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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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6.不思議なことだと思いました

 我が家にやってきた二人目の少年、竹中重治くん。彼と佐吉くんは、なんと魔法を使える未来の戦国武将だった。


「……ところでボク小腹が空いたんだけど、何か食べるものある?」

「るりおねえさんが、でざーとというものを用意してくれているんです。しげはるさんの分もありますか?」

「う、うん! 多めに作っておいたから皆で食べられるよ」


 重治くんと佐吉くんを連れてテーブルにつかせ、私は冷蔵庫から冷やし固めておいた手作りの蜜柑ゼリーとスプーンを運んだ。


「はい、これが今日のデザートの蜜柑ゼリーだよ」


 佐吉くんは目をキラキラと輝かせ、重治くんはじっとゼリーを観察していた。


「これは……果物を寒天で固めたもの?」

「そうだよー。ゼラチンでやるのもアリかと思ったんだけど、あれの作り方を知ってから何か怖くなっちゃって……」

「ぜらちん……未来にはそんなものがあるんだね」

「それはどうやって作るんですか?」

「えーっと……動物の骨を煮て、固める成分を取り出す……とかだったかな? 何か生々しくて寒天の方が無難かなって思っちゃったんだ」

「へぇー。で、これはこれですくって食べればいいわけ?」

「うん。どうぞ召し上がれ」


 ぷるんとしたゼリーにスプーンを入れ、重治くんはそれを口に運ぶ。

 すると、その手を佐吉くんが押さえて止めた。


「だ、だめですしげはるさん! まだいただきますしてないですっ」

「はぁ?」

「食べる前にはいただきますをして、食材や料理人の方などに感謝の気持ちをあらわさなければいけません! ぼくがお手本を見せますから、しげはるさんもやってみてください」


 背筋を正して、両手をしっかり合わせていただきますをした。

 それを見た重治くんも、見様見真似でいただきますをやってみせた。


「いただきます!」

「……いただきます」


 そうして二人は蜜柑ゼリーを口にした。


「ど、どうかな? ちゃんと美味しく出来てるかな?」

「……さっぱりしてて食べやすいと思うけど」

「かれーを食べた後だとすっきりいただけますね! とってもおいしいですっ」

「良かったぁー!」


 彼らの口に合うようで安心した。

 私もゼリーを食べ始めて、ちょっと前から気になっていたことを訊ねてみた。二人の年齢の話だ。

 佐吉くんは数え年で十歳で、重治くんは十六歳。現代で一般的な数え方の満年齢にすると、多分九歳と十五歳になる。

 意外なことに、重治くんは小学校六年生くらいだと思っていたから驚いてしまった。子供だけど童顔だなぁ重治くん。


 それから、佐吉くんには重治くんにお風呂の使い方を教えてあげてもらった。

 流石に佐吉くん用に用意してもらった子供服じゃ入らなかったから、私のTシャツと短パンを着てもらう。

 そして和室に布団を敷いたは良いものの、この家には来客用の布団は二組しかない。


「佐吉くんと重治くんにはこの部屋で寝てもらって、私は向こうの部屋で寝ようかと思うんだけどどうかな?」


 玄関からすぐにある部屋が私の部屋だ。佐吉くんと初めて出会ったベッドがあるあの場所。


「ボクは構わないよ」

「るりおねえさんと離れ離れ……」

「何だお前、その齢でまだそんな甘えた事言ってるのか?」


 離れ離れといっても、すぐに会える距離なのだけれど……。

 佐吉くんが来てからずっと一緒に寝ていたから、寂しいのかもしれない。


「だって……」

「気にしないで良いよ瑠璃。こいつだって男なんだ。いつまでも子供じゃいられないってことくらいわかってるでしょ」

「そ、それはそうかもだけど……」


 不安気な目で見上げてくる佐吉くんの手を取って、重治くんが和室に連れて行った。


「明日にでも買い物に行こうよ。色々この時代の物を見ておきたいし、必要な物もあるだろうし。じゃあおやすみ瑠璃」

「お、おやすみなさい……るりおねえさん」

「うん。おやすみ重治くん、佐吉くん」


 ちょっと可哀想だと思ったけど、重治くんの言うことは正しいことなんだろう。

 身に付けたものが現代の衣服でも、彼らが生きるのは戦国時代。二人はそう遠くない将来、生死をかけた戦いに身を投じる世界の住人なのだ。

 だからこそ、些細な甘えも許されないのだろう。


 二人が眠った頃、私は竹原さんの部屋を訪ねた。重治くんのことを報告する為だ。

 我が家に戦国時代の子供がやって来たことを知っているのは竹原さんだけだ。

 お父さんやお母さんに言ったら余計な心配をかけてしまうかもしれない。そう思うと相談出来る相手が竹原さんしかいないのだ。


「それで今日はどうしたの瑠璃ちゃん? もしかして、また別の武将っ子がトリップしてきたとかだったりして」

「そ、その通りです」

「あらまあ! え、次はどの子? 誰が来たの?」


 熱い緑茶を出してもらい、向かい合ってお煎餅に手を伸ばす竹原さん。話の食いつき方が凄い。


「竹中重治っていう子なんですけど……」

「半兵衛か……これはまた有名な子が来たものね。で、歳は案外いってるわよね?」

「はい。見た目はちょっと幼いんですけど、どうやら十五歳くらいみたいです」

「……え、それ本当?」

「わざわざ嘘なんて言わないですよ!」


 竹原さんがまた難しい顔をした。


「……半兵衛がその歳だと、まだ三成は生まれてないはずなのよ」

「ええっ!?」

「おかしいわね……。ねえ瑠璃ちゃん、他に何かわかったことはない? 判断材料が足りなすぎるわ」

「ほ、他のこと……あ、あの子達魔法が使えるんです!」

「ま、魔法!?」


 目の前で炎や水を出してみせたことを伝えたけれど、竹原さんはずっと難しい顔のままだった。


「魔法……時渡りの術ねぇ」

「不思議な話だとは思いますけど、本当に重治くんがそう言ってました」

「……まだ結論は出ないけど、私達の時代と彼らの時代の間に何かが起きて、未来では何らかの影響で魔法が消えた……っていう半兵衛の推論もあり得ない話じゃないのかもしれないわね。後は……そう、パラレルワールドとか」

「パラレルワールド……?」

「この世界と同時に存在する、もしもの世界ってことよ。もしかしたら、あの子達は「魔法が存在する世界」からトリップしてきたのかもしれないわ」


 竹原さんの言う通り、そんな世界が……それも魔法が存在する戦国時代があるのだとしたら、この現象も説明がつくのだろうか。



 

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