EP 40
ドラゴンスレイヤーの宴、百円の美酒
夕闇が迫る頃、太郎たちはアルクスの冒険者ギルドへと帰還した。
ドラゴンの素材の一部――巨大な鱗と角を荷車に乗せての凱旋だ。
ギルドの扉を開けた瞬間、張り詰めていた空気が弾けた。
「帰ってきたぞぉぉぉ!!」
「本当か!? 本当にドラゴンを倒したのか!?」
ざわつく冒険者たち。彼らは半信半疑だった。だが、太郎たちが持ち帰ったエメラルドグリーンに輝く巨大な鱗を見て、どよめきは爆発的な歓声へと変わった。
「よくやった! お前達!」
奥からヴォルフが飛び出してきた。その顔には、隠しきれない安堵と興奮が混じっている。
「まさか本当に、五体満足で帰ってくるとはな。お前たちはアルクスの、いや、人類の誇りだ!」
「へへっ、なんとかなりましたよ」
太郎は鼻の下をこすった。
「大変だったんだから! 氷魔法を撃ちすぎて、もうクタクタよ!」
サリーが胸を張ってアピールする。その顔は煤だらけだが、誇らしげだ。
「よし! ドラゴン討伐なんて、数百年ぶりの快挙だ! ギルドとしても最大の敬意を表する!」
ヴォルフは高らかに宣言した。
「特別報酬として……金貨1000枚だ! 持ってけ泥棒!」
「せ、せんまいッ!?」
太郎の声がひっくり返った。
日本円にして約1000万円。もはや一生遊んで暮らせる金額だ。
「やりましたね、太郎さん! これでしばらくは活動資金に困りませんわ!」
ライザが太郎の手を握って喜ぶ。
「あ、あぁ……(震えが止まらないよ)」
「よォし! 野郎共! 今日は無礼講だ! 宴だ、宴ェ!!」
ヴォルフが樽に足を乗せて吼えた。
「我らが英雄、『ドラゴンスレイヤー』の誕生を祝して、朝まで飲み明かすぞ!!」
おおおおおおッッ!!
ギルド中が揺れるほどの雄叫びが上がった。
たちまち、ギルドの食堂は巨大な宴会場へと早変わりした。
料理が次々と運ばれてくるが、興奮した荒くれ者たちのペースに酒が追いつかない。
「お酒が足りないぞー!」
「もっと持ってこーい!」
そんな声を聞いて、太郎が立ち上がった。
今日ばかりはケチケチしている場合ではない。
「任せてくれ! 僕がじゃんじゃん出すよ!」
太郎はテーブルの上に陣取り、スキルを全開にした。
「まずは、喉越し爽快! 『缶ビール(発泡酒)』だ!」
プシュッ! プシュッ!
小気味よい音と共に、冷えた350ml缶が次々と山積みになっていく。
「次は、ガツンと来る『紙パック焼酎(甲類)』!」
ドサッ!
さらに、色とりどりのラベルが貼られた『ワンコイン・ワイン(赤・白)』も並べた。
「うおおおお! なんだこの『鉄の酒器(缶)』は!?」
「プシュッて言ったぞ! 中から黄金色の酒が!」
「すげぇぇ! 魔法の酒だ!」
冒険者たちは先を争って缶ビールを手に取り、喉を鳴らして飲み干した。
「ぷはぁっ! 苦味と炭酸が最高だ!」
「こっちの透明な水(焼酎)もすげぇぞ! カーッと熱くなる!」
「この葡萄の酒、渋みがなくてジュースみたいに飲めるぞ!」
異世界のエールやワインとは違う、現代の調整された味は、彼らにとって未知の美酒だった。
「ガハハハ! 太郎さん、太っ腹だな! こんな高級そうな酒を!」
ヴォルフも缶ビール片手に上機嫌だ。
「へへっ、どんどん飲んでください!」
太郎は笑顔で答えつつ、心の中で舌を出した。
(……全部、100円ショップの『値切り品』や『プライベートブランド』の安酒だけどな!)
発泡酒に、大容量の安焼酎、そしてテーブルワイン。
原価は安くても、みんなが笑顔ならそれでいい。
金貨1000枚の報酬に比べれば、安いものだ。
「カンパーイ!!」
『カンパーイ!』
ピカリもジュースの缶を抱えて乾杯に参加する。
英雄たちの笑い声と、プシュッという炭酸の音が、夜更けまでアルクスの街に響き渡るのだった。




