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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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4.見上げられました

 佐吉くんとの生活が始まって、一週間が経った。

 やっぱりあの子はとても賢い。現代の道具の使い方を教えれば、驚きの吸収力で全て覚えてしまうのだ。


「佐吉くーん! そろそろカーテン閉めて電気点けてくれる?」

「はいっ」


 日が暮れてきたので、夕飯の支度をしていた私に代わって佐吉くんに簡単なお手伝いをしてもらった。

 今ではカーテンが何を示す言葉なのかとか、部屋の明かりはどうやって確保するのかとか、テレビの電源の付け方やチャンネルの変え方もバッチリ理解している。

 佐吉くんと同い年の現代っ子と比べたらこれくらい出来て当たり前だと思う。

 だけど、彼は戦国時代からタイムスリップしてきた子だ。彼が暮らす時代より進化した文明の道具をちゃんと使えるって、凄いことだよね。


「るりおねえさん、他にお手伝いできることありませんか?」


 台所へとやって来た佐吉くんは、食材を調理する私の顔を見上げながらそう言った。


「そうだね……。もうちょっとしたら晩ご飯出来上がるから、お皿出してもらえるかな? そこの段にある、丸くて平べったいやつ」


 私がお願いすると、すぐにお皿を取り出してくれた。


「これですね!」

「そうそれ! 後はテーブルを拭いといてもらえるとすっごく助かっちゃう!」

「わかりました!」


 お手伝いが楽しいのか、佐吉くんはいつもてきぱきと色んなことをこなしてくれる。

 私が子供の頃なんて、こんなに家の事なんてやっていなかったと思う。両親は仕事で忙しくて、家に家政婦さんが居たからっていうのもあるんだろうけどね。


「私ももっとちゃんとしなくちゃなぁ……」


 今日の夕飯には、デザートに蜜柑ゼリーを付けちゃおう。佐吉くんへのご褒美ってことで。

 私も食べるけど。だって何か淋しくなっちゃうし。


「よーし! こんな感じで良いはずだよね」


 佐吉くんが出してくれた白いお皿にご飯を盛って、お鍋で煮込んだそれをお玉で掬い入れる。

 すると、ふきんを持った佐吉くんが戻って来た。


「てーぶる拭きました!」

「ありがとう佐吉くん! 丁度ご飯出来たところだよ」

「ぼく、運ぶのお手伝いしますね」

「ああ、何から何までありがとう佐吉くん……!」


 こんな天使みたいな子、現代に何人居ますかね。

 ああ、気持ち悪いにやけ顔してたらどうしよう。

 佐吉くんにはサラダとドレッシングを運んでもらった。私は残りの物を全部持っていく。

 こんなに可愛い子と毎日ご飯が食べられるもんだから、お姉さん妙に元気が出て来ちゃいますよ。料理ももっと上手くなれるように頑張っちゃいますよ。

 今日のメニューは佐吉くんが初めて食べる料理にしてみた。


「るりおねえさん、このお料理は何というものなんですか? とてもいい匂いがします!」

「これはね、カレーっていうお料理なんだよ。野菜をたっぷり使ってるから、身体に優しいはずだよ」

「かれー……お米と一緒に食べるものなんですね」

「うん。カレーは大人も子供も大好きな家庭料理の一つだからね。きっと佐吉くんも気に入ってくれると思うよ! それじゃあ……いただきます!」

「いただきますっ」


 佐吉くんにスプーンの使い方を簡単に説明して、まずは私が見本としてカレーを掬ってみせた。


「これで……こうやってカレーを掬って食べるの。佐吉くんもやってみて」

「えっと……こう、ですね?」

「そうそう! それで、そのままお口にどうぞ!」


 食欲を刺激する香りに、佐吉くんは目を輝かせながら初めてのカレーを口に運んだ。


「どうかな……?」


 辛いのが苦手だったら困るから、一応甘口のカレーにしてみたんだけど。


「……っ、おいしいです! すごく不思議ですけどおいしいです!」

「本当!? 良かったぁ……!」

「最初はお米に泥がかかっているのかと思いましたが、かれーというお料理は魔法みたいに不思議な食べ物なんですね!」

「ど、泥かぁ……まあそう見えるかもしれないけど」


 佐吉くんの言う通り、彼の様にカレーという食べ物の存在を知らない人から見れば、カレーが泥に見えなくもないのかもしれない。

 だけど、こんなに喜んで食べてくれるなら作った甲斐があった。


「おかわり沢山あるから、もっと食べたかったら言ってね」

「はいっ」


 そうして初めてのカレー体験をした後は、始めてのサラダにドレッシング体験を終えた。

 そうそう。佐吉くんには現代の服に着替えてもらっている。

 竹原さんの知り合いに子供服のお店をやってる人が居て、在庫が余りすぎたものを格安で入手してくれたらしい。

 売れなかった割に結構良い洋服だと思うんだけどな。

 佐吉くんが元々着ていた着物は、竹原さんがばっちり管理してくれている。あの人は本当に何でも出来る超人なんじゃないかと思う。


「そうだ、まだデザートがあるんだよ!」

「でざーと?」

「あー……えっと、何て言うのかな……。ご飯の後に食べる、さっぱりした甘いもの……かな?」


 この短い期間に、佐吉くんに教えた現代の知識は数多くある。

 その中でも教えるのに困るのは、昔には無い言葉の説明だ。

 私達現代人は、デザートといえばそれだけで大体のイメージが出来てしまう。アイスクリームとかケーキとか、そういうスイーツ系を思い浮かべると思う。

 だけど、私には戦国時代の文化や風習なんかには疎いから、佐吉くんに分かりやすく説明する為の言葉選びが大変なのだ。


「デザートを食べる前に、一旦お皿とか片付けちゃおう」

「はいっ」


 佐吉くんと一緒に食器をシンクに運んでいると、部屋の奥からドカッという物音がした。


「えっ? 何今の音」

「あっちのお部屋からみたいですね」


 音のした方へと向かうと、どうやら押し入れの中が怪しいようだった。

 中に入れていた荷物が崩れたのかな、と思って襖を開ける。


「……え?」


 押し入れの中には、眉間に皺を寄せて、窮屈そうな顔で私を見上げる長い髪の美少年が居た。



 

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