アカーサス城の攻略
ランスロットは仏頂面になりながらアカーサス城の王座の横に控えていた。
ナストレア攻略戦に負けて帝都に部隊を引き連れて帰還したのは良いが、危うく激怒したオルガ国王に処刑されそうになった。
しかし、軍師のギルフォート様に助けてもらった。
その代わり反乱軍の鎮圧部隊として働き、今では三〇〇人尉までになり、再び戻ってこれた。
これで義によってマース将軍やスノーハート副将の仇を取れると思っていたのだが、玉座に座っている人物を見ると勝てるのか分からなくなってきた。
「ランスロット。朕の為にお菓子を持ってきてくれぬか?とびきり甘いのが良いぞ」
そうこのアカーサス城を指揮するのが、ベルルナ五〇〇人佐だ。
ベルルナは、有名な貴族の出身で金と権力でここまで上り詰めた男である。その下に剣術の天才と言われた妹が居るらしいが、仲がすこぶる悪いらしい。
しかし、そのおかげで戦闘経験はゼロに近く、重臣でも使用人みたいな事をやらされる。
俺は、その事を話そうかと思った瞬間、一人の男が入ってきて、ベルルナの前に膝をつき頭を垂れた。
「報告します。敵の部隊およそ二五〇〇が急速に接近中です。いかがなされますか?」
「ふむ、もう敵が来たのか?もう少しゆっくりしたかったのだが」
何だこいつは、と言う目でベルルナの事を見ていた。少し考えた後、命令をした。
「敵は全軍で出てきているのだな。朕も全軍で出撃する」
「待って下さい!」
俺は慌てながら止めに入った。ベルルナは嫌そうな顔をしながら俺の方に向いてきた。
「出撃などではなく、篭城の策が良いかと思います」
「何故じゃ!こちらの方が数で勝っているのに何故篭城などせなければならないのじゃ!」
ベルルナは自分の案をランスロットに反対されて激怒していた。
「フリダム軍は、帝国を二度も退けるほどの武力と知恵があります。今回も何かやってくるに違いがありません!」
「うるさい!黙れ!二度も失敗した理由は指揮を取るやつが無能だったからだ!これは命令だ!」
ベルルナは、すぐ近くの兵士に全軍で出撃して敵を迎え撃つと言って自分の部屋に戻って行った。
俺は、はあっとため息をつきながらさっき報告してきた兵士に話しかけた。
「何でダデムが報告してきてるんだ?他に人は居なかったのか?」
「人は居たが楽しくなりそうなんで俺が変わりに来た」
ダデムはニヤニヤしながら答えた。ダデムは同い年で170と普通の身長で俺の副官だが、背中に身長と同じぐらい大きい剣を背負っていた。
「しかし、今回の戦いはどうなるかね。あの狸の案でも良いが、城に何かあった時は対処が出来るかどうかだな。そう思うとランスロットの策は一番いいかもな」
「でも、決まったものは仕方が無い。敵を全力で叩き潰すのみ。ダデム、今回の戦いお前に期待しているぞ」
「あいよ。任せな」
俺たちは短いやり取りをすると戦いの準備をする為にすぐに兵舎に向かった。
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帝国軍は今フリダム軍と激しいにらみ合いになっていた。
しかし、少しずつだがフリダム軍が後退していた。それを見たベルルナは、笑みを浮かべた。
「やはり朕の案は合っていたな。籠城など敵を思い上がらせるだけである。ランスロット。朕はここで休んでおるから全軍突撃命令を出してくれ」
「……了解しました」
ランスロットは、突撃命令を出した。敵はそれに驚いて全力で逃げ始めた。わざとではなく、本気で逃げているようで罠とかでは無いようだ。
「……敵はわざとではなく本気で逃げているようだな。ランスロットもそう思うか?」
「俺もそう思っていたところだ」
俺の近くに来ていたダデムが相手の事をよく観察しながら言った。
俺もその事に同意すると、暇そうな声で言ってきた。
「今回はあの狸の案で正解だったな。でもこれじゃあ暇だな~」
「お前も戦えよ。このまま無駄飯ぐらいになるなよ」
「了解です!ランスロット隊長!」
そう言うと笑いながら敵の追撃をしに行った。
しかし、何故だが知らないが嫌な予感がさっきから感じていたが、振り払って行こうとした時、慌てた兵士が俺に報告してきた。
「報告します!敵がアカーサス城を占拠されました!」
「何!?」
ランスロットは驚愕した。偵察部隊の報告では敵の部隊が二五〇〇しかないはずで今俺たちの前から逃げているのが全員のはずではっと思ったがすぐに命令を出した。
「今すぐ城に戻るぞ!このままでは大変な事になる!」
帝国軍はすぐさま城まで戻ろうとしたが、さっきまで逃げていたフリダム軍が反転して襲い掛かってきた。
どうすればっと考えながら後退していると前方から敵の大部隊が現れた。
「城を落とした敵がこちらに向かってきた模様です!およそ一〇〇〇です!」
「挟み撃ちだと!卑劣な!」
「ランスロット!何事なのだ!」
ベルルナは何が起きているのか分からない様子で向かってきた。
「べルルナ様!敵に挟撃されました!早く撤退命令を!」
「そ、そんな事出来るわけない!こ、このまま戦うのだ!」
「これでは兵士たちが無駄死ににしてしまいます!」
「うるさい!朕が負ければ帝国の笑いものになってしまう!」
いつの間にか帰ってきたダデムが怒り心頭でベルルナに掴みかかろうとした。
「この狸が!いい加減に」
「止めろ!敵の思うつぼだ!」
ダデムの怒りは同意したいが、このままでは敵を倒す事など出来なくなってしまうため、ベルルナの命令に従った。
「了解です。直ちに敵を排除します。ですが、ベルルナ様は撤退をして下さい。これだけは譲れません!」
「……分かったぞ。五〇〇の兵を率いてアイザックに助けてもらうが、貴様たちは全員倒せるまで帰ってくるな!分かったな!」
「……了解」
俺は、怒りを心の奥底に押し殺しながら言った。
ベルルナが五〇〇の兵を率いて戦線を離脱するのを見届けて、ランスロットは戦いに身を投じた。
その頃フリダム軍は正輝が考え出した作戦で数で負けているものの優位に立っていた。
その作戦とは、まず一五〇〇と町で雇った住民を使い二五〇〇に見立てて敵の城の一歩手前まで進軍。それで敵が全軍で出てきた事を知り物量の差で勝てると知り、攻めて来る。その間にあとの一〇〇〇を先行させ城を取ってもらうが普通では開けてもらえないので、オリガ帝国の旗を掲げて見せて城門が開いたら城を取り、すぐに敵の背後を取って戦意を挫くと言う策だ。
あと、別件で傭兵達に金で雇いシンクとマルニーアに合計一〇〇〇の兵を預けた。
隣のエミルは心配そうな顔をしていたが、大丈夫っと言って元気づけた。
「エミル。俺も戦ってくる!皆にやらせるわけに行かないしね」
「分かったわ。でも約束よ。絶対帰ってくるって」
「当たり前だよ。任せなさい!」
俺は、笑ってエミルの傍を離れ、近くにアリスが居たので二人で戦場に向かっていった。
『おおーーっ!』
さすがに戦場はやっていてもなれることは無さそうだっと思った。
俺は、帝国兵士に剣を向けられ襲ってきたが、剣を受け流し隙を突いて攻撃をした。剣の修行をナストレアに来てから、フリードにしごかれていたから少しは出来ると思っている。
しかし、さすがに二、三人になってくると話は違ってくる。じりじりと追い詰められていたが、後ろからナイフが飛んできて、俺と戦っていた敵が全員倒れた。
「助かった。ありがとう。アリス」
「マサキが無事でよかった。どんどん倒そう」
「そうだな。でも、投降してきた兵士は殺しちゃダメだぞ」
「うん」
その時、一頭の馬に乗った兵士二人がフリダム軍の兵士を斬りながら近づいて来た。
「マサキ生きていたのか!でも、ここは危ないから逃げるんだ!」
「知り合いか?……敵将アリスか!」
ダデムは視線を鋭くしながらアリスと俺の方を見てきた。
「どう言う事だ!マサキ!何でフリダム軍の将と一緒に居るんだ!」
「ランスロット、すまない。俺はフリダム軍の兵士なんだ!」
ランスロットは一瞬驚いたがすぐに激怒した表情になった。
「裏切り者!私の手で葬ってやる!ダデムそっちは頼むぞ!」
「おう!任せろ!」
そう言ったのと同時に俺たちに剣を向けてきた。
俺は、ランスロットの剣を寸前の所で後ろに下がってかわした。しかし、攻撃スピードが速く、逃げるだけでもとてもきつい。かわし時には敵の剣を弾いていたが、とうとう追い詰められてしまった。
「最後に言い残す事はないか」
「さすがだった。剣のスピード、正確さ全てにおいて凄かった。俺の負けだ」
すまないっと言ってランスロットは剣を俺の頭めがけて振り下ろした。
俺は、目をつぶっていたが、何も起きない事に不自然と思って目を少しずつ開けた。俺の目の前で剣が止まっていた。いや、槍が止めていた。
「おいおい。俺の兄貴に手を出さないでくれないか?そんなに戦いたいんだったら俺が相手になるぜ!」
フリードはそう言った瞬間、剣を思いっきり槍で弾き飛ばして、更にランスロットに向かって振り下ろした。
しかし、ランスロットはもう一つの剣を抜き出しそれを受け止めた。
「やるじゃねえか!」
「貴様もな!」
二人はまたぶつかるかと思ったがダデムが馬を思い切り走らせてきた。
「どうした!ダデム!」
「ベルルナがやられた!急いで退却しなきゃ俺たちもやばいかもな」
「そうだな!帝国軍の諸君今から撤退をする。速やかにだ!」
その言葉に帝国兵が一瞬驚いていたいたがすぐに我に返ると撤退を始めた。フリードたちに向き直ると、視線を鋭くしながら言った。
「今回も負けたのか。次回また会うだろうが、そのときは負けん!」
「逃がすかよ!」
フリードは槍で斬りかかったが、剣で受け流されてしまった。ランスロットは真剣の顔で馬から下りた。
「おいおい。早くしろ!」
「分かっている。でも、このままでは追いつかれてしまう。俺が時間を稼ぐから先に行け!」
「……了解」
ダデムは、しぶしぶ了承をした。
ランスロットとフリードは十メートルぐらい離れているがもっと近くに思えた。ランスロットは少しだけ笑みを浮かべた。
「本当は使わないつもりでいたが、本気でやらねばこちらがやられるからな」
「何だと!」
ランスロットは自分の剣を天に掲げた。
「我が義によって悪を滅す。行くぞ!衝撃波竜剣!」
天に掲げた剣を空間を断絶するような勢いで振った。その瞬間、ドラゴンのような衝撃波が土煙を上げながらフリードに向かって直進した。
「うおおっーーー!」
そう言ってそれに向かって剣を振り落としたが、斬る事ができなかった。それを直撃で受けたフリードはぐはっと血反吐を吐いた。
しかし、いかにも辛そうだがランスロットに向かって笑った。
「はあ、はあ、俺は平気だぞ。それ、だけか、はあ」
「……」
ランスロットは無言のまま馬に跨り去ろうとしたがフリードは追いかけようとした。
「ま、待て……まだ……決着はついて、はあ……ない」
「今の俺は貴様を倒す事ではない!味方を逃がすために戦っただけだ。次回また会うだろう」
そう言い残して去っていった。フリードは、泣きながらくそっと言っていたが、誰かが近づいてくる音がしたのでそっちに意識がそっちに向いてしまった。ぼろぼろのアリスが立っていた。
俺は、急いでアリスの所まで行くと思いっきり抱きしめた
「アリス!無事でよかった!」
「負けてしまった。ごめんなさい」
「良いんだよ。皆生きててくれれば」
フリードもは、ふらつきながらも立ちあがった。
「ここに居る皆で言うか!」
フリードはさっきまで泣いていたので赤くなっていたが頷いてくれた。アリスも微笑みながら頷いた。
「「「俺たちの勝利だーーー!!」」」
こうしてフリダム軍二五〇〇と帝国軍三〇〇〇の戦いはブリダム軍の勝利で終わった。
のちに『アカーサス城の戦い』と言われるようになる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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