EP 73
大陸激震、英雄太郎の決断
デルン王国軍、壊滅。
その衝撃的なニュースは、早馬や魔法通信によって瞬く間にマンルシア大陸全土へと駆け巡った。
「聞いたか? 王国軍3万が、アルクス領で全滅したらしいぞ」
「しかも、アルクス側は死者ゼロだと!?」
「バゴール王は気でも触れたのか? あのドラゴンやベヒーモスを倒した『勇者』に弓を引くとは!」
世論は一変した。
国を守った英雄を、自らの保身と嫉妬のために殺そうとした愚王。
その事実が露見し、民衆の怒りは頂点に達していた。
人々は口々に叫んだ。
「これは神の怒りだ! 罰当たりの王に天罰が下ったのだ!」
「正義はアルクスにあり!!」
連日、アルクス領の関所には、王の圧政に苦しんでいた民衆や、王家に愛想を尽かした地方騎士、傭兵たちが雪崩を打って押し寄せた。
彼らは皆、英雄太郎の旗の下に集い、新たな時代を求めていた。
アルクス城、作戦会議室。
窓の外からは、集まった民衆たちの「太郎コール」が地鳴りのように響いている。
「天啓ですぞ! 太郎様!」
家令のマルスが、興奮で顔を紅潮させながら地図をバンと叩いた。
「ご覧ください! 各地から集まった義勇兵の数は既に5万を超えました! 民達はこぞって太郎様を支持しております!」
マルスは熱弁を振るう。
「今こそ、憎きバゴールを討つ時です! 腐敗した王国を倒し、貴方様が新たな王となるのです!」
「バゴールを討つ……僕が、王に?」
太郎は腕を組み、眉をひそめた。
コンビニ店員から冒険者へ。そして領主へ。まさか「国王」へのルートが開けるとは思いもしなかった。
「太郎様。民達の声を聞いてあげてください」
サリーが静かに進言する。
「皆、重税と悪政に苦しんでいます。彼らは口々に『太郎様こそ王になるべきだ』と言っていますわ。貴方の作る美味しい料理と、温かいお風呂がある国……それが彼らの夢なのです」
「太郎様、もう一戦を交えたのです。引き返す道はありません」
ライザも厳しい表情で現実を突きつけた。
「今回撃退したとはいえ、バゴール王が生きている限り、彼は何度でも刺客を送ってくるでしょう。何もしなくとも、次の兵団が来るのは時間の問題かと」
「……そうだな」
太郎は目を閉じた。
ただ美味しいものを食べて、美人の奥さんと平和に暮らしたかっただけだ。
だが、その平和を脅かす元凶が「国」そのものであるなら、それを取り除くしかない。
それに、自分を信じて集まってくれた何万もの人々の期待を裏切ることは、太郎にはできなかった。
「太郎様、ご決断を!」
マルスが悲痛な声で叫ぶ。
太郎はカッと目を開いた。
その瞳には、もはや迷いはなかった。
「分かった。……デルン王都に進軍する」
静かだが、部屋の空気を震わせるような覇気のある声だった。
「これ以上、僕の大切な場所を荒らされるのは御免だ。バゴール王には退場してもらう」
「おおぉっ……!!」
マルスが感極まって平伏した。
「仰せのままに!! このマルス、この時を待ちわびておりました! 直ちに全軍に伝令を! 『英雄の進撃』の開始であると!!」
「行きましょう、あなた。私達が道を切り拓きます」
「王都の城門など、紙屑のように吹き飛ばしてみせますわ」
サリーとライザが左右に立ち、頼もしく微笑む。
「よし……行くぞ!!」
太郎が号令を発した。
アルクス領が保有する最強の近代兵器群と、無敵の英雄パーティー、そして数万の民衆軍。
歴史を変える革命の行軍が、今まさに始まろうとしていた。




