EP 72
蹂躙、そしておにぎり
アルクス領の境界線。
地平線を埋め尽くすように、デルン王国の旗印を掲げた3万の大軍が展開していた。
王立騎士団、正規歩兵、そして宮廷魔導師団。国が動員できる最大級の戦力だ。
「愚かな冒険者上がりの領主め……。数で押し潰してくれるわ」
王国軍の将軍は、遠くに見えるアルクスの城壁を見て鼻で笑った。
しかし、彼らは知らなかった。自分たちが踏み入れた場所が、既に「現代兵器」と「魔法科学」によって要塞化されたキルゾーン(殺戮地帯)であることを。
城壁の上から、太郎は眼下の軍勢を見下ろした。
「来たか……」
その声には恐怖はなく、ただ哀れみだけがあった。
「総員、戦闘配置!」
隣に立つライザが、凛とした声で号令を発した。
彼女は今、エプロン姿の妻ではなく、戦場を支配する将軍の顔だ。
「ガンダフ製・長距離魔導カノン砲、一番から十番まで、照準合わせ! 装弾筒には『特大必殺弾』を装填!」
「「「装填完了!!」」」
「目標、敵本陣! 慈悲はいりません……撃てッ!!」
ライザが指揮刀を振り下ろすと同時に、10門の大砲が火を噴いた。
ズドォォォォォォォォン!!!
轟音と共に撃ち出されたのは、太郎の「必殺の矢(改)」の技術を応用した、ナパームと爆裂魔法石の複合榴弾だ。
砲弾は美しい放物線を描き、密集する王国軍の中央へと吸い込まれた。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
「なっ……!?」
将軍が何かを言う暇もなかった。
大地が揺れ、紅蓮の炎がきのこ雲を作って舞い上がった。
着弾地点周辺にいた数百の兵が一瞬で消し飛び、爆風が数千の兵を吹き飛ばす。
王国軍は、開戦からわずか数秒で半壊した。
「ひ、退くな! 立て直せぇぇ!!」
「次弾装填急げ! 敵に息つく暇を与えるな!」
ライザの手は緩まない。
「対空、対地バリスタ部隊! 『必殺のバリスタ』を放て!」
バシュッ! バシュッ!
槍のような巨大な矢が、水平射撃で敵陣を襲う。
着弾するたびに爆発が起き、盾を構えた重装歩兵が紙屑のように舞った。
「ば、バカな……! 魔法使いの射程外だぞ!?」
「これは魔法じゃない! 爆発だ!」
混乱する戦場に、追い打ちがかかる。
「サリー! 頼みます!」
「はい! お任せを!」
城壁の先端に立つサリーが、魔法兵団に合図を送る。
彼らは全員、サリーの「科学魔法講座」を受けた精鋭たちだ。
「魔法兵団! 殲滅魔法詠唱開始! 酸素濃度固定、燃焼効率最大!」
「「「イエッサー!!」」」
「『プロミネンス・シュート(紅蓮殲滅砲)』!!」
サリーと数百の魔法兵が同時に杖を掲げた。
空が赤く染まり、太陽の欠片のような熱線が降り注ぐ。
それは「焼く」のではなく「蒸発させる」熱量だった。
「ぎゃあああああ!!」
「あ、熱い! 鎧が溶けるぅぅ!!」
「弓兵隊! 敵を城に一歩も近寄らせるな!」
ライザの指示で、雨あられと矢が放たれる。
その一本一本が、太郎の手によって量産化された「必殺の矢(爆発矢)」だ。
地面に刺さるたびに地雷原のように爆発し、前進しようとする兵士を吹き飛ばす。
一方的。あまりにも一方的な蹂躙だった。
「よし! 敵の陣形が崩壊しました! 騎士団、突入! 一騎残らず駆逐せよ!」
「「「うおおおおおお!!」」」
ライザが先頭に立ち、強化スーツのような最新鎧(ガンダフ製)に身を包んだ騎士団が城門から打って出た。
ライザの剣閃が走るたびに、敵兵が宙を舞う。
それは戦争ではなく、災害だった。
そんな地獄絵図のような光景を見下ろす城壁のテラスに、場違いなほど穏やかな声が響いた。
「お疲れ様です、太郎様」
「ん? あぁ、サクヤ」
エプロン姿のサクヤが、お盆を持って現れた。
そこには温かいお茶と、握りたてのおにぎり、そしてお新香が乗っていた。
「少し小腹が空いたかと思いまして。具は鮭と昆布です」
「ありがとう、サクヤ……。いただきます」
太郎は轟音が響く中で、おにぎりを一口食べた。
ふっくらとしたお米の甘味と、塩気が体に染み渡る。
「……分かっていたんだ。こうなるのは」
太郎は眼下の戦場――いや、焼野原を見つめながら呟いた。
ライザによる地獄の特訓でS級並みに強化された騎士団。
サリーによる科学的アプローチで火力が倍増した魔法兵団。
ガンダフが作り上げた大砲とバリスタ。
そして、太郎のスキルによる、無尽蔵とも言える食料と弾薬の補給物資。
腹を空かせ、旧式の装備で進軍してきた王国軍と、
毎日サウナで整い、栄養満点の食事を摂り、最新兵器で武装したアルクス軍。
「最初から……デルン王国軍に勝ち目なんて無かったんだ」
太郎はお茶を啜り、ホッと息をついた。
その背中には、国一つを相手にしても揺るがない、圧倒的な「余裕」と「王者の風格」が漂っていた。




