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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 54

新米領主の初仕事、サツマイモとヒヨコ

アルクスの街を見下ろす高台にそびえる、堅牢な石造りの城――アルクス城。

かつては王族の別荘や地方領主の居城として使われていたその場所が、今日から太郎たちの新たな我が家となった。

王家の紋章が入った馬車が正門をくぐると、そこには壮観な景色が広がっていた。

ずらりと整列したアルクス騎士団の兵士たち、そして数十人のメイドや従事者たちが、一斉に頭を下げて出迎えたのだ。

「「「お帰りなさいませ! 領主様!!」」」

「うわぁ……」

馬車から降りた太郎は、その迫力に圧倒されて後ずさりした。

その列の最前列に、見慣れた燕尾服の男が立っていた。

「お待ちしておりました。太郎様、サリー様、ライザ様」

かつての王宮執事であり、今日から太郎の筆頭家令となったマルスだ。

彼は水を得た魚のように、キビキビとした所作で一礼した。

「マルスさん、よろしく頼むね。いきなりこんな大所帯で緊張するよ」

「……太郎様」

マルスはスッと顔を上げ、穏やかながらも厳しい口調で言った。

「『マルスさん』はお止めください。そして敬語も。今の私は、太郎様にお仕えする家臣なのですから。呼び捨てでよろしゅうございます」

「えぇっと……でも、年上だし……」

「威厳は言葉から生まれます。領主が家臣にへりくだっては、下の者たちが不安になりますぞ」

マルスの瞳には、プロの執事としての覚悟が宿っていた。

太郎は居住まいを正した。

「わ、分かった。……よろしく頼む、マルス」

「ハハッ! 命に代えても!」

マルスは満足げに深く頭を下げた。

その後、マルスの案内で広大な城内を見て回った。

王族が使っていただけあり、設備は豪華絢爛。サリーもライザも、そしてピカリも、新しい生活への期待に胸を膨らませていた。

そして最後に通されたのは、城の心臓部である『領主執務室』だ。

「ここが、太郎様の戦場にございます」

重厚なオーク材のデスクに、ふかふかの革椅子。

太郎は恐る恐るその椅子に座ってみた。座り心地は最高だが、プレッシャーも半端ではない。

「えぇっと……伯爵って、具体的に何すんだ?」

冒険なら分かるが、経営となるとさっぱりだ。

太郎は困った時の神頼み――もとい、スキル頼みでウィンドウを開いた。

『書籍・実用書』カテゴリを検索する。

「あった、これだ」

太郎が取り出したのは、一冊の分厚い本。

タイトルは『マンガでわかる! 誰でもできる領地運営~基礎から税収アップまで~』(100円)。

「何々……『民達の衣食住を確保して、騎士団を強くして治安を守り、税を貰って国に納めましょう』……かぁ」

太郎が要約して読み上げると、マルスが感心したように頷いた。

「左様。まさに領地運営の基本にして奥義ですな。シンプルですが、最も難しいことです」

「衣食住、か……。まずは『食』だな」

腹が減っては戦はできぬ。民が飢えていては税も取れない。

太郎は再びウィンドウを操作した。

『園芸・農業』コーナーと、『ペット・生き物』コーナーから、あるものを取り出した。

ドサッ! ピヨピヨ!

デスクの上に現れたのは、土がついた紫色の芋の苗と、黄色い小さなフワフワした生き物の群れだった。

「こ、これは……!?」

マルスが目を見開いた。

「無から……生物を出したのですか!?」

アイテムボックスから道具を出すのは見たことがあるが、生きた動物を取り出すなど、高位の召喚魔法でもなければ不可能だ。

「こっちは『サツマイモ』の苗。痩せた土地でも育てられて、収穫量も多い。主食になるし、甘くて美味しいよ。葉っぱも食べられる万能野菜だ」

太郎は苗を手に取って説明した。

「で、こっちは『ヒヨコ』。大きくなればニワトリになって、卵を産むし肉にもなる。何より、糞は良い肥料になるんだ」

サツマイモと養鶏。

これぞ、太郎が考えた「アルクス農業改革プラン」だ。

特にサツマイモは、飢饉ききんにも強い救世主的な作物だ。

マルスは震える手でヒヨコを掌に乗せ、サツマイモの苗を見つめた。

「痩せた土地でも育つ作物に、肥料と食料を生み出す鳥……。これをセットで運用すれば、食糧事情は劇的に改善します」

マルスの執事としての計算能力が、瞬時にその価値を弾き出した。

「太郎様がスキル持ちとは聞いてましたが、まさかこのような『神業』をなさるとは……!」

マルスは感極まった表情で、太郎を見上げた。

この主人は、ただ強いだけではない。国を富ませる「力」を持っている。

「直ぐ様、手配いたします! 城の農園を開放し、サツマイモとヒヨコを育てまする! アルクスの未来は明るいですぞ!」

「うん、頼んだよ」

『ピヨピヨ!』

『ピカリもお世話するー!』

こうして、新米領主・佐藤太郎の統治は、剣ではなく、芋とヒヨコから始まったのである。

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