EP 58
完成! 癒やしの楽園と、ととのう英雄たち
構想から数ヶ月。ガンダフ率いる職人集団と、サリーの魔法理論、そして太郎の100円グッズ知識が結集し、ついにその施設は完成した。
アルクス城下町の広場に堂々とオープンした、異世界初の大型温浴施設、『スーパー銭湯 アルクスの湯』である。
「どうでぃ! 領主様! 俺の最高傑作だ!」
ガンダフが胸を張り、館内を案内する。
「地下から汲み上げた天然水を魔法石で沸かした大浴場に、ミスリル配管を使ったジェットバス! 露天風呂もサウナも岩盤浴もあって、湯上がりには食堂や畳敷きの休憩スペースも完備だぜ!」
「すごいよ! ガンダフ! 日本……いや、僕の故郷の銭湯以上のクオリティだ!」
太郎は感動で声を震わせた。
木材の香りと、温かな湯気が館内に充満している。ここは紛れもなく「癒やしの楽園」だ。
「早速、入りましょっ! 汗をかいてスッキリしたいわ!」
「えぇ、最新式の『サウナ』というものが楽しみです」
「よし、今日は貸切だ。家族みんなで入ろう!」
太郎たちが通されたのは、VIP専用の『家族湯(貸切風呂)』。
脱衣所を抜けると、そこには岩造りの露天風呂があり、アルクスの街並みと星空が一望できた。
「わぁ……!」
掛け湯をして、たっぷりと湯が満たされた湯船に身を沈める。
「はぁ……気持ちいい……」
太郎の口から、溜まっていた疲れが魂と共に抜け出していく。
「あぁ〜……疲れが吹っ飛ぶわぁ……」
サリーも肩まで浸かり、とろけるような声を出す。
「最高の場所ですね……。お湯に浸かるだけで、これほど体が軽くなるとは」
ライザも目を閉じ、お湯の感触を楽しんでいる。
ピカリも専用の小さな桶に浸かり、『ピカリふやけちゃう〜』と極楽顔だ。
しばらく体を温めた後、太郎が立ち上がった。
「さて……次はお楽しみの『サウナ』だ」
「いよいよですね!」
浴室の奥にある、木製の扉を開ける。
ムワッとした熱気が全身を包み込んだ。
中は階段状になっており、中央には焼けた石が積まれている。
「熱っ! でも、嫌な熱さじゃないわ!」
「湿度が保たれているからですね。汗が吹き出してきます」
三人は並んでベンチに座った。
「くぅ……最高の暑さだ」
太郎は砂時計をひっくり返した。
じわじわと毛穴が開き、体内の老廃物が汗となって流れ落ちる。
「はぁ、はぁ……」
サリーの頬が赤く染まり、汗が滴り落ちる。
「あ、暑い……しかし、心地良い。闘気とは違う、体の芯から燃えるような感覚です」
ライザもじっと熱さに耐える。我慢した分だけ、後の快楽が大きくなることを太郎から教わっているからだ。
そして、12分後。
「よし! 出るぞ!」
三人はサウナ室を飛び出し、掛け湯で汗を流した。
そして目の前にあるのは、水魔法石でキンキンに冷やされた**『水風呂』**だ。
「行くぞ! せーのっ!」
ドボンッ!!
「「「あひゃあああああああ!!!」」」
冷たい! 衝撃的な冷たさが全身を貫く。
だが、サウナで極限まで温まった体には、それが愛おしいほどの刺激となる。
「さ、最高だ……羽衣が出来てきた……」
太郎が水中で力を抜く。冷たさの先に、温かさを感じる膜が体を覆う感覚。
「き、気持ちいい……! 何これ、新感覚!」
「脳が……とろける……」
水風呂から上がり、露天スペースの『ととのい椅子』に深々と腰掛ける。
外気浴。夜風が火照った体を優しく撫でる。
血液が全身を駆け巡り、意識が宇宙と一体化するような浮遊感。
(これが……ととのう、ということか……)
三人と一匹は、言葉もなく、ただ星空を見上げて呆けていた。
風呂上がり。
休憩スペースの畳の上で、太郎は腰に手を当てた。
手には、よく冷えた『瓶入りフルーツ牛乳』。
「やっぱり風呂上がりはこれだよね」
「私はコーヒー牛乳!」
「私はイチゴ牛乳を」
三人は瓶の蓋を開け、一気に煽った。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!!
「し、幸せぇ〜……!!」
冷たい液体が、火照った体に染み渡る。
極上の湯、サウナ、水風呂、そして甘い牛乳。
このフルコースは、S級冒険者の報酬である金貨5000枚にも勝る価値があった。
「これは流行るわね……間違いなく」
「えぇ。アルクスの、いえ、王国の名所になりますわ」
赤ら顔で微笑む妻たちを見ながら、太郎は確信した。
この「アルクスの湯」は、間違いなくこの世界の人々を虜にし、巨万の富をもたらすだろうと。
だが今はただ、この心地よい脱力感に身を委ねるのだった。




