7.お買い物に行きました
私達が暮らす世界と並行して存在するというパラレルワールド。
それは、あらゆる未来と過去が分岐して生まれた「もしも」の世界。
もしも、戦国時代が刀と魔法の世界だったとしたら。
史実と違う時期に産まれた佐吉くんが存在するのも、二人が魔法を使えることにも納得出来てしまう。
「おはよ瑠璃。結構待ってたんだけど、そろそろ起きなくて大丈夫なの?」
「あ……おはよう重治くん。ごめん、すぐご飯の支度するからね」
私の寝室に起こしに来てくれた重治くん。
急いで洗面所で顔を洗って、歯を磨いて台所へ向かった。
「あ、おはようございまするりおねえさん」
「おはよう佐吉くん。すぐご飯作るから待っててね」
途中で佐吉くんと顔を合わせ、棚から六枚切りの食パンを取り出してフライパンを用意する。
今朝はフレンチトーストにしてみようと思う。バットに玉子と牛乳、お砂糖を入れて、半分に切った食パンをそこに浸す。
すると、気になったのか重治くんが覗きにやって来た。
「……何やってんの?」
「朝ご飯にフレンチトースト……って言ってもわからないよね……。何て説明したら良いんだろう」
「ふれんち……とーすと……」
「ま、まあちゃんとした食べ物だから安心して! 今日はこれを食べてから買い物に行こうと思うんだ」
液が染み渡った食パンをフライパンで焼き始めると、会話を聞いていたらしい佐吉くんもひょっこり現れた。
「お買い物ですか!? ぼ、ぼくもご一緒していいですか?」
「うん! 外のことも気になるだろうし、日用品とか色々買ってこなきゃいけないしね。皆でお出掛けしよう!」
「この時代の店か……うん、ボクも見てみたいな。ついていってあげても良いよ」
そうして朝ご飯を済ませた私達は、身支度を整えて駅前の大型ショッピングモールへと向けて出発することになった。
家の鍵を閉めて、エレベーターの前で立ち止まる。
「何この扉」
「これはエレベーターっていって、階段を使わなくても楽に昇り降りが出来る箱みたいなものなんだよ」
「えれべーたー……ですね。覚えましたっ!」
「よし、それじゃあ早速乗ってみよう!」
一階へのボタンを押すと扉が開いた。
「うわっ!?」
「か、勝手に開いたよね!? どうなってんのこれ!」
「詳しい構造はよくわからないけど……電気を使って動いてるのは確かだと思う」
佐吉くんと重治くんは自動で開いた扉に驚いていた。
魔法がある世界でも、こんなものは珍しいのかな?
そして、一階へ降りて行く途中でも下から上へと流れていく景色に釘付けになる二人。
「ほ、本当に勝手に動いてるんだね……これが先の世の技術力か」
「魔法が無いのに、こんな魔法みたいな箱をつくれるなんてすごいです!」
一階に到着してエントランスを出た。
すると目の前の道路を車が走り去っていった。
「な、何だ今の!」
「ものすごい速さの箱でした……! 今のは何なんですか、るりおえねさん!」
エレベーターに乗ってから興奮状態の二人に苦笑しながら、私はなるべくわかりやすい説明を心掛けた。
「今走っていたのは自動車っていうの。沢山の人を乗せて走る籠みたいな乗り物……なのかな」
「あ、あんな速い籠にぶつかったら大変なことになりそうです……」
そう言って私にしがみ付いた佐吉くん。それを見た重治くんは溜め息を吐いていた。
「確かに、自動車と人が接触する事故はあるよ。他にも自転車とかバイクっていう乗り物もあるから、自分が事故に遭わないように周りに気を付けてお出掛けしようね」
「は、はい……!」
「あんな乗り物、ボクの魔法なら一発で消し炭にしてやれるよ」
「冗談でもそれはやめてね重治くん! 弁償出来ないし大事故に繋がりそうだから!」
「はいはい、わかったよ」
それから佐吉くんと手を繋いで、重治くんは私達の後ろを歩いてモールまで向かった。
「人が多いねぇ」
「とても賑やかな場所ですね」
「二人共、はぐれないように気を付けてね。まずは……」
二人を連れて、まずは重治くんの服を買うことにした。
いつまでも私の服を着せたままじゃ可哀想だしね。ちゃんと男物の洋服にしてあげないと。
ファッションセンスに自信がある方じゃないから、店員さんに何着か選んでもらった。丁度在庫一掃セールをやっていて、思っていたより安く買うことが出来た。
次は雑貨だ。急に同居人が増えたから、食器やら何やら買い足しておかないと不安だった。
まだ戦国っ子が増えるかもしれないもんね。
「ぼく、このこっぷ気に入りました!」
「ボクこの箸が良い。手に馴染む」
佐吉くんは熊の絵が入った黄緑色のコップを持って来て、重治くんはお箸コーナーからお気に入りのお箸を見付けて私に差し出した。
他にもお皿とかバスタオルなんかも選んでもらって、それらを購入してから今度は食料品売り場で数日分の食料を買った。
佐吉くんも重治くんも幾つか荷物が入った袋を持ってくれて、ショッピングモールで見た色々なものの話をしながら家路についたのだった。