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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 64

深夜の背徳、黄金の卵かけご飯

アルクス城が静寂に包まれる丑三つ時。

領主の寝室で、太郎は一人、ベッドの上で悶えていた。

(だ、駄目だ……。我慢できない……!)

隣ではサリーとライザが安らかな寝息を立てている。

しかし、太郎の脳裏にはある一つの映像がこびりついて離れない。

湯気の立つ炊きたての白米。その上に落とされた黄金色の卵黄。そして、醤油が描く黒い曲線。

「卵かけご飯が……食べたい!」

日本人のソウルフード、TKG。

すき焼きの時に生卵は解禁したが、白米に生卵をぶっかけて食べるという行為は、この世界アナスタシアの常識からすれば「野蛮」あるいは「ゲテモノ食い」と思われかねない。伯爵ともあろう者が、深夜にズルズルと卵をすするのは、体面的にどうなのか。

「しかし! 食べたい! どうしてもだ!」

食欲という魔物に勝てる人間はいない。

太郎は忍び足でベッドを抜け出し、音を立てないように部屋を出た。

城の厨房。

太郎は誰にも見つからないように侵入すると、手早く準備を始めた。

「よし、まずはご飯だ」

ウィンドウを開き、『高級土鍋』と『最高級コシヒカリ(新米)』、そして**『天然水』**を取り出す。

カセットコンロに火を点け、土鍋でじっくりと米を炊き上げる。

「赤子泣いても蓋取るな……っと」

数十分後。

パチパチという音がし始め、香ばしいお焦げの匂いが漂ってきた。火を止めて少し蒸らす。

「オープン!」

パカッ。

湯気と共に、ツヤツヤと輝く「銀シャリ」が顔を出した。

太郎はそれを茶碗によそうと、中心に窪みを作る。

そこへ、**『極上赤玉卵』**をコンコン、パカッ。

「おぉ……美しい……」

白米の山頂に鎮座する、オレンジ色に近い濃厚な黄身。

そこへ**『卵かけご飯専用醤油』**を垂らす。

「頂きます!」

太郎は箸で黄身を崩し、白身とご飯を豪快にかき混ぜ、口へと流し込んだ。

「むほ〜っ!! うめええええ!!」

濃厚な卵のコク、出汁醤油の旨味、そして土鍋で炊いたお米の甘味。

喉越しは飲み物の如く滑らかだ。

「やっぱり日本人なら、卵かけご飯だよな! 最高だ!」

太郎が一人、厨房の隅で至福の時を過ごしていると――。

ギィィ……。

厨房の扉が開き、薄手のネグリジェを着た二人の人影が現れた。

「太郎様? 何をしてるんですか?」

「厨房でコソコソと……怪しい……」

サリーとライザだ。夫がいないことに気づいて探しに来たのだ。

「い、いや……これは……その……」

太郎は茶碗を隠そうとしたが、既に遅かった。

「あぁ〜! 何か食べてる! ズルい!」

サリーが鼻をひくつかせて近づいてくる。

「そ、それって……生卵ですか!? ご飯に直接!?」

ライザが茶碗の中身を見て、少し引いたような顔をした。

すき焼きの時は肉に絡めたが、今回は見た目が完全に「ドロドロのご飯」だ。この世界の住人には、残飯のようにも見えるかもしれない。

「お、美味しいんだって! 見た目はアレだけど、味は保証するよ。君達も食べてみなよ」

太郎はウィンドウから新しい茶碗を二つ出し、手早く卵かけご飯を作って差し出した。

「うぅ……太郎様がそこまで仰るならぁ……」

「貴方が毒物を勧めるはずがありませんしね……」

二人は恐る恐る茶碗を受け取り、箸をつけた。

トロリとした卵ご飯を口に運ぶ。

「ん……?」

二人の動きが止まった。

そして、瞳が輝いた。

「美味しい! 甘くて、トロトロしてて……!」

サリーがパクパクと食べ始める。

「本当に美味しいわ……。お米の熱さで卵が少し固まって、絶妙な食感です。それにこの黒い調味料(醤油)が、卵の生臭さを完全に消しています!」

ライザも箸が止まらない。

「だろ〜?」

太郎はニカッと笑った。

「夜中に食べる炭水化物、しかも生卵……。なんて背徳的な味なのかしら」

「いけませんね……これは癖になりそうです」

「おかわりもあるよ?」

「頂きます!」

結局、土鍋のご飯が空になるまで、三人は無言で卵かけご飯を啜り続けた。

満腹になった三人は、共犯者の顔をして寝室へと戻っていった。

それからというもの。

「太郎様、今夜は……いかがですか?」

「あぁ、いい卵が入ったよ」

太郎達は夜な夜なこっそりと厨房に忍び込み、卵かけご飯パーティーを開くのが、城内での秘密の楽しみとなるのだった。

翌朝、少し顔がむくんでいる領主夫妻を見て、執事のマルスだけが首を傾げる日々が続いた。

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