EP 60
鉄の咆哮、アルクス最強防衛線
アルクス城から少し離れた、岩肌が露出した荒野。
普段は採石場として使われているこの場所は、今日、歴史が変わる瞬間の舞台となっていた。
ズラリと並んだのは、黒光りする鋼鉄の巨体――『魔導カノン砲』。
そして、空を睨むように仰角をつけた巨大な弓――『対空バリスタ』。
「ガハハハ! どうでい! 俺の最高傑作、最強の兵器よ!」
ガンダフが砲身をバンバンと叩きながら、誇らしげに髭を揺らした。
その横には、大量の木箱が積み上げられている。中身は全て、太郎の「必殺の矢」の技術を応用・大型化した弾薬だ。
「うん! 見事だ。よくやってくれたよ、ガンダフ」
太郎は感嘆した。
太郎が提供した「黒色火薬(花火の分解品)」と「着火剤」、そしてガンダフの「魔導工学」が融合し、わずかな期間で量産化に成功したのだ。
「早速、試射をしましょう」
ライザが前に出た。彼女は既にこの新兵器の運用マニュアル(太郎作成)を熟読し、指揮官としての顔つきになっている。
「総員、装填!」
「「「ハッ!!」」」
訓練された騎士たちが、慎重かつ迅速に動き出す。
大砲の筒先に、巨大な円筒形の弾――**『特大必殺弾』**を装填する。中には、可燃性オイルと火薬、そして魔石がぎっしりと詰まっている。
「照準、前方の岩山! 放てッ!!」
ライザが指揮刀を振り下ろした。
ズドォォォォォォォォン!!!
腹の底に響く重低音と共に、砲口から紅蓮の炎が噴き出した。
発射された弾丸は音速を超え、彼方の岩山へと着弾する。
ドガアアアアアアアアアン!!
閃光。遅れて轟音。
着弾地点を中心に、太陽が生まれたかのような巨大な火球が膨れ上がった。
爆風が頬を撫で、地面が揺れる。
「……すご」
煙が晴れると、そこには直径数百メートルにも及ぶ巨大なクレーターが出来上がっており、岩山の一部が消滅していた。
「すごい〜! 上級爆裂魔法『エクスプロージョン』並の威力じゃない!」
サリーが目を丸くして拍手する。
魔法使いが詠唱して放つ大魔法を、魔力のない騎士がスイッチ一つで連発できる。これは軍事革命だ。
「次は対空迎撃のテストです! バリスタ装填!」
ライザの手は緩まない。
次は巨大な弓、バリスタだ。セットされたのは、槍のように太く長い**『必殺のバリスタ矢』**。
「仮想敵、上空の飛竜! 必殺のバリスタ、放てッ!!」
バシュッッ!!
大砲とは違う、空気を切り裂く鋭い発射音。
矢は目にも止まらぬ速さで空を駆け、ターゲットとして浮かせておいた巨大な岩塊に突き刺さった。
ドゴォォォォォォォォン!!
空中で爆発の花火が咲いた。
通常の矢とは火薬量が違う。直撃すれば、ワイバーンどころかグリフィンでも木っ端微塵だろう。
「よし……! これに加えて、個人の弓兵が使う『必殺の矢』の量産化も完了している」
太郎は積み上げられた木箱の山を見た。
そこには数千、数万の「爆発する矢」が眠っている。
遠距離からは大砲で殲滅し、中距離はバリスタで撃ち落とし、接近戦では必殺の矢の雨を降らせる。
さらに、地上にはライザ率いる最強騎士団と、サリー率いる科学魔法部隊が控えているのだ。
「これで……アルクス領は安泰だな」
太郎は安堵の息を吐いた。
かつて街を焼かれた恐怖は、この圧倒的な火力が払拭してくれた。
「へっ、これだけありゃあ、ドラゴンが群れで来ても返り討ちだぜ!」
「えぇ。このアルクスに手を出そうとする愚か者がいれば、塵一つ残さず消し飛ばして差し上げますわ」
ガンダフとライザが不敵に笑う。
最強の温泉街にして、難攻不落の要塞都市。
平和を愛する太郎の願いとは裏腹に、アルクスの武力はとどまる所を知らず膨れ上がっていくのだった。




