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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 21

壁ドンのち、白い歯の革命

城内が爽やかなミントの香りに包まれ、騎士たちの笑顔が輝き始めた頃。

太郎は、自室の壁際に追い詰められていた。

ドンッ!!

逃げ場のない壁際で、太郎の顔の横に白い手が叩きつけられる。

いわゆる「壁ドン」だ。

だが、それは甘酸っぱい恋愛イベントではない。

目の前にいるのは、美しいが目が笑っていない妻、サリー。

そして退路を断つように背後を守るのは、冷ややかな視線のライザだ。

「な、何かな? 二人とも……」

太郎は冷や汗をダラダラと流した。

浮気はしていない。隠し子(猫)もいない。仕事(という名の丸投げ)も順調だ。

心当たりがない。

「太郎様……」

サリーが吐息混じりに囁く。その息は、先日渡した歯磨き粉のおかげでとても爽やかだ。

「確かに、この歯磨き粉は口内をスッキリさせますわ。ネバつきも取れますし、素晴らしい品です」

「そ、そうだろう? 気に入ってくれて何よりだ」

「でも……」

ライザが横からスッと顔を近づけ、太郎の口元を指差した。

「これだけでは、太郎様の『不自然なほど白い歯』は説明がつきませんよね?」

「うっ……」

太郎の心臓が跳ね上がった。

鋭い。鋭すぎる。

男性陣(マルスや騎士たち)は「口臭」や「虫歯予防」といった機能性だけで満足していた。

だが、美を追求する女性陣は、太郎の歯が単に清潔なだけでなく、真珠のように輝く白さを保っていることに気づいていたのだ。

「太郎様……包み隠さず、全てを出して下さいまし」

サリーがジリジリと距離を詰める。

「私達は夫婦ですもの。美しさの秘訣を独り占めするなんて、そんな意地悪なこと、なさいませんよね?」

「(い、命の危険を感じる……!)」

太郎は観念した。

ここで隠し通せば、どんなお仕置きが待っているか分からない。

「わ、分かったよ! 降参だ!」

太郎は震える手でウィンドウを開き、隠し持っていたアイテムを取り出した。

「これだよ!」

ドン、とテーブルに置かれたのは二つのアイテム。

『高機能ホワイトニング歯磨き粉(ステイン除去・ポリリン酸配合)』

『薬用マウスウォッシュ(ホワイトニング・デンタルリンス)』

「こっちは普通の歯磨き粉より研磨剤の質が良くて、歯の表面の汚れ(ステイン)を落として白くするんだ。そして、こっちの液体は口をゆすぐだけで、歯をコーティングして汚れをつきにくくする」

太郎が説明を終えるか終えないかのうちに。

シュバッ!!

「キャッチ!」

サリーとライザの手が残像を残して伸び、アイテムを奪取ぶんどった。

「それで良いんですよ、太郎様」

サリーは恍惚とした表情でパッケージ(「本来の白さへ!」「輝く笑顔!」という煽り文句)を見つめた。

「話が早くて助かります。紅茶やワインを飲むと、どうしても歯の着色が気になっていましたの」

ライザも満足げに頷き、マウスウォッシュの成分表(読めないが)を確認している。

「これがあれば、最強の美貌に磨きがかかりますわね。行きましょう、サリー」

「えぇ、早速試してみましょう! 侍女たちにも教えてあげないと!」

二人は太郎を解放し、嵐のように去っていった。

太郎はへなへなと床に座り込んだ。

翌日から、太郎国(特に王宮の女性エリア)で、新たなブームが巻き起こった。

『ホワイトニング歯磨き粉』と『マウスウォッシュ』の生産(という名の太郎による大量購入)が始まったのだ。

城の洗面所では、侍女や貴族の女性たちが鏡に向かい、念入りに歯を磨く姿が見られるようになった。

騎士たちはフサフサの髪と爽やかな息を手に入れ、女性たちは輝く白い歯と自信を手に入れた。

廊下ですれ違う人々が、キラーン! と効果音が鳴りそうなほど白い歯を見せて挨拶をしてくる。

「おはようございます! 太郎様!」(ニカッ!)

「今日も良い天気ですね!」(キラッ!)

あまりに眩しい笑顔の連鎖に、太郎はサングラス(100円)をかけながら呟いた。

「げ、芸能人は歯が命ってか……」

太郎国の人々の美意識と衛生観念は、もはや周辺諸国を置き去りにして、未来へと爆走し始めていた。

次は一体、どんな100円グッズが求められるのか。

太郎のリュックの中身が火を噴く日は近い。

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