EP 27
緊急招集、ルルカ村を救え
とある日の午後。
アルクスの冒険者ギルドは、いつものように依頼を求める者や、昼間から酒を煽る者たちの熱気で溢れかえっていた。
太郎たちもまた、次の依頼をどれにするか掲示板の前で相談していた時だった。
バンッ!!
入口の扉が乱暴に開かれ、顔面蒼白の受付嬢が飛び込んできた。
「た、大変です! ヴォルフ様!!」
彼女の切羽詰まった声に、ギルド内の喧騒が一瞬にして静まり返る。
2階からヴォルフが身を乗り出した。
「どうした! 何事だ!」
「ル、ルルカ村に……『オークの群れ』が襲っているとの情報が入りました! その数、およそ50!!」
「何だと!?」
オーク。ゴブリンよりも遥かに巨躯で、力も強く、知能も高い豚の顔を持つ亜人。
それが50体の群れともなれば、小さな村など数時間で地図から消えてしまう。
「デルン王国軍に救援要請を出せ! 駐屯地は近いはずだ!」
ヴォルフの怒号が飛ぶ。しかし、受付嬢は泣きそうな顔で首を横に振った。
「だ、駄目です! 先ほど連絡しましたが……『国境付近の警備強化のため、現在ルルカ村に割ける兵など無い』と……!」
「なっ……!?」
ヴォルフの顔が朱色に染まった。
「くっ……! 自国の民を見捨てるつもりか!? 税を取り立てておいて、いざという時には切り捨てるだと!?」
ドンッ!!
ヴォルフの拳が手すりを叩きつけ、木屑が飛び散った。
ギルド内に重苦しい空気が流れる。国が動かないのなら、ルルカ村は終わる。誰もがそう思った時――。
「ふざけるなッ!!」
ヴォルフが大声を張り上げた。
「国が動かんのなら、俺たちが動く! ギルドの面目はどうでもいい、目の前で救える命を見殺しにするな!」
ヴォルフは冒険者たちを見下ろし、吼えた。
「よおし! 野郎共! **緊急依頼**だ! 総員、直ちにルルカ村の救援に行く! この依頼に拒否権は無い! 断る事は許さん!」
ギルド長の檄が飛ぶ。
一瞬の静寂の後――。
「へへッ、上等だぜ! ルルカ村の食堂の婆さんには、ツケが残ってるからな!」
「おお! オークなんざ、俺の大剣で叩き斬ってやるよ!」
「村の酒を守れぇぇ!」
冒険者たちが一斉に武器を掲げ、雄叫びを上げた。
彼らは荒くれ者だが、義理人情に厚い。自分たちの住む土地が荒らされるのを黙って見ているような連中は、ここにはいなかった。
ギルド全体が怒涛のような熱気に包まれる中、サリーが太郎の袖を引いた。
「どうします? 太郎さん。私たちはまだFランクですし、強制招集の対象外かもしれませんけど……」
太郎はリュックのベルトを握りしめ、少し震える手で――しかし、確かな意志を持って答えた。
「行こう。放っておけないよ」
ルルカ村周辺は、ウルフ狩りでお世話になった場所だ。それに、あそこには自分たちと同じように慎ましく生きる人々がいる。
「……それに、僕たちには『アレ』があるからね」
太郎は背中の矢筒――その奥に一本だけ忍ばせた、黒塗りの矢の感触を確かめた。ヴォルフには禁止されたが、もしもの時は……。
「その通りです、太郎さん。行きましょう」
ライザが剣の鯉口を切り、凛とした表情で頷いた。
「貴方が行くなら、私はどこまでもお供します。それに、オーク程度に後れを取る私ではありません」
「うん。行こう!」
「はい!」
冒険者たちの波に乗り、太郎たちもまた走り出した。
目指すはルルカ村。
太郎にとって初めての、多人数による「防衛戦」が始まろうとしていた。




