EP 51
S級冒険者誕生、黄金の宴
夕刻。アルクスの冒険者ギルドの扉が重々しい音を立てて開かれた。
入ってきたのは、泥と埃に塗れながらも、圧倒的な覇気を纏った四つの影――チーム・タロウだ。
太郎の背中には、新しく手に入れた白銀の弓『雷霆』が青白く輝き、その後ろには、荷車に乗せられた巨大な「ベヒーモスのねじれ角」が鎮座していた。
「おい、あれ見ろよ……」
「あの角、まさかベヒーモスか……?」
「嘘だろ……あんな怪物、おとぎ話の中だけの存在じゃなかったのか?」
ギルド内の喧騒が一瞬にして消え、次いで畏敬と羨望の眼差しが一行に降り注ぐ。
もはや誰も、彼らを「変わった武器を使う兄ちゃん」とは見ない。生きる伝説を見る目だ。
奥から飛んできたヴォルフが、荷車の角を見て絶句した。
「ま、まさか……ダンジョンを制覇して、最奥のベヒーモスまで倒すとはな……」
ヴォルフの声が震えている。
ダンジョンの出現からわずか数日。攻略には数ヶ月、あるいは年単位の時間がかかると予想されていた難攻不落の迷宮を、彼らはピクニックに行くような速さで踏破してしまったのだ。
「へへ、頑張りましたから。それに、新しい武器のおかげもあります」
太郎は背中の雷霆をポンと叩いた。
「報酬が楽しみね! 苦労した甲斐があったわ!」
サリーが期待に満ちた目でヴォルフを見る。
「えぇ! 今回ばかりは、期待してもよろしいのではなくて?」
ライザも誇らしげに胸を張った。
ヴォルフは一度大きく深呼吸をすると、表情を引き締め、ギルド全体に響き渡る大声で宣言した。
「うむ! 未踏のダンジョンを制覇し、伝説の魔獣ベヒーモスを討伐した偉業……これは人類史に残る快挙だ! もはやA級の枠には収まらん!」
ヴォルフは太郎の肩に重厚な手形を貼り付けた。
「今から貴様らは、ギルド最高ランクの**『S級冒険者』**だ! 国家戦力に匹敵する、最高位の称号を与える!」
「僕達が……S級……」
太郎はゴクリと喉を鳴らした。
Fランクの底辺から始まり、ついに頂点まで登り詰めたのだ。
「そしてこれが、国とギルドからの特別報奨金だ。……金貨5000枚を与えよう!」
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
職員たちが、金貨が詰まった大袋を5つ、テーブルの上に積み上げた。
その重みで頑丈なテーブルが軋む。
5000枚。日本円にしておよそ5千万円。
一生遊んで暮らすどころか、小さな城なら買えてしまう金額だ。
「やったぁぁぁ!! 金貨5000枚だって!!」
サリーが金貨の袋に抱きついた。
「凄いですわ……。これだけの富があれば、何でも出来ますね」
「今日はパーティーね! 豪勢に行きましょう!」
「その通りだ! 野郎共、聞けぇ!!」
ヴォルフが拳を突き上げた。
「今ここに、アルクスの大英雄、S級冒険者・佐藤太郎とその一味が爆誕した! 今夜はギルドの奢りだ! 街中の酒を飲み干す勢いで盛り上げろ!!」
うおおおおおおおおおっっ!!!
ギルドの屋根が吹き飛ばんばかりの歓声が上がった。
「飲むぞおおお!!」
「英雄に乾杯だ!!」
即座に大宴会が始まった。
だが、ギルドの備蓄だけでは酒も肴も足りない。
「よし! 今日は僕からも振る舞うよ! S級昇格記念だ!」
太郎は『雷霆』を置き、ウィンドウを全開にした。
懐が潤った今、もう「値引き品」である必要はない。
「最高級の**『プレミアム・ビール』に、『大吟醸の日本酒』! つまみは『厚切り牛タン』と『特上寿司桶』**だ! 好きなだけ食ってくれ!」
太郎が次々と出す見たこともない高級料理と美酒に、冒険者たちのボルテージは最高潮に達した。
「なんだこの酒は! 喉越しが違うぞ!」
「この『スシ』ってやつ、魚がとろけるぞ!」
『ピカリもー! ピカリもお寿司たべるー!』
笑顔と喧騒、そして称賛の嵐。
太郎はサリーとライザ、そしてヴォルフと肩を組み、勝利の美酒に酔いしれた。
異世界に来て一番の、最高に熱い夜が更けていった。




