EP 68
最強の妻たちと行く、護衛不要のバカンス
季節は夏。
アルクス領は、上下水道の完備された住宅、サツマイモと養鶏による豊かな食卓、そして大陸中から観光客を集める『スーパー銭湯 アルクスの湯』によって、かつてない繁栄を極めていた。
内政も安定し、有能な部下たちのおかげで、太郎のデスクから書類の山が消えたある日のこと。
「領地運営は盤石だ。……ねぇ、二人とも」
太郎は執務室で紅茶を飲んでいるサリーとライザに声をかけた。
「僕達で、港街ポートセーリにバカンスに行かないか? 前回は『視察』という名の釣り大会だったけど、今回は完全に遊びでさ」
「あら、素敵ですわね!」
サリーがカップを置いて身を乗り出した。
「綺麗な海で泳いだり、砂浜でのんびりしたり……憧れてましたの!」
「いいですね。最近は忙しかったですから、骨休めは必要です」
ライザも賛同した。
「騎士達には『地獄の夏季集中強化プログラム』という自主練のノルマを課してますから、数日空けても問題ありません」
「(騎士団のみんな、生きてるといいな……)」
太郎が心の中で合掌していると、控えていた家令のマルスが血相を変えて飛んできた。
「バカンスとは結構な事ですが……まさか、三人だけで行かれるおつもりですか!?」
「うん、そうだけど。夫婦水入らずでゆっくりしたいし」
「そ、そんな! 危険すぎます!」
マルスは大袈裟に両手を広げた。
「太郎様は今や国の重要人物! 万が一、賊に襲われたり、魔物が出たらどうするのですか! 城の近衛兵と騎士団一個小隊を護衛につけます!」
せっかくのプライベート旅行に、鎧着た男たち数十人がゾロゾロついてくるなど、太郎にとっては悪夢だ。
「えぇ〜……それはちょっと……」
太郎が困っていると、空気がピリッと凍りついた。
「あら? マルス」
ライザが静かに立ち上がり、冷徹な視線をマルスに向けた。
「貴方は、S級冒険者であり『閃光の剣姫』と呼ばれる私以上に、太郎様を護衛出来る者がこの城に居るとでも?」
「ひっ……!」
ライザから放たれる闘気に、マルスが後ずさりする。
「そ、それに! 私だって強いつもりなのよ!」
サリーも立ち上がり、杖を構えた。
「科学的魔法理論で強化された私の『爆裂魔法』があれば、ドラゴンだって消し飛ばせますわ。……それとも、私の魔法じゃ頼りないと?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
マルスは脂汗を流した。
よく考えれば、この二人は単独で軍隊を壊滅させられる戦力だ。一般の騎士が護衛についたところで、足手まといにしかならない。
「わ、分かりました……。私の杞憂でございました。太郎様、バカンスをお楽しみ下さいませ」
マルスは白旗を上げ、ガックリと項垂れた。
数時間後。
太郎たちは転移魔法(サリーの新作魔法)で、一瞬にして港街ポートセーリへと到着した。
目の前には、コバルトブルーの海と白い砂浜が広がっている。
「うわぁー! 海だー!」
『海だー! ピカリ泳ぐー!』
太郎とピカリは砂浜を駆け出した。
そして、太郎はウィンドウを開き、とっておきのアイテムを取り出した。
「ジャーン! 『最新トレンド水着』〜!」
「まぁ! これが異界の泳ぎ着ですか!」
「布地が……少ないですわね」
最初は恥ずかしがっていた二人だったが、そこは太郎のため。
パラソルの下で着替えた二人が姿を現した。
サリーは、フリルのついた白いビキニ。彼女の可愛らしさと、意外と豊満なスタイルが強調されている。
ライザは、黒のパレオ付きビキニ。引き締まった腹筋と長い脚、剣士としての健康的な美しさが眩しい。
「ど、どうですか……? 太郎様」
「似合いますか……?」
二人が頬を染めて見つめてくる。
「っ……!!」
太郎は鼻血が出そうになるのを堪え、親指を立てた。
「最高……! 二人とも、女神様みたいだ!」
「もう、太郎様ったら♡」
それからは、まさに夢のような時間だった。
太郎が『浮き輪』や『ビーチボール』を取り出し、波打ち際ではしゃぎ回る。
「キャッ! 冷たい!」
「ふふ、太郎様、そちらへ水をかけますよ!」
「うわっ! やられたー!」
遊び疲れたら、パラソルの下でビーチチェアに寝転び、太郎特製の『トロピカル・フルーツジュース(氷入り)』を飲む。
「ん〜! 冷たくて美味しい!」
「波の音を聞きながら、愛する人と過ごす……。これ以上の贅沢はありませんね」
ライザが太郎の肩に頭を預ける。
サリーも反対側から太郎の腕に抱きつく。
「太郎様、あーん♡」
サリーが剥いた果物を太郎の口に運ぶ。
周囲の観光客たちが「あれは領主様か?」「美人が二人も……羨ましすぎる」と噂しているが、今の太郎には関係ない。
青い空、白い雲、そして愛する最強の妻たち。
護衛など必要ない、世界一安全で、世界一幸せなバカンスがそこにはあった。
「……帰りたくないなぁ」
太郎がポツリと呟くと、二人は優しく微笑み、さらに強く太郎を抱きしめるのだった。




