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僕のはなしを、きいてくれる?

僕のはなしを、きいてくれる? episode001

作者: 夏山 僕

「ねぇ、ねぇ、オヂサン。僕のはなしを、きいてくれる?」


 僕は、誰かから話しかけられた気がした。


 飯田橋の駅ビルの中にあるコーヒー屋で、スコーンとアイスコーヒーを買って、丸テーブルに座りながら食べていた時のことだった。


 声がした方を見てみると、そこにはベビーカーに座った生後2~3か月ぐらいの赤ちゃんがいた。お母さんは、ママ友達との会話に夢中で、周りなんか全然見えてないようだった。


 『まさか、この子が?』

 僕がそう思うと同時に「そう、僕だヨ。」とその子は話した。

 話した・・・。違うかな・・・。僕の心に語りかけてきた、って感じ。


 『僕は、君みたいな赤ちゃんと、話をした事がないから、何をどう話したらいいか、わからないよ。』

 「わからなかったらわからないでいいヨ。一種のジェネレーションギャップだと思ってくれればいいからね。」

 難しい言葉を知っているもんだ。普段ママが使ってるのかな。

 『聞くよ。話してみて。』

 「うん。オヂサンは、僕がどこから来たか知ってる?」

 『どこから・・・?ママのお腹の中かな・・・。』

 「よくわかったネ。そう、ママのお腹の中から72日前に出てきたんだ。オヂサンもママのお腹から出てきたんだよネ?

 『うん・・・。』

 「じゃあさ、オヂサンはママのお腹の中ってどんな感じか、知ってる?」

 『お腹の中かぁ・・・。考えた事ないかも・・・。』

 「そうだよね。みんなそうやって忘れていくんだヨね。ママのお腹の中って、すごく温かくて、すごく静かで、気持ちがいいんだヨ。ホントに覚えてないの?」

 『残念ながら、覚えてないよ。』

 「あまりにも居心地がいいから、僕はずっとママのお腹にいたいって思ったんだ。それでどうしたと思う?」

 『うーーーん。そうだなぁ・・・。ええと・・・。』

 「出てくるときに手を両側に突っ張って、出たくないってポーズをしたんだ。そしたらママ、苦しんでた。」

 『そっか・・・。で、苦しんでるママを見て、そろそろ出ようって思ったの?』

 「うん。意を決してネ。僕たち赤ちゃんにとって、外の世界に出るっていうのは相当なストレスなんだ。例えば、ずっと水の中に潜ってたら苦しくなるでしょ?そんな感じかな・・・。」

 『それは・・・。ストレスっていうよりも拷問に近いかもね。』

 「そう。赤ちゃんは産まれた時泣くでしょ?あれは外の世界のストレスのためなんだ。でも産まれてきたからには、外の世界で暮らさないといけないからね。徐々に慣れていくしかないんだ。そうそう、僕は最近、顔に息を吹きかけられるのが、やっと平気になってきたんだ。」

 『顔に息を吹きかけられるのが嫌なの?』

 「嫌じゃないけど、ビックリしちゃうんダ。あとさ、僕たち赤ちゃんって、たまに、勝手に笑顔になったり、勝手に怒った顔になったりするの、知ってる?」

 『ああ、見たことあるかも。コロコロ表情が変わったりして・・・。』

 「あれはね、思い出してるんだ、色んな事を・・・。」

 『色んな事って・・・。もしかして前世とか?』

 「違うよ。前世なんて覚えてないよ。そもそも前世があるのかどうかも疑問だしネ。」

 『そうなんだ・・・。じゃあ何を思い出してるの?』

 「ママのお腹の中にいた時のことだよ。あの時ママ、笑ってたな。とか、怒ってたな。とか。それを思い出すんだヨ。赤ちゃんはママのお腹の中にいる時、ママが何を考えてるのか、丸わかりなんだ。」

 『なるほどね。大人でも、楽しかった事を思い出して笑ったり、辛かったことを思い出して、悲しくなったりするもんね。』

 「うん。」

 『じゃあ、僕から質問してもいい?』

 「いいよ。」

 『今、君が僕に話してくれたことって、いつ頃まで、覚えてるの?』

 「それは、僕たちがパパやママたちと喋れるようになる頃には、全部忘れちゃうんだって。友達の子が言ってたよ。」

 『そっか・・・。でも、なんだか赤ちゃんも、大人と同じなんだなって、ちょっと思ったよ。ま、そりゃあそうだよね。おんなじ人間なんだし・・・。』

 「そう。そこなんだ。僕たち子供が言いたいのは・・・。赤ちゃんだって、おんなじ人間なんだから、いろいろと押し付けたり、いじめたりしないで欲しいってことなんだ。もちろん僕のママは僕をいじめたりしないけどね・・・。」

 『わかったよ。僕が将来結婚して、子供が出来た時には気をつけるようにするよ。約束するね。』

 「大人が、みんなオヂサンみたいに物分りが良ければいいのに・・・。ところでオヂサン。オヂサンなのにまだ結婚してないの?」

 『・・・。いい相手がいなくてね・・・。君が大きくなったときに、君の友達を・・・。』


 そう思った時に、彼はママにベビーカーごと連れられ、向こうへ行ってしまった。



 『あーあ。行ってしまった・・・。次は誰と妄想で会話しようかな・・・。』


僕は水滴だらけになってしまったカップを掴み、アイスコーヒーを飲み干して、鼻歌交じりに席を立った。








つづく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 斬新な設定が良かったです。赤ちゃんの言葉に笑わせてもらいました。 [一言] ほのぼのしてて僕の好きな話でした。 このシリーズを読んでいきたいと思います。 面白かったです。
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