EP 46
地下1階の瞬殺劇、最強夫婦の力関係
特需による商売を終え、懐も装備も万全となった太郎たち。
冒険者たちで賑わう入り口を抜け、ついに未知のダンジョンへと足を踏み入れた。
「じゃあ、僕達もダンジョン攻略しようか」
太郎が『LEDヘッドライト』のスイッチを入れると、真っ直ぐな光の筋が闇を切り裂いた。
「えぇ。体が鈍っていますからね。腕が鳴りますわ」
ライザが愛剣の柄に手を掛け、好戦的な笑みを浮かべる。
「楽しみぃ! どんな魔物がいるのかしら」
サリーも杖を軽く振り回し、ウォーミングアップは万全だ。
『ピカリ頑張る! 宝箱さがす!』
一行は石造りの階段を下り、地下1階へと進んだ。
湿った空気と、どこからか聞こえる魔物の唸り声。
進むこと数分、広い空間に出たところで、行く手を阻む影が現れた。
「グルルルル……!!」
闇の中から姿を現したのは、全身が黒曜石のような皮膚で覆われた巨鬼。
通常のオーガよりも遥かに凶暴でタフな上位種、ダークオーガだ。それが3体、巨大な棍棒を引きずって待ち構えていた。
「オーガか……。いきなり上位種とはね」
一般の冒険者なら、地下1階で遭遇したら悲鳴を上げて逃げ出す相手だ。
だが、ドラゴンスレイヤーたちにとっては準備運動にもならない。
「いつでも良いですよ」
ライザが静かに腰を落とし、蒼き闘気を長剣の鞘へと収束させていく。
サリーも既に詠唱を始めており、杖の先が聖なる光を帯びていた。
「よし、行くぞ!」
太郎は挨拶代わりに、矢筒から漆黒の矢を引き抜いた。
地下1階だろうと容赦はしない。それが太郎流だ。
「喰らえ!」
シュッ!!
放たれた「必殺の矢」は、真ん中にいたダークオーガの胸板に吸い込まれた。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
閉鎖空間であるダンジョン内に、凄まじい爆音が反響する。
爆風が吹き荒れ、直撃を受けたダークオーガは悲鳴を上げる暇もなく、上半身が消し飛んだ。
「グオッ!?」
残った左右の2体のダークオーガが、仲間の死に激昂した。
怒り狂い、ドシドシと床を踏み鳴らして突進してくる。
「怒ったところで、隙だらけよ!」
サリーが杖を突き出した。
「聖なる光よ! 貫け! 『ホーリー・レーザー』!!」
ビッ!!
杖の先端から、収束された高密度の光線が一直線に放たれた。
光はダークオーガの分厚い皮膚も筋肉も無視して、その心臓を正確に貫通した。
巨体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
残るは最後の一体。
ライザが疾風のように飛び出した。
「剣技! 『闘牙一閃』!!」
目にも止まらぬ電光石火の踏み込み。
すれ違いざま、銀色の閃光が走った。
チンッ!
ライザが残心と共に長剣を鞘に納め、鍔が鳴る澄んだ音が響く。
その音が合図だったかのように、ダークオーガの身体が斜めにズレて、二つに割れた。
ドサッ……。
戦闘開始から数秒。
凶悪なダークオーガ3体が、何もできずに全滅した。
「……強いなぁ、皆」
太郎は弓を下ろし、呆気にとられた。
ドラゴン戦を経て、二人の実力はさらに向上している気がする。
「えへへ~、これくらい余裕よ!」
サリーが無邪気にピースサインを送る。
「この位当然です。私達は、貴方の妻なのですから」
ライザも涼しい顔で髪を払った。
その姿は美しく、そしてあまりにも強大だった。
「頼もしいな……」
太郎は口ではそう言ったが、心の中で冷や汗を流していた。
(こりゃ……夫婦喧嘩したら死ぬな、僕は。絶対に逆らうのは辞めよう……)
もし浮気でもしようものなら、一方は聖なるレーザーで焼かれ、もう一方には神速で斬り刻まれる未来が容易に想像できた。
太郎は二人の機嫌を損ねないよう、今夜の夕食は彼女たちの好物にしようと固く誓いながら、ダンジョンの奥へと足を進めるのだった。




