは昔から考えなしですぐに物事を決めるが、仲間の死だけは許さんやつだったのう」
「だとすると、敵の戦力は約一二〇〇ですか。私の失態です」
「お主が悪いんじゃないわい。儂がちゃんと警戒しておらんかったからじゃ」
「すみません。ゴットンは兵を連れて敵を足止めを出来ますか?俺は、その隙に側面を叩きます」
「それしかないのう。了解じゃ。任せておけ!」
さっきの兵士が準備が整った、と言ってきたのでゴットンは、その兵士達を引き連れて戦場に赴いていった。
俺は、その後姿を見ながら無事を祈り、自分の役目を達成させるために行動を起こした。
ゴットンは、こちらの二倍以上の敵と対立しており、一触即発の状態だった。そのため辺りはしーんと静かになっていた。
しかし、最初にこの状態を打破したのは、ランマルの方だった。
「帝国に反逆する悪者共め!先の戦で亡くした仲間の仇を討ちに来てやったぞ!皆、遠慮はいらん!全軍突撃!」
ランマルは、号令をかけると一二〇〇と言う大軍が一斉に動き始めた。
ゴットンも負けじと声を出した。
「反逆なのは帝国の方だ!民があっての国だというのに帝国は、それを踏みにじっておるのじゃ!儂ら、フリダム王国軍が帝国を打ち滅ぼし、良き国を作るのだ!」
『おおっー!』
どちらも、指揮が高く正面からぶつかり合った。
ゴットンは、先陣で敵をどんどん斬っていたが、さすがに数の差が歴然としており少しずつ押されていた。
それを見ていたランマルは、隙を見てゴットンに剣で斬りかかったが、間一髪で避けられてしまった。
「さすがですね、ゴットン将軍。不意討ちだったとおもうのですがそれを避けるとは……」
「儂は、もう将軍じゃないのだぞ。あと、いきなり斬りかかって来るのは止めてもらいたいのう。若い者は、もう少し年寄りに労わって欲しいものじゃ」
「そうですか、それでは最後の戦いにしてあげましょうか!」
剣と斧が鋭い音を上げながら交わった。さすがに元将軍とあってランマルの事を押していたが、ランマルはもう一つの手で更に短剣を取り出し、そのまま、ゴットンの腹の部分に刺そうとした。
しかし、それに早くも気づいたゴットンは素早く剣を弾き、短剣を斧で防いだ。
「さすがです。普通の兵士なら防ぐ事ができずそれで終わりです」
「儂を舐めるなよ。そんじょそこらの若者に負けはせんわい」
「しかし、次で終わらせます。行きますよ」
「いや、ここら辺で止めさせてもらおうかの」
「何?どうして……」
『おおっー!』
ランマルは、ゴットンが何を言っているのか分からず困惑していると側面の方から大きな声が聞こえてきた。
暗いが故に無数の松明の光が側面に向かって突撃してきた。ランマル隊は敵の策に引っかかった事に今に気づいたが、時すでに遅く崩壊が始まっていた。
ランマルは、今の状況が頭について行けず困惑していたが、すぐに我に返った。
(こんな所で死ぬわけには行かない。俺達にまだ勝ち目があるはずだ。今は撤退を優先をしよう)
兵士達をこれ以上死なせないように、すぐに指示を出した。
「撤退だ。まだ負けたわけじゃない。次倒すために今は生き延びるのだ」
ランマルの部隊は全体で四割の兵士を失った。最初のゴットン隊との戦いで一割、撤退する時に三割の兵を失った。二度惨敗したが、まだフリダム軍を倒す事は諦めていなかった。
フリダム軍も無傷ではすまなかった。最初の激突で全体の二割を失ってしまったのだ。
俺は、その醜い光景を見て思った。
(この戦いを早く終わらせたい。人間同士が殺し合いなんて……)
俺は、自分の簡易幕者に戻って行った。
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次の日も俺達はひたすら進軍していた。そのおかげもあってか昼ぐらいにつけると思っていたが、街道を進んでいくと、帝国の部隊とあった。ランマル隊だった。
ランマルは、俺達の事を睨みつけていたが、手を上げると一気に振り下ろして突撃してきた。
俺達も、こうなる事を予想してエミルを後方に待機をさせて、突撃をした。
日の光が出ている中、フリダム軍と帝国軍の両者がカーンっと鉄の音を響かせながら、交わった。
どちらも、一進一退で決着がつかない。俺も戦場に飛び込み、敵兵を倒していたがきりがなかった。
(やはり、敵の指揮官を狙わないと……)
隣にいるゴットンもそう思ったのか、俺の方に向いて小さく頷いた。
その時、ランマルの方がこちらに向かってきた。
「ゴットン将軍!あなたに一騎打ちを申し込みたい!負けた方がただちに降伏する事、どうですか」
「良いじゃろう。その賭けに乗ったわい」
「ゴットン!?それは」
俺は、ゴットンを止めようとしたが、心配するなと手で制してきた。
ゴットンとランマルは、少しの間をあけて向かいあっていた。一旦戦いを止めて見ている兵士達も心配そうな顔をしていた。
二人が見つめ合って、少しの時間が経った。風がいきなり吹いてきて、すぐに止んだ。
しかし、それが合図が如くランマルは馬を思い切り駆けさせた。
「ゴットン将軍!覚悟!」
ゴットンも同じくらいに馬を駆けさせた。
「儂はまだ遣り残した事があるんじゃ!ここでは死ねん!」
そう言い、二人の斧と槍が一瞬だけ交わり、すぐに離れていった。
俺には、どっちが勝ったのか分からなかった。もしかしたら、どちらも当たっていない可能性もある。
俺は、固唾を呑んでいたが、ランマルの体が急に傾き馬から落ちていった。
「俺の……負けです……」
そう言い残して、目を閉じた。
「敵将ランマルを討ち取ったぞ!儂らの勝ちじゃ!」
大きな声でゴットンは叫んだ。それを聞いたフリダム軍は、歓声をあげた。
フリダム軍一〇〇〇対帝国軍二〇〇〇の戦いは、三度の戦いを経てフリダム軍の勝利で終わった。
どちらの被害も大きく両軍合わせて死者は一八〇〇、負傷者は六〇〇にも上った。
帝国軍はランマルの言葉通りフリダム軍に降伏した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
結構長くなってしまいましたが、面白かったら嬉しいです。
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