EP 61
移民ラッシュと、アルクス都市計画
衣食住が保証され、最強の防衛力を持ち、極上の娯楽施設『スーパー銭湯 アルクスの湯』がある街。
そんな夢のような場所の噂が、広まらないはずがなかった。
「アルクスに行けば、飢えることはないらしいぞ!」
「あそこは天国だ! 毎日温かい風呂に入れるんだ!」
「領主様は英雄で、税も安いらしい!」
近隣の村々はもちろん、国境を越えた他国や、戦火に追われた難民までもが、雪崩を打ってアルクス領へと押し寄せ始めたのだ。
街道は馬車や荷車で渋滞し、街の外にはテント村ができるほどの盛況ぶりだった。
「ふむ……。嬉しいことだけど、このままじゃパンクするな」
城のテラスから、拡張し続けるテント村を見下ろし、太郎は腕を組んだ。
「サツマイモと養鶏のおかげで、食料は何とかなるとして……問題は住宅とインフラだ」
テント暮らしでは衛生状態が悪化するし、冬になれば凍死者が出るかもしれない。
それに、人が増えれば排泄物の処理や、水の確保も深刻な問題になる。
中世レベルの街づくりでは、この人口急増には対応できない。
「やるしかないか。……『都市計画』を」
太郎は城の大広間に、家令のマルス、建設長官となったガンダフ、そして領内から集めた建築士や数学者(学者)たちを招集した。
大テーブルの上には、現在のアルクスの地図が広げられている。
「急に集まってもらってすまない。議題は、急増する移民への対応だ」
太郎は切り出した。
「今のまま無計画に家を建てさせれば、道は狭くなり、汚水が溢れ、火事になれば街ごと全焼する。だから、街そのものを造り変える」
「造り変える……でございますか?」
学者のひとりがおずおずと尋ねる。
「そうだ。これを見てくれ」
太郎はウィンドウを開き、『書籍・建築/土木』カテゴリから数冊の専門書を取り出した。
『図解・わかる土木工学』
『都市計画の基礎知識』
『ツーバイフォー住宅の作り方』
『上下水道の仕組み』
「ガンダフ、学者たち。これを読んでくれ」
太郎が本を渡すと、ガンダフたちは食い入るようにページをめくり始めた。
「……ッ!?」
ガンダフの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
「こりゃあ……すげぇ!!」
ドワーフの太い指が震えている。
「道路の下に管を通して、汚水を一箇所に集めて浄化するだと!? 『下水道』……これがあれば、街から悪臭が消えるぞ!」
「こっちの『規格住宅』というのも驚きです! 木材を同じ寸法で加工し、組み立てるだけ……これなら職人の腕に関わらず、短期間で大量の家が建てられます!」
学者たちも興奮して叫んだ。
この世界では、家は一軒一軒、職人が手作業で建てるオーダーメイドが基本だ。
だが、太郎が示したのは「プレカット工法」や「集合住宅」の概念。建築革命である。
「それを参考にしながら、アルクス領のインフラや住宅地の改善に取り組んで貰いたい」
太郎は地図上の空き地を指差した。
「ここに、数階建ての集合住宅群……いわゆる『団地』を作る。一階部分はレンガや石で補強して、上は木造でいい。一気に数百世帯を収容できるようにするんだ」
「だんち……! なんと効率的な!」
マルスが感嘆の声を上げた。
「これなら土地も節約できますし、住民の管理も容易になります。家賃収入も見込める……素晴らしい策です!」
「だろ? それと、道路は馬車がすれ違えるように拡張。街灯も等間隔に設置して治安を維持する。……できるかな?」
太郎が尋ねると、ガンダフはニヤリと笑い、図面を握りしめた。
「へっ、愚問だねぇ! こんな面白ぇ設計図見せられて、燃えない職人がいるかよ! 魔法セメントと俺様の技術がありゃあ、あっという間に『未来都市』を作ってやるぜ!」
「私も、直ちに資材の手配と、労働力の確保……移民たちを雇用して工事に当たらせる計画を立てます! 彼らに仕事と住処を同時に与えるのです!」
マルスも即座に動き出した。移民を労働力として活用すれば、失業対策にもなり、街への帰属意識も生まれる。完璧な采配だ。
「よし、頼んだよ。みんな」
「「「承知しました!!」」」
こうして、アルクス領の大改造計画が始動した。
上下水道完備、ガス(魔道具)コンロ付きの集合住宅、そして整備された石畳の道路。
それは後に、大陸中の王族すら視察に訪れる「奇跡のモデル都市」の始まりだった。




