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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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5.何度も驚かされました

 リビングの隣の部屋は和室になっている。佐吉くんが来てからは私もそこで布団を並べて寝室として使っていたそこには、押し入れがある。

 その押し入れの中には、何故か髪の長い男の子が居た。


「……あのさぁ、こんな所にボクを押し込んだのってアンタ?」

「そんなことしてないよ」

「まあ良いや。とりあえずここ出たいからそこどいて。出られないから」

「ご、ごめんね」


 気が強いのか肝が座っているのか、美少年くんは突然の出来事に狼狽えることもなく至って冷静に押し入れから出て来た。

 あれ? この子も着物を着てる。


「……何この部屋。どこなのここ。アンタらどちら様?」


 しっとりと艶のある深い紫がかった髪と円らな瞳。その容姿だけでは一瞬女の子かと錯覚してしまいそうになる。

 けれど、年頃の男の子らしい声変わりし始めた少し低めの声と骨張った手は、確かに彼が男の子なのだと証明していた。


「えっと、私は松山瑠璃。この家の家主ってことになるのかな」

「ぼくは佐吉と言います。るりおねえさんにお世話になっています」


 何となく、予感はしていた。


「じゃあ瑠璃、アンタがボクを(さら)ったってワケ? ボクさぁ、色々やんなきゃならないことがあるから早く帰りたいんだけど。ここ美濃?」

「ココミノ……?」

「ここは美濃国(みののくに)なのかって訊いてんの。アンタバカなの?」

「ぐっ……辛辣美少年かこの子っ!」


 ごめんなさいね、普段旧国名使って生活してないからわからなくって。

 美濃って所から来てて、着物を着ていきなりこの家にやってきた。このパターンは佐吉くんと同じだ。

 多分この美少年も戦国時代から来たんだろうけど……。


「あの……どうかしましたか?」


 さっきまであれだけ口数が多かった美少年くんが黙り込んでしまった。そんな彼を見て佐吉くんが心配そうにしている。

 私、何か気に障るようなこと言っちゃったかな。あ、美少年はまだしも辛辣って言ったのがまずかった?


「……アンタ、ボクが男だってわかったの?」

「え……う、うん。凄く綺麗な子だなとは思ったけど、やっぱり男の子にしか見えないし」

「ぼくもそう思いました」


 きょとんとした顔をしていた美少年くんは、私達の言葉を聞いて小さく笑った。


「そう……ふふっ、そうなんだ。珍しいねアンタ達。一発でボクを男だと見抜ける人は滅多に居ないんだよ」


 機嫌が良くなった美少年くんは、私より少し低い目線から顔を上げて言う。


「……それで瑠璃。ここは美濃なの? 違うの?」

「うーん……色々と違うかな」

「はぁ? どういうこと?」


 これは佐吉くんにも簡単にしか説明出来ていないことだ。

 佐吉くんと美少年くんの不安気な顔を見ながら、私は重い口を開いた。


「えっとね、ここは佐吉くんや君の……あ、名前教えてもらってもいいかな?」

重治(しげはる)。竹中重治だよ」

「重治くんだね。ここは、二人が暮らしていた時代より何百年か先の未来なの。信じてもらえないかもしれないんだけど……」

「はぁ……!?」


 重治くんは、こんなに豊かな表情も出来るのかと思う程目を見開いた。

 驚くのは当たり前だ。私だってある日突然未来に行ってしまったら、とっても驚くし、その後の生活が怖いから。


「そんなあり得ない話、あるワケっ……! ある……かも……」

「信じてくれるってこと……?」

「信じる信じないの前に風の噂で耳にした話なんだけど、織田に仕えてる誰だかが時渡りの術を研究してるとかなんとかって……。もしかしたらそれに巻き込まれでもしたのかもね」

「時渡り!?」


 時間を越える、タイムスリップみたいなことだよね。


「そんな魔法みたいなことを研究してる人が居るの?」


 私がそう言うと佐吉くんは不思議そうに首を傾げ、重治くんは空いた口が塞がらないといった様子だった。


「え、アンタ……」

「るりおねえさん、魔法を見たことがないんですか?」

「普通見たことないと思うんだけど……私、何かおかしなこと言ってる?」

「おかしいでしょ! 何? ここには魔法使いは一人も居ないワケ!?」

「普通居ないと思うんだけど!」


 まさかの歴史的大発見?

 戦国時代には魔法の技術があっただなんて、そんなの聞いたことが無い。

 この時代でも聞いたことがあるのは青森のイタコさんとか、外国の悪魔払いの人とか……せいぜいそれぐらいだ。

 時を渡る魔法だなんて、そんなことが出来る人なんて本当に居るのだろうか。


「じゃあ瑠璃も魔法使えないの?」

「使えないよ。重治くんと佐吉くんは出来たりしちゃうの?」

「そりゃあ勿論! 魔法くらい出来なきゃ立派な武人になんてなれないからね」


 そう言って重治くんは右の掌から炎を出してしまった。


「ほら、こんな風に炎を出せる。お前も出来るよな?」

「はいっ」


 今度は空中を指差した佐吉くんが、その指先に小さな水の球を浮かべたではないか。


「ぼくは水の使い手なんです。本当にるりおねえさんは魔法を見たことがないんですね」

「うん……初見じゃないのにこんなに驚く人居ないでしょ……。驚きすぎて言葉が出ないよ……」


 目の前で、小さな男の子達が手から炎と水を出している。

 きっと、種も仕掛けもない。本当にこの子達は「魔法」を使っているんだ。


「……っていうか重治くん! それ消して!」

「え? もしかしてアンタ火苦手だった?」

「火災報知器鳴るから! 一刻も早く火を消そう! さあ!」

「な、何の事言ってんのかわかんないけど、そこまで鬼気迫って言うなら消すよ……」


 重治くんが炎を握り潰すと、彼が火傷することもなくあっという間に炎は消えた。

 それを見た佐吉くんも水の球を何事も無かったかのように消してみせた。


「……あのさぁ、もしかしてアンタの時代には魔法とかって無かったりする?」

「うーん……本当に無いとは言い切れないけど、君達みたいに簡単に火を出したり出来る人は見たことない」

「何百年か先の世には魔法使いが居ない……。それまでに日ノ本で何か重大な事件か何かが起きて、魔法に関する様々な知識や力が失われてしまった……と考えるべきなのかな」

「そうなのかも……しれないね」


 事実、彼らは本当に戦国時代からやって来た子供達だ。

 その時代に生きた彼らの言葉に間違いは無いだろう。


「佐吉って言ったよな。お前もいきなりこの時代に飛ばされたのか?」

「はい。朝起きたら、るりおねえさんの布団の中に……」

「お前は布団でボクが押し入れってどういうことなの? ねえ、どういうことなの?」

「そ、それはわかりません……!」


 そういえば、重治くんももしかしたら有名な人かもしれないよね。

 佐吉くんはあの石田三成だったし、調べたら何か分かるかも。


「織田の誰だか知らないけど、実験に失敗するのは良いけどそれで他人を巻き込んでそのまま放置するとか信じられない。絶対そいつ許さない……」


 スマートフォンで竹中重治を検索してみた。


「帰ったら絶対犯人見付け出して詫び入れてもらうからな……!」

「……わぁーおビックリ」

「どうしたんですか?」

「いや、その……」


 激しい怒りの炎を燃やすこの美少年が、将来あの豊臣秀吉の軍師になる竹中半兵衛なんだって……。

 本当に有名人だったんだね、重治くん。お姉さんビックリしすぎて気が遠くなりそうだよ。



 

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