トイレ争奪戦!
息抜き作品です。
文章が拙くなっていますことをご理解していただければ、幸いです。
そう、それはある家族に起こった、壮大な戦争であった。
ある日の清々しく心地の良い朝のこと、4人家族のF家の一員がゆったりとした時を過ごしていた。
朝食も済まし、リビングに4人は集まっていた。
突然、父が立ち上がると、姉の目が光る。
――片手に持った新聞、目に涙を浮かべるほどの爽快な欠伸……間違いないわ!
分析を済ますと、姉も立ち上がった。
2人の様子に気付く、弟と母。
辺りは緊迫の空気に包まれていった。
「お父さん、トイレ?」と姉。
父は、眼鏡を人差し指で位置付けする。
――くそっ! バレたか。
「ふふふ、お前には関係のないことだ」
腰に手を添えた、母がお玉を父の持っている新聞に向ける。
「トイレに、新聞は必要ないでしょう」
「そんなの持ってるから長くなるんだよ」と弟。
しかし、父にとって新聞は、トイレに行くのに欠かせない代物だった。
「お前らも新聞くらい読めよ。勉強になる」
「何も、トイレで読まなくてもいいじゃない」
姉が睨みを利かせた。
3人に睨まれる父は、歯を食いしばっていた。
そして、3人は知っていた。
父が先に入れば、トイレがどんなに悲惨な場所へと変貌するか。
辺りの空気は張り詰めていた。
ダッ! 突然、父が走り出した。
「トイレは、わしのもんだ!」
「コラッ! 待てジジイ! あたしが入るんだよ!」
「待ってよぉ! 僕が入るんだから!」
「まったくもう。朝っぱらから……私が入るに決まってるじゃない!」
母を最後に、4人はトイレへと全力疾走。
先頭を走る父が余裕の笑みを浮かべて、後ろを振り返った。
しかし、それがアダとなり、前方不注意のため、壁に激突。
「わ、わしとしたことが」
「様ァ見ろ、くそジジイ!」
「ジジイ、ダッサァ!」
「おほほほほっ、そのままお寝んねしてな!」
3人に跨れ、父は脱落した。
なおも3人は、姉を筆頭にトイレへと走る続ける。
「うふふ、じゃぁね、御2人さん。てめぇらのママゴトには付き合ってられねぇよ!」
途端に、姉のスピードが格段に上がる。
2人との差が、見る見るうちに広がっていった。
そして、とうとう、トイレの入り口へ辿り着く。
「あっはぁ! お先に、失礼〜」
「まだ、安心するのは早いわよ」
不敵な笑みをこぼしながら、母は弟の後ろを走り続ける。
姉は余裕の欠伸と共に、トイレのドアを開けた。
その瞬間、何かが姉の肩上をすり抜けた。
恐ろしさのあまり、膝を落とす姉。
「そ、そんな……包丁を飛ばすわなだなんて」
姉の崩れ落ちる光景に、弟は唖然とする。
――こ、こんな罠があったとは……このババア、くされヤベェ!
愕然とスピードを落とす弟を尻目に、母は先立った。
「おほほほほほほ! 母親は最強なのよ!」
ハッと気付いた弟は、全力で母を追いかける。
母が先にトイレに着いた。
「ふっ、敗者は外界で這い蹲ってな」
「させねぇ!」
不敵な笑みでドアノブに手をかける母に全力で弟は突っ込んだ。
「我が拳に宿りし、暗黒の魔獣よ。今こそその力を解き放たれよ!」
赤く染まり、蒸気を発する拳を弟は、母に繰り出した。
母の顔面に向かってくる拳。
――た、ただならぬ攻撃力を察知! く、くされヤベェ!
弟の拳が母の頬をかすめる。
――か、紙一重で、かわしやがった!?
赤く腫れる頬をさすりながら、母は不敵な笑みを浮かべている。
「残念だったわね、あんたの攻撃を避けるくらい、造作でもねぇこった」
固まる弟を背に、母はドアを開ける。
――ここまでか……。
弟が涙を浮かべた瞬間だった。
姉が包丁を母の顔面にかざす。
「あんたに、トイレは渡さない。弟! 今のうちに中へ!」
「で、でも、お姉ちゃん!」
「いいから、早く!」
すでに目が潤んでいる弟は、トイレへと急いだ。
しかし、次の瞬間、弟は脚を奪われ、その場に崩れ落ちる。
「あ、足掛けとは……姉貴、裏切ったな!」
「裏切る? バカじゃないの? これはサバイバル。すべては、自分のために決まってるじゃない」
甲高い笑い声と共に、悠々とトイレへと入っていく姉。
「ちょ、ちょっと……なんであんたが――」
バサリと紙が空を切る音と共に、便座に座る父の姿が、映し出される。
「楽しき光景を見れたよ」
父の息吹と共に、唖然とする3人の前で、静かにドアは閉められる。
【完】
『君がいた夏――時のささくれ――』と『鬼ごっこ病』連載中です。もしよろしかったら、そちらも見てくださいな☆




