EP 5
戦慄のキメラ、そしてカセットボンベ大爆破作戦
「さて、新生『チーム太郎』の初陣ですね! 張り切って行きましょう!」
冒険者ギルドで『ゴブリンの群れ討伐』を受注した太郎たちは、意気揚々と街の近郊にある森へとやってきた。
新メンバーのヒブネも、銀の槍を担いで頷く。
「ゴブリンなら連携の確認に丁度いい相手ですね。私が先導します」
ヒブネが慣れた足取りで森を進む。しかし、目的の集落に近づくにつれて、彼女の表情が険しくなった。
「……おかしい。静かすぎます」
ゴブリン特有のギャーギャー喚く声が聞こえない。
さらに奥へ進むと、その異様な光景が目に飛び込んできた。
「こ、これは……」
そこには、無残に引き裂かれ、何か巨大な獣に食い散らかされたゴブリンたちの死骸が散乱していた。
「共食い? いえ、この爪痕と噛み跡……ゴブリン同士の喧嘩ではありません」
ライザが地面の巨大な足跡を見て警戒を強める。
その時だった。
森の奥から、ビリビリと肌を刺すような凄まじい殺気が膨れ上がった。
「グルルルルァァァァッ!!」
咆哮と共に、茂みをなぎ倒して現れたのは、獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ合成獣――キメラだった。
「キメラ!? なぜこんな浅い森にBランクの魔獣が!」
ヒブネが叫ぶ。ゴブリンを餌として食い尽くしていたのだ。
「来ます!」
「前衛は私とヒブネさんで! 太郎様とサリーは援護を!」
ライザが叫び、ヒブネと共に前に飛び出した。
キメラの鋭い爪と、蛇の尾による毒牙の連撃。
二人はそれを巧みに捌き、剣と槍で応戦する。
「ハァッ!」
「せりゃっ!」
流石の手練れ二人だが、キメラは強靭な肉体と俊敏さを併せ持っており、決定打を与えられずにいた。
(まずいな……このままじゃジリ貧だ)
後方で弓を構える太郎は焦っていた。
彼の手札にある最強の攻撃は『必殺の矢(爆発矢)』だ。
だが、その威力は高すぎる。
(必殺の矢は火力がバカ高い……。あんな動き回る乱戦状態で撃ち込めば、ライザやヒブネさんまで巻き込んで吹き飛ばしてしまう。かといって、確実に当てるために近づけば、爆風で僕自身が自爆する!)
『雷霆』の破壊力は、狭い戦場では諸刃の剣なのだ。
(なら……一撃で、確実に奴だけを葬る大ダメージを稼げば良いんだ!)
太郎の脳裏に、あるアイテムが浮かんだ。
以前、鍋料理の時に使ったアレだ。
「よし! これだ!」
太郎はウィンドウを高速操作し、『カセットボンベ(3本セット)』×50を購入した。
そして、それを素早く地面にばら撒き、簡易的な「爆弾フィールド」を作り上げた。
「サリー! こっちに来てキメラを釣ってくれ!」
「はい! お任せを!」
サリーは太郎の意図を察し、即座に後退して太郎の近くへ移動した。
「ライザ! ヒブネ! 離れて!」
「承知!」
二人が合図と共に、左右へ大きく飛び退く。
獲物を逃したキメラが、新たな標的を探して唸り声を上げる。
そこへ、サリーが杖を突き出した。
「火の神よ! かの者を焼き払え! 『フレイム・バースト』!!」
ボォッ!!
杖から放たれた一直線の熱線が、キメラの顔面を焼いた。
「ギャウッ!?」
ダメージは浅いが、挑発効果は抜群だ。
キメラは怒り狂い、真っ赤な目でサリーと太郎を睨みつけた。
「グオオオオオオッ!!」
キメラが猛スピードで突進してくる。
その進路上には、太郎がばら撒いた大量の銀色の缶――カセットボンベが転がっている。
「今だ……!」
太郎は『雷霆』を構え、つがえた『必殺の矢』に魔力を込めた。
狙うはキメラではない。足元のボンベだ。
キメラがボンベの山の上に来た、その瞬間。
「食らえッ!!」
ヒュンッ!!
放たれた必殺の矢が、ボンベの一つに直撃した。
カッ!!!!
矢の爆発がボンベを破裂させ、漏れ出した可燃性ガスに引火。
それが隣のボンベを誘爆させ、連鎖的な大爆発を引き起こした。
ドガガガガガガァァァァァァァァン!!!!!
「!?!?!?」
森が揺れた。
巨大な火球が膨れ上がり、キメラの断末魔さえも掻き消した。
爆風が木々を薙ぎ倒し、離れていたライザたちの髪をも逆立てる。
煙が晴れた後には、黒焦げのクレーターと、炭になったキメラの痕跡だけが残っていた。
「……や、やったぁ……」
太郎は煤けた顔でガッツポーズをした。
「す、凄まじいです……」
ヒブネが腰を抜かしていた。
「太郎さん……あ、あれは一体何の魔法道具なのですか!? 鉄の筒が数百倍の爆炎を上げましたが!」
「あぁ、あれ? 『カセットボンベ』っていう、ただの調理用の燃料だよ」
「ちょ、調理用!? あなたの国の料理人は、あんな爆弾で料理をするのですか!?」
ヒブネの常識がまた一つ崩壊した。
「ま、まぁ結果オーライですわ! 怪我もなくて良かったですぅ」
「えぇ。流石は太郎様、素晴らしい戦術眼でした」
サリーとライザが駆け寄ってくる。
こうして、ゴブリン退治のはずがBランク魔獣討伐という大金星を上げ、チーム太郎の名声は(本に望まぬ形で)またしても上がってしまうのだった。




