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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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3.覚悟を決めました

 私の家に戻ってきたのはお昼前だった。

 佐吉くんは、もしかしたら戦国武将の石田三成かもしれない。竹原さんが私に伝えたその話は、あまりにも衝撃的で戸惑った。

 佐吉くんに知られないように、家に戻ってから竹原さんとメールでやり取りをすることになった。

 石田三成は関ヶ原の戦いで、徳川家康に負ける。そんな未来をまだ幼い佐吉くんに聞かせるわけにはいかなかったからだ。

 竹原さんと寝室で話を済ませた後、佐吉くんに幾つか戦国時代の話題をぶつけてみた。といっても、私は二人の会話を聞いているだけだったんだけど。

 私にはちょっとわからないところもあったけど、一通り質問を投げ掛けた竹原さんの判断はやはり変わらなかった。


『佐吉君、タイムスリップ確定よ』


 その文面を目にして、私は眉を八の字にするしかなかった。

 竹原さんからのメールには、私が佐吉くんをしっかり世話するようにと書かれていた。

 これから佐吉くんを警察に預けたとして、この時代では身元が確かではない彼をどうするかわかったもんじゃない。とっくの昔に亡くなった人物が過去からタイムスリップしてきました! なんて言っても相手にされない。むしろ私や佐吉くんが何らかの事件に巻き込まれる危険があるかも。

 だから私が佐吉くんを家に置いて、彼が元の時代に帰るその時まで責任を持って保護しなさい。

 竹原さんの言う通りなのかもしれない。いきなり平成にやって来て家族も知り合いも居ないのに、知らない大人達のもとへ預けて後は知らんぷりなんて出来ないよ。


「るりおねえさん」


 リビングで一緒にお茶を飲んでいると、佐吉くんが話し掛けてきた。


「どうしたの?」

「あの……なんとなくなんですけど、ぼくが近江に帰るのって難しいんですよね?」


 子供ながらに察していたらしい。佐吉くんは賢い子だから、この家やマンションの外から見える景色を見て感じたのだろう。

 私は曖昧な笑顔を浮かべながら考える。

 彼が本当はこの時代の人間ではないのだと伝えたとして、素直に受け入れてくれるのか。きっと、佐吉くんなら信じてはくれるはず。

 だけど、信じることと受け入れることは違うと思う。まだ幼いこの子に、ありのままを伝えても大丈夫なのだろうか。


「……佐吉くん」

「はい」

「私や竹原さんのお家って、佐吉くんのお家と色々違うところがあるでしょ?」


 玄関も台所も、時計やテーブルだってこの平成では当たり前のものでも、佐吉くんにとっては見たことがないものだ。

 私が着ている服だって佐吉くんみたいな着物ではないし、点けていないテレビや部屋の明かりなんかも摩訶不思議だと思う。

 それだけ彼の日常とは掛け離れたものに囲まれているにも関わらず、ここまで落ち着いていられる佐吉くんはやはり大物なんだろう。


「……実はね、ここは未来の日本なの」

「未来……?」

「佐吉くんが暮らす時代より、何百年も先の時代なんだ」


 違和感は感じていたようだったけれど、流石に自分が未来の世界に来ているとは思ってもいなかったようで、佐吉くんはつぶらな瞳を丸く見開いて驚いた。


「ここが、先の世の日ノ本……!?」

「……信じられないかもしれないけど、本当なの。これも未来の道具なんだよ」


 テーブルに置いておいたスマートフォンを手に取り、カメラアプリを起動して私と佐吉くんが写るように写真を撮った。

 シャッター音に肩を跳ねさせた佐吉くんに申し訳ない気持ちになりながら、今撮ったばかりの画面を見せる。


「この道具って色々なことが出来るんだけど、例えばこんな風に人や物の姿を収められたりするんだ。ほら、私と佐吉くんの絵が見えるでしょ?」

「は、はい……本当にぼくとるりおねえさんにそっくりな絵です」


 本当は絵じゃなくて写真だけど、そう言った方が分かりやすいよね。


「あとは……この大きい板。テレビって言うんだけどね、遠くの人が動く絵になって色んなことを教えてくれたりするものなの。一方的に教えられるだけだから返事とかはしてくれないけど……」


 そう言ってからリモコンでテレビの電源を点けると、お昼のワイドショーがやっていた。


「わあっ! 板の中に人がいます! こ、こんな狭いところに閉じ込められているんですか……!?」

「閉じ込められてないから大丈夫だよ! 遠い場所で起きたことを、この板を通じて皆が見られるようにする道具……で伝わるかな?」

「……とつぜんのことなので、まだ全部理解できたわけじゃないですけど……近江にもこんな道具はありませんでした。父上からも、こんなものがあるだなんて聞いたこともありませんでしたし……」


 私を信用してくれているからなのか、佐吉くんは私の手をきゅっと握ってこう言った。


「ぼくは、るりおねえさんのお話が本当だと思いました」


 真っ直ぐに見つめる瞳には、幼くても強い意思が宿っていた。


「右も左もわからないこの先の世で、ぼくはるりおねえさんのお世話にならないと生きていけません。ぼくが暮らしていた時代に帰るまで、一緒にいてくれませんか?」


 佐吉くんが、戦国時代に帰るその日まで。


「だめ……ですか?」


 無意識なのか、破壊力のある上目遣いで言った佐吉くんをぎゅうっと抱き締めた。


「一緒に居るよ、佐吉くん! 私が絶対、絶対に佐吉くんをお家に帰してあげるから……」

「るりおねえさん……!」


 抱き締め返してくれた佐吉くんの頭を撫でながら、私は決意した。

 この子が元の時代に帰るまで、私は佐吉くんの親代わりになる。

 いつかお別れする日が来てしまうのだろうけれど、この出会いはきっと意味があることだ。

 その日を思うと胸が苦しい。でも、私に出来るのはほんの小さなことだけだから。せめて、この時代で楽しい思い出を作ってもらいたい。だから……。


「私を信じて」


 私は、全てを受け入れる覚悟を決めるよ。



 

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