表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/145

EP 63

剣姫の休日、透けるドレスと乙女心

アルクス城の騎士鍛錬所。

そこには、泡を吹いて倒れている騎士たちの山が築かれていた。

「いいですか! 休憩は終わりです! 立てない者は這ってでもついて来なさい!」

鬼教官ライザの怒号が響く。

彼女は騎士たちに地獄の特訓メニュー(筋トレフルコース&実戦形式組手100本)を課した後、涼しい顔で竹刀を置いた。

「ふぅ……。午前の部はこれで終わりです。午後は自主練とする!」

ライザは颯爽と城を出て、街へと向かった。

その足取りは、いつもの凛としたものではなく、どこか焦りを帯びていた。

(……サリーが最近、太郎様と妙に仲が良い)

先日、サリーが謎のコスプレをして太郎に褒められたという情報を、ライザは耳にしていた。

あの抜け駆けは許せない。

正妻(の一人)として、私も太郎様の心を鷲掴みにしなければ!

ライザは、サリーも訪れたという城下町の洋服屋にやってきた。

店内を見渡し、そして「例のブツ」を発見した。

「こ、このワンピースは……透けているではないか……」

ライザは震える手で、レース生地だけで作られたような大胆なドレスを手に取った。

「なんと破廉恥な……。これが最近の流行りなのか? 下着が丸見えではないか」

騎士としての貞操観念が警鐘を鳴らす。

だが、悪魔の囁きも聞こえる。『これを着れば、太郎様はイチコロよ』と。

「わ、私も着るべきなのか……? しかし、あまりにも……むむむ……」

鏡の前でドレスを合わせ、顔を真っ赤にして葛藤するライザ。

その時だった。

「泥棒よおおおお!! 誰か捕まえてー!!」

外から女性の悲鳴が聞こえた。

「何!?」

ライザの身体が反射的に動いた。

ドレスを棚に戻すや否や、店を飛び出す。

「アルクスで悪事は許しません!」

逃走する男の背中が見える。ライザは地面を蹴った。

一瞬で距離を詰め、抜刀することなく鞘のまま、男の後頭部に一撃を見舞う。

「ハッ!」

ガチンッ!

鮮やかな峰打ち(鞘打ち)。泥棒は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「まぁ! ありがとうございます! 騎士様!」

被害者の女性が駆け寄ってくる。

「なんてお強い……! 良かったらお礼にお茶でも……」

「い、いや……その……す、すまない!」

ライザは顔を背けた。

今は「強くてカッコいい騎士様」として褒められたいわけではない。「守りたくなるような可愛い女性」を目指して買い物に来ていたのだ。

そのギャップに耐えきれず、ライザは脱兎のごとく走り去った。

息を切らして、再び洋服屋の前に戻ってきたライザ。

「はぁ、はぁ……。気を取り直して……」

再び、あの透け透けドレスの前に立つ。

「こ、これも太郎様のハートを鷲掴みする事に繋がるなら……。しかし、やはり下品すぎじゃないか? 太郎様は清楚な方がお好きなのでは……?」

剣の道なら迷わないが、恋の道は迷宮入りだ。

ライザが腕組みをして唸っていると――。

「きゃああああ!! オークよおおおお!!」

再び、今度はより深刻な悲鳴が響いた。

「何!? オークだと!?」

アルクスの街中に魔物が出現するなど緊急事態だ。

ライザはドレスのことなど瞬時に頭から消し飛んだ。

「どきなさい!!」

群衆をかき分け、広場へ飛び出す。

そこには、ダンジョンから迷い出たのか、体長2メートルを超えるオークが棍棒を振り上げていた。

「グルァアアア!!」

「そこまでだ、下劣な豚め!!」

ライザは愛剣を抜き放ち、疾風のごとく肉薄した。

「剣技・瞬閃!」

ザンッ!!

交差した瞬間、オークの首が宙を舞った。

あまりにも早すぎる決着。

「すげぇ!! 流石ライザ様だ!!」

「一撃だぞ! なんて強さだ!」

「カッコいいぃぃぃ!! 憧れるぅ!」

街の人々から割れんばかりの喝采が浴びせられる。

黄色い声援。尊敬の眼差し。

しかし、ライザの心は沈んでいた。

(ち、違うんだ……私が……好かれたいのは……)

こんな風に、男勝りに魔物を斬り伏せる姿ではない。

もっとこう、か弱くて、太郎様に「守ってあげたい」と思われるような……。

「……すまないッ!!」

「えっ? ライザ様!?」

ライザは再び、称賛の声を背にして全速力で走り出した。

もはや洋服屋に戻る気力もなかった。

アルクス城、中庭。

太郎がのんびりとサツマイモ畑の手入れをしていると、猛烈な勢いでライザが走ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」

肩で息をするライザ。髪は乱れ、頬は紅潮している。

「あれ? ライザ、どうしたの? まだ訓練? えらいね、熱心だなぁ」

太郎はてっきり、彼女が自分に課したトレーニングで走ってきたのだと思った。

その言葉が、ライザの最後の理性を切った。

「違います……ッ!」

「え?」

「私が……私が好かれたいのは、街の人達ではありません! 太郎様! 貴方です!!」

ライザは叫んだ。

「強くてカッコいい騎士なんかじゃなく、一人の可愛い女として、貴方に愛されたいのです!!」

魂の叫び。

太郎はきょとんとして、そして優しく微笑んだ。

「え? ……うん、知ってるよ。僕はライザが好きだけど?」

「へ?」

「強くてカッコいいライザも、料理を美味しそうに食べるライザも、全部含めて大好きだよ。無理して変わる必要なんてないさ」

太郎にとって、ライザはそのままで十分に魅力的だった。

その言葉を聞いた瞬間、ライザの目から涙が溢れた。

「太郎様ぁ……♡」

「うわっ!」

感極まったライザが、勢いよく太郎に抱きついた。

S級冒険者のタックルである。

「ん? んん? ぐぇっ……!」

太郎は受け止めきれずに畑にひっくり返った。

土まみれになりながらも、胸の中で「大好きです」と繰り返す愛妻の頭を、太郎は苦笑いしながら撫でてやるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ