EP 47
休息所の出会い、傷薬とチョコレート
地下1階を難なく突破した太郎たちは、地下2階へと足を踏み入れた。
ここからは罠が多くなるエリアだ。
「っと、危ない」
太郎が『LEDライト』で床を照らすと、極細のワイヤーが光った。矢が飛び出す仕掛けだ。
「お見事です。普通の松明では見落としていましたね」
「こっちの床は落とし穴ね。魔力の流れがおかしいわ」
サクサクと罠を回避していく一行。
最新の照明器具と、高レベルな魔法使いと剣士の感知能力があれば、どんな悪質なトラップも無意味だった。
しばらく進むと、少し開けた空間に出た。
ダンジョン内にいくつか存在する、魔物が寄り付かない「休息スポット(セーフティゾーン)」だ。
「あそこに誰かいるわ……でも様子がおかしい」
サリーが指差した先には、ボロボロになった冒険者のパーティーが座り込んでいた。
鎧は砕け、血を流し、うめき声を上げている。
「怪我をしているわ! 大変! すぐにお助けします!」
サリーが駆け寄り、一番重傷の戦士に手をかざした。
「癒やしの光よ、傷を塞ぎたまえ! 『ハイ・ヒール』!」
温かな光が戦士を包み込むと、深い切り傷が見る見るうちに塞がっていった。
「す、すげぇ……一瞬で痛みが……」
「僕も何かしなきゃ」
太郎も駆け寄り、ウィンドウを開いて『救急キット』を取り出した。
消毒液、ガーゼ、包帯などがセットになった100円グッズだ。
「ちょっと染みますよー」
太郎は消毒液を傷口にドバドバとかけた。
「ぐぎゃああああ!!」
「ごめんね! でもバイ菌が入ると大変だから!」
その横で、ライザも手当てに入る。
「傷は塞がっても、打撲と筋肉の炎症が残っているな。……染みるが効果は確かだ」
ライザは独特の薬草の匂いがする湿布を、冒険者の背中にビタンッ! と力強く貼り付けた。
「い、いってぇ!!」
「我慢しろ。これで明日の朝には腫れが引く」
S級クラスの手厚い(そして少し痛い)治療のおかげで、瀕死だった冒険者たちは生気を取り戻した。
「ふぅ……大変でしたね」
太郎が包帯を巻き終えて声をかける。
「あぁ、お陰さんで助かったよ。ありがとう。奥の方で『キラーマンティス』の群れに襲われてな……もう駄目かと思った」
リーダー格の男が深々と頭を下げた。
「早く帰った方が良いですよ? 傷は塞がりましたけど、血を失いすぎています」
サリーが心配そうに診断する。
「あぁ、わかってる。俺たちの実力不足だ。ここいらが潮時のようだな。……帰るさ」
冒険者たちは悔しそうにしながらも、互いに肩を貸し合って立ち上がった。
ダンジョン攻略を諦め、撤退する背中はどこか寂しげだ。
「あ、あの!」
太郎は彼らを呼び止めた。
怪我は治っても、心が折れかけている。何か励ますことはできないか。
太郎はとっさにスキルを使い、銀紙に包まれた板状のものを取り出した。
「これ、食べてください」
太郎は『板チョコレート』を数枚、冒険者に手渡した。
「こ、これは……チョコレートかい? 王都の貴族しか食えないっていう、高級菓子の……」
この世界でもカカオ製品はあるが、砂糖たっぷりのチョコレートは超高級品だ。
「えっと、甘いものを食べると元気が出ますから。……元気、出してください」
太郎の不器用な優しさに、冒険者の男は目を見開き、そして涙ぐんだ。
「ありがとう……本当にありがとう! この御恩は忘れない!」
彼らは大事そうにチョコを懐にしまい、何度も頭を下げて地上へと去っていった。
静かになった休息所で、サリーが微笑んだ。
「太郎さんは優しいですね。高いお菓子をあんなにあげちゃうなんて」
「いやぁ……。命からがら帰るんだし、最後くらい甘い思い出があってもいいかなって」
太郎は照れくさそうに頭をかいた。
「ふふ、そんな太郎さんだから、私は大好きなんです」
ライザも愛おしそうに太郎を見つめる。
甘い空気が流れる中、宙に浮いていたピカリが頬を膨らませた。
『なんだかなぁ……。ピカリだけ置いてけぼりー』
ピカリは太郎の頭に着地し、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
『ピカリもチョコたべるー! ちょーだい!』
「わわっ、分かったよピカリ! はい、あげるから!」
太郎が慌てて新しいチョコを取り出すと、ピカリは機嫌を直して嬉しそうにかじりついた。
優しさと甘さに包まれ、一行は再びダンジョンの奥へと進む活力を得るのだった。




