EP 35
閃光の妖精と、暗黒の融合体
アルクスの城壁の上。
空を埋め尽くすワイバーンの群れは、まるで黒い雲のように街へと押し寄せてきた。
冒険者たちの弓や魔法による迎撃も、圧倒的な数を前には焼け石に水だ。
「数が多すぎます! このままでは壁を突破されます!」
ライザが悲痛な声を上げる。
先頭集団が市街地上空へ侵入しようとしていた。ここを抜かれれば、避難の遅れた市民が虐殺される。
「太郎さん! やるしかありません!」
「あぁ、分かってる!」
太郎は矢筒から、切り札である漆黒の矢を取り出した。
ヴォルフとの約束。『どうしてもと言う時』は今だ。
太郎は弓を構え、震える指で「必殺の矢」をつがえる。
狙うは、最も密集している群れの中心部。
「お願いだ……飛んでくれ!」
シュッ!!
放たれた矢は、空気を切り裂き、ワイバーンの群れのど真ん中へと吸い込まれていった。
直後。
カッ!!
ドゴォォォォォォォォンッッ!!!
空中に第二の太陽が出現したかのような閃光。
続いて、鼓膜を破壊せんばかりの轟音が響き渡る。
爆風と紅蓮の炎が渦を巻き、数十体のワイバーンを一瞬にして飲み込んだ。
「ギャァァァッ!?」
「キシャァァァ……!」
爆発に巻き込まれたワイバーンたちは、炭化してバラバラと地上へ落下していく。空に巨大な風穴が開いたようだった。
「す、すげぇ……」
「一撃で群れを半分以上吹き飛ばしやがった……!」
冒険者たちが歓声を上げる。だが、戦いは終わっていなかった。
爆発を免れた数体が、パニック状態で散開し、市街地へと急降下を始めたのだ。
「あっ! 危ない!」
一匹のワイバーンが、逃げ遅れた子供を見つけ、鋭い爪を立てて襲いかかる。
距離がありすぎる。太郎の弓も、ライザの剣も間に合わない。
「ピカリ、行って!」
『まかせてー!』
太郎の肩から、光の妖精ピカリが弾丸のように飛び出した。
彼女は光の速さでワイバーンの目の前に割り込むと、その小さな体を極限まで発光させた。
『ピカリ・フラーッシュ!!』
ピカッッ!!!
目も眩むような強烈な閃光が、至近距離からワイバーンの網膜を焼く。
「ギャッ!?」
視界を奪われたワイバーンは空中でバランスを崩し、動きが完全に止まった。
「ピカリちゃん、ナイス! 今よ!」
その隙を、サリーは見逃さなかった。
彼女は杖を天に掲げ、最大魔力を練り上げる。
「火の神よ! かの者を焼き尽くせ! 『フレイム・バード』!!」
杖の先から噴出した炎が、巨大な鳥の形を成した。
火の鳥は翼を広げ、金切り声を上げながら停止したワイバーンへと特攻する。
ドォォォン!!
炎の鳥に貫かれたワイバーンは、断末魔を上げる暇もなく焼き尽くされ、黒い灰となって霧散した。
「ふぅ……。サリー、お見事です。あの一瞬で上位魔法を構築するとは」
「えへへ、ピカリちゃんのおかげよ!」
『やったー! 悪いトカゲやっつけたー!』
子供も無事に保護され、空の脅威もあらかた片付いた。
太郎は弓を下ろし、安堵の息を吐いた。
「終わったな……」
爆発跡から黒い煙が上がる中、冒険者たちが勝利を確信し始めた、その時だった。
ズズズ……。
地面に落ちた無数のワイバーンの死骸から、赤黒い霧のようなものが立ち上り始めた。
「……何!?」
太郎が目を見開く。
その霧は意思を持つかのように集まり、一つの巨大な影を形成していく。
死んだはずのワイバーンたちが、肉塊となり、骨となり、互いに融合して再び立ち上がる。
「嘘だろ……?」
それは、かつて戦った「紅蓮の魔狼」と同じ現象。いや、それ以上に禍々しい。
100体の死骸を凝縮したその姿は、漆黒の鱗に覆われ、瞳には地獄の青い炎が宿っていた。
『グォォォォォォォォン……!!』
空気がビリビリと震える。
それはもはや生物ではない。死霊と怨念の集合体。
【 暗黒のソウルワイバーン 】
「そ、そんな!? まさか、また合体するなんて!」
サリーが絶望的な声を上げる。
「来るぞ! 全員、構えろッ!!」
太郎の叫び声と同時に、ソウルワイバーンがその巨大な翼を広げた。
アルクスの街を、真の闇が覆い尽くそうとしていた。




