0、プロローグ
「みっちゃん! 待ってて、僕がすぐに助けるから!」
まだ中学生くらいの少年が、そう言いながら、勢いよく流れる川に、服を着たまま飛び込む。
「つ・・・次ちゃ・・・!」
彼は水を大量に飲んでしまい、そう言うのがやっとの少女に必死に手を伸ばす。
だが、自然はそんなには甘くない。情け容赦なく、手を伸ばす彼自身にも水は襲い掛かる。
「みっちゃ・・・! あ・・・!」
彼は、少女が流されていく先に、大きめの岩を見つけた。ぶつかったら危険だが、逆に見方につけたら頼もしい岩だ。
「みっちゃ・・・! つか・・・まれ!」
少女は、少年の声で前方にある大きな岩に気がつき、見事にしがみついたのだった。
「ゲホッ! ゲホッ! ・・・つ、次ちゃ・・・」
彼女が周りを見回した時、少年の姿はどこにも無かった。
「三津子! 無事か! ・・・次は!?」
しばらく、放心状態だった少女を正気に戻させたのは、一人の青年だった。青年を見た瞬間、少女の目からは大粒の涙がボロボロと溢れ出る。
「い、いっちゃ・・・。つ、次ちゃんがあ!」
青年は、少女のその様子を見て大方を悟った。彼は、唇をギュッと噛み締め、目の奥の方の熱さを抑える。
「待ってろ、三津子! 今、助けるからな」
名も無き小さな村を包んだ悲しみの声。
もう、この事故から六十年が経つ。