9.お弁当を作りました
「何をなさっているのですか?」
ソファーに腰掛けながら、私は鎌之介くんがやって来たことを報告する為、竹原さん宛のメールを書いていた。
すると、何故か私の忍びになりたいと志願してきた鎌之介くんが、興味深げにそう訊ねてきた。
「これはスマートフォンっていうこの時代の道具でね、離れた人と連絡が取れるものなんだよ」
「ほう……。そのような道具が私達の時代にもあれば、偵察任務や戦の指揮も捗るでしょうな」
ひとまず買って来た食材は冷蔵庫に入れて、食器なんかは洗い終えた。
鎌之介くんは、私は彼の主になる人なのだから、もっと砕けた普段通りの口調で接してほしいと言ってくれた。
本当に主になるのかは置いておいて、確かに佐吉くんや重治くんには普通に接して、鎌之介くんにだけ敬語を使うのも何か嫌だもんね。
これから一緒に暮らしていくんだから、もっとフレンドリーにいかなくちゃ。
「おい、鎌之介!」
怒りを露わにした重治くんが、鎌之介くんに食ってかかる。
「そんな話どうでも良いから、とにかくこの腕輪外してくれない!?」
佐吉くんと重治くんからの攻撃を警戒し、鎌之介くんが二人に取り付けた封魔の腕輪。
どうやら取り付けた相手の魔力を封じ込める、忍者の道具の一つらしい。
怒った重治くんとは対照的に、至って冷静な態度を崩さない鎌之介くん。
「それは出来ない」
「はぁ!?」
「お前の魔力が暴走し、瑠璃姫様に危害を加えることが無いとも限らない。故に、女子供であってもその腕輪を外すことは認められない」
女子供……?
それってもしかして、重治くんのことを言ってるの?
「……ボクは……女じゃないっつーの!!」
よく女の子に間違えられるとは聞いていたけど、まさか本当に間違われるとは思わなかった。
表情の乏しい鎌之介くんでも、意外とわかりやすいリアクションをしているではないか。
「……男の子の名を持った女子では……なかったのか?」
「違うわ! 何なら証拠見せてあげようか!? ああん!?」
「こ、こんな人前ではだかになるのはだめですよ! おちついてください!」
いきなり服を脱ぎだそうとする重治くんを必死で止める佐吉くん。
子供だとはいえ、流石に男の子の裸体なんて見られない。慌てて私も重治くんを制止した。
「怒るのはわかるけど! 人間には、一肌脱いで良い時と悪い時があるから!」
「意味わかんないし!」
「る、るりおねえさんも、おちついた方が良いと思います」
「ご、ごめん佐吉くん」
我が家は随分と賑やかになったものだなぁ、なんて思いながら、とりあえず鎌之介くんになんとかお願いして、二人の腕輪を外してもらえた。
「姫様の陶器のように滑らかな白いお肌に、万が一傷でも付けようものなら……その時は、覚悟しておくが良い」
「お前の方こそ、無駄に喧嘩ふっかけてくんのやめてよね」
「それはお前が先にふっかけてきたからだろう。私は姫様しか眼中に無いのだからな。お前のような男に構っている暇など無い」」
「構ってんじゃん! 今まさに構ってんじゃん!」
それにしても、どうしてこの二人はこんなに仲が悪くなっちゃったんだろう。
鎌之介くんは私の側から片時も離れようとしないし、重治くんは彼と性格が合わないようだし……。
そうだ、こんな時こそ気分を変えてみようじゃないか!
「ねえねえ皆! ちょっと提案があるんだけど!」
天気も良いし、そろそろお昼時ということもあり、私達はマンションから少し歩いたところにある公園へやって来た。
鎌之介くんには、さっきショッピングモールで買ってきたばかりの洋服に着替えてもらっている。
重治くんのサイズに合わせて買ったから、少し彼には小さめかもしれないけれど、そこまで気になるほどでもなさそうで良かった。
「今日のお昼はここで食べよう!」
出掛ける前に皆で作ったお弁当を持って、大きな木の下にレジャーシートを敷く。
春の半ばの公園は、緑が若々しくて気持ちが良い。
こんな場所でお昼ご飯を食べれば、二人のイライラも多少は解消出来るかもしれないよね。
「鎌之介くん、佐吉くん。お弁当作るの手伝ってくれてありがとうね! お陰で今日の卵焼きは、いつもより美味しそうに焼けたよ」
「いえ、私の力ではありません。全ては姫様のご指導の賜物にございます。佐吉殿も手際が良く、見習うべきところが多々ありました」
私がお弁当を作ると言ったら、この二人が率先して手伝ってくれたのだ。
鎌之介くんが作ってくれた卵焼きはとっても綺麗な色に焼けているし、おにぎりだって私が握るより形が整っていて美味しそうだ。
佐吉くんが握ってくれたおにぎりも、小さな手で一生懸命作った頑張りがひしひしと伝わってくる。世界一可愛いおにぎりといっても過言ではないと思う。
「それに比べて、竹中ときたら……」
「ボクも手伝ってやろうとしたら、お前が邪魔したんだろうが!」
「そんなことをした憶えは無いが」
「四人も厨に集まったら邪魔だって言ってただろ!」
「はて、どうだったかな」
「くっそぉ! 何なんだよこいつー!」
そう。重治くんも手伝ってくれようとしたんだけど、四人も台所に集まるのは窮屈だからと鎌之介くんが追い出してしまったのだ。
「衣食住、全部瑠璃に任せっきりなのに……」
「重治くん……」
ぼそりと呟いたその言葉に反応すると、重治くんはばつが悪そうに目を逸らした。
「……帰ったらボクが洗い物やってあげても良いよ。だから、その……穀潰しにはならないから」
「じゃあ、一緒に洗い物しようね、重治くん」
私がそう言うと、重治くんは小さく笑った。
「さてと! もうお腹ペコペコだし、お弁当食べちゃおっか!」
私、佐吉くん、重治くんの順で両手を合わせると、鎌之介くんは不思議そうに眉をひそめた。
「かまのすけさんも、一緒にやりましょう?」
「……それは一体?」
「食材や、お米を育ててくれた人、料理をしてくれた人みんなに感謝する、ごはんの儀式なんです」
「ご飯の儀式……ですか」
佐吉くんに促され、鎌之介くんも手を合わせた。
「いただきます!」
「……いただきます」
やっぱり、皆で食べるご飯は美味しいな。




