―夢―
この作品は短編なのですが、時間があったら続きを書くかもしれません。
―――毎週金曜日、市立図書館から本を借りてその日のうちに読み切ると……
「『――読み切ると、本の世界に連れて行かれる』んだって。うけるよねぇ~。そんな話、なんでいまだに残ってるんだろ?」
聖羅はそう言っていくつもある本の中からファンタジーの本を選んで抜き取った。
「ってか、そんな話あるわけないじゃん。でも、聖羅がそんなこと言うってことは、信じてる人が結構いるんだろうね。」
沙希はもう読みたい本を探し終わったらしく、3冊の本を持っていた。
「だろうね。ま、私はどうでもいいけど、そういうの聞くとやってみたくなるんだよね~」
「じゃぁ、2人でやってみる?」
「エッ!? 沙希もやってくれるの!?」
「いいよ。どうせ暇だし、もし、本の世界に連れて行ってくれるならめっちゃ面白そうじゃん。」
そう言って聖羅と沙希はそれぞれ本を借りて、帰路へとついた。
「やっぱ読むなら、ファンタジーだよねぇ。どれ読もうかな。沙希は何読むの?」
「う~ん。やっぱこれかな。ファンタジーじゃないけど……」
そう言って、沙希は一冊の本を出した。
「『チェ○ブ』! ってか、それ新刊じゃん!! あたしも読みたいッ! 貸して!」
「ダァメ。また貸し禁止~。うちが返してから借りればいいよ。それより、聖羅は? 何読むの?」
「う~ん……う~ん……う~……」
「……泣きそうな顔で抱きつかれても困るんですけど。」
そう言ってため息をついて、聖羅が借りてきた本を見た。
「ん~。……? これ何回も借りてない?」
そう言って沙希は黒い表紙の本を突き出した。
「ん? あぁ、その本ね、何回読んでもおもしろいんだよっ!!」
「『○○○と魔法の図書館』……これにすればいいじゃん」
呆れたように言う沙希に聖羅は「それもそうか」と言って一人で納得したらしい。
「よしっ! これなら何回も読んでるし、余裕で読み終わるよ。……沙希、それ、今日中に読み終わる?」
「余裕だね。今帰っても6時だし、3時間もあれば読み終わる。」
「うわぁ~さすが沙希。それ、『ハリ○タ』と同じくらいかそれ以上あるよね?」
「うん。ページ数はこっちのほうが多いね。でも、そんなに変わんないから。それに、あたしの読む速さがどれくらいか、聖羅は知ってるでしょ?」
「たしかに。あたしがバカな質問したね。じゃ、さっさと帰って本を読もうー!!」
そう、握りこぶしを作って真上へと手を伸ばした。……のは聖羅だけ。
「はわぁ~」
聖羅は大きく欠伸をした。
「読み終わったぁ~。今、何時かなっ? ……。……。……11時……。」
幸せそうな顔をして携帯を見た聖羅だったが、時刻を見ると、顔を蒼白にして脂汗を浮かばせ始めた。
「……とりあえず、電話……じゃなくてメールしよ。」
そういうと聖羅はアドレス帳から沙希を探し始めた。すると……『♪~♪♪~』と軽やかに電子音が鳴り始めた。
聖羅は肩を“ビクン”とさせるほどに驚いて、発信者が誰かを確認することなく電話に出た。
「は、はいっ!」
「……あ、聖羅?そろそろ読み終わったと思って電話したんだけど、読み終わった?」
「さ、沙希!」
「あぁ~…。読み終わって時計を見たらもう11時で、私に電話しようとしたけど怖いからメールにしようと思って。アドレス帳で調べてたら電話がかかってきて、驚いてとっさに出てみたら私だったってとこかな?」
「う……沙希は超能力者ですか?」
「図星なわけね。8年も一緒だったら大体予想はつくよ。」
「はぅ~。」
「ま、いいとして。聖羅が言ってた話だと、この後フツーに寝ればいいんだよね?」
「う、うん。あとは寝てからのお楽しみ。」
「そう。ならさっさと寝ちゃおう。結果は明日話すとして……おやすみ。」
「うん。おやすみぃ~。ん~っと。」
聖羅は電話を切ると、筋肉をほぐすように伸びをした。
「よしっ。お風呂入って寝よう!」
聖羅は本を置いて自分の部屋を出て行った。
“……。……ら。……いら。聖羅っ!”
――ん? 私、呼ばれてる……?
“聖羅、起きて!目を開けて!”
――沙希…?
「ん……? 沙希?」
「やっと起きた。」
「ここは……??」
今、聖羅がいるのはいろんなものが宙に浮いている、不思議な場所だった。
「多分、聖羅が言ってたことが本当だったんだよ。……ここは、本の世界の入り口なんだ。」
そう言った沙希は聖羅の横に立って、自分でも信じられないといった様子でつぶやいた。
「やっぱりそうなの!? だけど入口って……?」
対して聖羅は目の前で起きていることを受け入れている様子で答えた。
「聖羅が目覚める前に“コレ”が落ちてきた」
そう言って沙希が差し出したのは、一つの本とTシャツだった。
「これ……」
「多分、聖羅が思っているものだと思う。……このTシャツは私、本は聖羅で、間違いないよね?」
聖羅は沙希にうなずくことで答え、自分の分であろう“本”を手に取った。
その途端、聖羅達の目の前のとある一点に光が集まり始めた。
「な……何?……ヒト?」
沙希が言ったように、光がヒトの形を作っていた。そして、唐突にその光が収束をやめると、そこには美しいドレスを着こなした一人の女性がいた。
「「……」」
二人はその女性のあまりの美しさに絶句してしまっていると、女性は聞いていると眠くなってしまうようなとても美しく優しい声で話しかけてきた。
「新たなる訪問者、沙希、そして聖羅よ。あなたたちは本によって選ばれた。さぁ、貴女たちが持っているものに念じて…連れて行って、と。」
二人は顔を見合わせると、沙希が先に口を開いた。
「ねぇ。これは本当のこと?」
「貴女が信じればこれは事実に、信じなければ、嘘となるでしょう。」
その女性はそう答え、微笑んだ。
「ねぇ! これが起きるのは今回だけなの!?」
聖羅は気を引くためにか大きめの声で質問した。
「本は貴女が望めば応えてくれるでしょう。しかし、貴女が本に対し、酷い扱いをしたならば、本は二度と応えることはないでしょう。」
「そう…なんだ。」
「じゃぁ、私達は本を大切に扱っている限りは、いつでもここにきて、本の世界に入れるってこと?」
「えぇ。それに、そんなに気を落とすことではないですよ? なぜならば、貴女たちはもうすでにここにきているのですから。さぁ、念じて。その子たちが早く来てほしいと言っていますよ。」
その女性は聖羅たちに本の世界へと行くように促した。
「う…うん。わかった。………ほら、沙希も早くっ」
「え? あぁ、うん。」
聖羅はそういうと自分の分である本をとり、沙希を急かした。しかし、沙希はTシャツをとらず、女性に最後の質問をした。
「ねぇ。あなたは…誰なの?」
女性は周りに浮いている物を眺めると、沙希に視点を合わせ、優しく微笑むようにして答えた。
「私は、全ての本に宿るものであり、この子たちの育ての親であり、この空間そのもの。……再び貴女たちがここを訪れることを楽しみにしていますよ。」
「そっか。じゃぁ、また此処にくるよ。…あなた、名前は?」
沙希はそう言いながら大事そうにTシャツを手にとった。
「私はレイ。始まりのレイ」
「そっか。じゃぁ、レイ。また逢おう」
沙希はそういうと、本の世界へと消えていった。
「私、ずっと本の世界に行ければいいなって思ってた。今、自分が此処に居られて本の世界に行けることが奇跡みたい。……ありがとう、レイ。」
聖羅は女性にそう告げると、沙希と同じように跡かたもなく消えていった。
それを見届けたレイは一人つぶやいた。
「『ありがとう』……ね。久しぶりに言われたわ。」
そういうと、レイの身体はひかりだしその形を崩していった。
――貴女たちが再びこの空間を訪れることを楽しみにしているわよ
その声は音になることなく、消えていった……
ピピピピッピピピピッピピピピッピピッ
「ふぁ~。もう朝か。……アッ!!」
聖羅は起き出してすぐに携帯をとり、ためらうことなく沙希に電話をした。
「……あ、沙希?あ、うん。おはよぅ。ねぇ!昨日のことなんだけどさぁ…」
聖羅はベットから起き出し、本を見つめながら、沙羅は本を手にとり、背表紙を撫でながら言った。
「「本の世界に連れて行かれちゃったね」」
そう二人は言うと、お互いにどちらからとでもなく笑いだした。しかし、そんな微笑ましい日常も沙希の一言で終わりを告げることとなる。
「聖羅、今日学校だよ?八時になるよ??」
そう言われて蒼白になる聖羅であった。
END