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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 62

爆誕! 魔法使いママ サリーちゃん

発展を続けるアルクス領。

その城下町へ、伯爵夫人となったサリーはお忍び(のつもり)で買い物に来ていた。

「何か……太郎様のハートを鷲掴みするようなの無いかなぁ……」

最近、太郎は領政や開発で忙しい。夫婦の時間は取れているものの、ここらで一つ、妻としての魅力をアピールし、夫をドキドキさせたい。そんな乙女心の表れだった。

サリーは高級ブティックから、少し怪しげな大人の洋服屋まで回っていた。

「こ、これは……透けているワンピース……」

サリーは手に取った布切れのような服を見て、顔を赤らめた。

「それにこっちは、背中もお尻のあたりまで丸見え……。せ、攻めすぎかな? 刺激が強すぎて太郎様が倒れちゃうかも」

鏡の前で合わせてみるが、恥ずかしすぎて直視できない。

結局、その服を棚に戻し、洋服屋を後にした。

「はぁ……難しいわね、大人の魅力って」

トボトボと歩いていると、公園の近くでシクシクと泣いている女の子を発見した。

「え〜ん、え〜ん……ボールが木にぃ……」

見上げると、高い木の枝に手鞠ボールが引っかかっている。

「どうしましょ!? 魔法で飛べば一瞬で取れるけど……」

サリーは杖を握りかけたが、家令マルスの怖い顔が脳裏に浮かんだ。

『サリー様。貴方様は今や伯爵夫人です。往来でむやみに魔法を使ったり、軽率な行動はお控えください。領主の威厳に関わります』

「私が伯爵夫人ってバレたら駄目だって、マルスさんにキツく言われてるし……」

周りには人が多い。空を飛べば一発で正体がバレる。かといって、泣いている子供を見過ごすなんて、サリーにはできない。

「正体を隠して、魔法を使えばいいのよね……。あ!」

サリーの視界に、先程通りがかった子供服とパーティグッズを扱う店が入った。

ショーウィンドウには、子供向けの「魔法少女」の衣装が飾られている。

「そうだわ! 変装すればいいのよ!」

サリーは店に駆け込んだ。

「いらっしゃいませー」

「これ! これの一番大きいサイズを!」

サリーはフリフリのピンク色のドレスと、オモチャのステッキを掴み取り、試着室へ飛び込んだ。

「えぇ〜い! 愛と正義の使者、魔法使いママ サリーちゃんに変身よ!」

バリバリバリ!

早着替えは冒険者の基本スキルだ。

試着室のカーテンが開くと、そこにはピンクのフリル地獄に身を包み、背中に小さな羽根の飾りをつけたサリーが立っていた。

「変身完了!」

「お、お客様!? ど、どうされたのですか!?」

店員がギョッとして後ずさりする。

高貴なオーラを纏った美女が、突然幼児向けのコスプレをして現れたのだ。狂気である。

「これ買うわね! お釣りはいらないわ!」

サリーは金貨が詰まった袋をドン! とレジに置いた。服が百着は買える金額だ。

「えっ、ちょっ……」

サリーは風のように店を飛び出した。

「お、お客様ー!! ね、値札が付いてますよぉぉぉ!!」

店員の叫びも虚しく、背中から「定価 2,980イェン(相当)」のタグをなびかせて、サリーは現場へ急行した。

「え〜ん、え〜ん……」

まだ少女は泣いていた。

そこへ、ピンクの疾風が舞い降りる。

「待たせたわね! 魔法使いママ サリーちゃん参上!」

ババーン! と謎のポーズを決めるサリー。

少女は涙を止めて、ポカンと口を開けた。

「あ、伯爵様」

「違いますー! 私は通りすがりの魔法使いママよ!」

即バレしていた。アルクスの住人でサリーの顔を知らない者などいない。

だがサリーは認めない。

「行くわよ! えーっと、呪文は……」

太郎が昔教えてくれた、異世界の即席スープの歌を思い出す。

「チキンチキンブイヨンのブイ!」

サリーはオモチャのステッキを回し、無駄にキラキラした光と共に魔法を発動させた。

ふわり、と風が巻き起こり、木の枝からボールが優しく少女の手元に落ちてきた。

「ほら、ボールよ」

「ありがとう、伯爵様」

「だから違うって! 魔法使いママ サリーちゃんよ! ママって呼んで!」

「……ありがとう、サリーちゃん」

「うっ、ま、まぁいいわ!」

少女の冷めた視線に耐えきれず、サリーはその場を走り去った。

「まだ困っている人がいるかもしれないわ!」

それから数時間。

サリーはピンクのフリフリ衣装(値札付き)で街中を駆け回った。

重い荷物を持つお婆さんには「チキンブイヨンのブイ!」(身体強化魔法)。

壊れた荷車には「チキンブイヨンのブイ!」(修復魔法)。

道に迷った旅人には「チキンブイヨンのブイ!」(ナビゲート)。

街の人々はヒソヒソと噂した。

「おい、あれ伯爵夫人だよな?」

「見ろよあの値札……」

「何も言うな。あれは『魔法使いママ』だ。合わせてやれ」

「優しいなぁ、奥様は……」

夕方。

すっかり疲れ果てたサリーは、こっそりと城の裏口から帰還した。

「はぁ……疲れた……。人助けも体力がいるわね」

リビングに入ると、そこには書類仕事を終えてくつろいでいた太郎がいた。

「おかえりサリ……うおっ!?」

太郎がコーヒーを吹き出しそうになった。

目の前には、フリフリの魔法少女の格好をした妻がいる。しかも背中には値札がぶら下がっている。

「ど、どうしたの? その格好は」

「えへへ〜……色々あって」

サリーは恥ずかしそうに身体をくねらせた。

事情は分からないが、太郎の目には、その一生懸命さと、隠しきれない素材の良さが映っていた。

何より、自分のために(?)何かしてくれようとしたその健気さが愛おしい。

「……似合ってるよ。すごく可愛い」

太郎は本心から微笑んだ。

「やだぁ! 太郎様ったらぁ♡」

サリーは顔を真っ赤にして太郎に抱きついた。

その夜、城下町では「謎の魔法少女」の伝説がまた一つ増えたが、太郎がその正体を知り、さらに愛を深めたことは言うまでもない。

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