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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
3/18

2.予想もしていませんでした

「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでしたっ」


 佐吉くんにごちそうさまを教えて、シンクまでお皿運びを手伝ってもらった。

 私は食べるのがゆっくりな方なんだけど、佐吉くんはご飯をちょっとずつ口に運んでいた。そのお陰で私だけが遅いという状況にはならないし、美味しそうに朝ご飯を食べる佐吉くんを眺めているのが幸せだった。

 さてと、お皿は後で洗うとして佐吉くんをどうしようかな。

 佐吉くんの家はどうやら滋賀県にあるみたいだし、住所は分からないみたいだ。近江に住んでるという情報しかない。


「佐吉くん」

「はい」

「これからお隣のお姉さんに会いに行こうと思うんだけど、一緒に来る?」

「行きます!」


 どうやら私に懐いてくれたようだ。佐吉くんは私の手を握って、きらきらした瞳で顔を見上げている。

 私の家にはどうやらエンジェルが迷い込んできたらしい。


「じゃあ一緒に行こうか」

「はい、るりおねえさん!」


 早速隣のお姉さん、竹原さんの家のインターフォンに向かった。

 今日は幸い竹原さんがお休みの日だったから、すぐに玄関扉が開かれた。


「おはよう瑠璃ちゃん。とりあえず上がって」

「はい、お邪魔します」


 佐吉くんとリビングに案内され、お洒落な部屋に似合わない熱い緑茶を出してもらった。

 お母さんの美容院に勤めている竹原さんは、国内旅行によく出かけている歴史マニアらしい。今出されたお茶も、旅行先で買ってきたものだという。


「……ところで、この子はどこの子? まさか瑠璃ちゃんの隠し子とか?」

「そ、そんなんじゃないですってば! 私彼氏すら居ませんからこの人生!!」

「まあ知ってるわよ。からかってみただけよ」


 そう言ってクスクスと笑う竹原さんは、悔しさを通り越して羨ましいくらいの美人さんだったりする。


「で、この子どこの子?」

「近江の石田家の子です」

「近江の石田……?」


 佐吉くんの言葉に竹原さんがぴくりと反応した。


「ぼくは佐吉といいます。どうしてなのかはわかりませんが、朝目がさめたら、なぜかるりおねえさんの家にいたんです」

「石田……佐吉……」

「どうかしましたか、竹原さん?」

「ちょっと気になりすぎるのよね。ねえ佐吉君。君のお父さんの名前、教えてくれる?」

「石田正継です」

「お兄さんいる?」

「はい、います」


 ついさっきまで私で遊んでいた竹原さんの目付きが変わった。

 物凄い真剣な面持ちで、佐吉くんに質問を続けていく。

 どうしたんだろう竹原さん。もしかして、佐吉くんの事で何か知っているのかもしれない。


「……佐吉君。君は将来どんな大人になりたい?」

「ぼくは……この日ノ本を、戦のないおだやかな世にしたいです。そのために、父上のようなりっぱな武人になりたいと思います」

「ぶ、武人……?」


 武人って、武士ってこと? 侍ってことだよね?


「……凄い事になってるみたいよ瑠璃ちゃん。この子、未来のお殿様だわ」

「は……? お、お殿様って、佐吉くんがですか? 何の冗談ですか竹原さん」


 突拍子もない事を言い出した竹原さんは、理解が追い付かない私を置いてリビングを飛び出していったかと思うと、またどこかの観光地で買ってきたらしいお饅頭の入った箱を手に戻って来た。

 その中から数個テーブルの上に取り出す。


「佐吉君。私と瑠璃ちゃんね、ちょっと大事な話があるからそのお饅頭食べながら待っててくれるかな」

「はい、わかりました」


 美味しいお饅頭だからさ、と笑って言った竹原さんの笑顔は口元だけで、目は笑ってはいなかった。

 それが形容し難い強い不安を感じさせて、私はごくりと唾を飲み込んだ。

 リビングの扉を開けて廊下に出ると、そこから繋がる寝室に連れて来られた。

 今まで一度も見たことがない真剣な眼差しで、竹原さんはそっと扉を閉めた。


「……瑠璃ちゃん」

「は、はい」

「江戸幕府を開いた人物は誰?」

「え……?」

「江戸幕府を開いたのは?」


 真っ直ぐに私の目を見る竹原さんの迫力に萎縮しながらも、彼女の問いの答えを舌に乗せた。

 私が予想すらしていなかった、とても重大な話をされているんだと感じた。


「徳川……家康?」

「正解。じゃあ、その家康が勝利した天下分け目の合戦といえば?」

「えっと……確か、関ヶ原の戦い……?」


 どうして竹原さんはこんな質問をしてくるのか。

 その疑問の答えが出るのに、時間はかからなかった。


「正解。最後に、家康率いる東軍に敗れた西軍に居た戦国武将は誰だかわかる?」

「……っ!」


 頭の中で導き出されたその答えに、私は驚きの声を上げそうになった口を両手で押さえた。

 思い出した。学生時代に暗記した内容が蘇る。


「……正解は?」

「……石田……三成」


 蚊の鳴くような声で紡いだ言葉だったけど、竹原さんは静かに頷いた。

 立派な武士になりたいと言っていた佐吉くん。

 彼のお父さんの苗字は石田。

 そして、身につけていた質の良い着物と出身地の名前。

 取りこぼしていたピースが一つの額縁に収まるように、それと同時に雷に撃たれたような感覚が襲う。


「……石田三成の幼名は佐吉なの。あの子は過去からやって来た、幼少時代の戦国武将だと思うわ」

「そんな……まさか……」

「信じられないけどね……。でも、あんな小さい子が私達に嘘を吐くメリットなんて無いだろうし」


 佐吉くんが、戦国時代の人……?


「どうやってこの時代に来たのかなんて想像もつかないけど、間違い無いわ」


 あの子は、現代にタイムスリップして来たの……?



 

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