EP 26
ギルド長の憂鬱、禁忌の兵器
爆裂矢のテストを終えたその足で、太郎たちは興奮冷めやらぬまま冒険者ギルドの執務室へと駆け込んだ。
「ヴォルフさん! 出来ましたよ! ガンダフ師匠のおかげで!」
太郎は報告と共に、先ほどの実験結果――大木が跡形もなく消滅した惨状――を詳細に伝えた。
話を聞き終えたヴォルフは、顎に手を当て、深く沈黙した。
「そうか……大木一本を消し飛ばすほどの威力とはな」
「凄いんですよ! アレなら何が来ようと必殺です! ドラゴンだってイチコロかもしれません!」
サリーが身振り手振りを交えて熱弁する。
「ええ! 本当に驚きました。物理攻撃と魔法爆発の複合……。これがあれば、格上の魔物が相手でも後れを取りません。とても心強いですわ」
ライザもまた、戦術的な優位性を確信して頷いた。
しかし、ヴォルフの表情は晴れるどころか、ますます険しくなっていった。
彼は重い口を開いた。
「太郎さん。その『必殺の矢』とやらは、使用を禁止する」
「……え?」
太郎の笑顔が凍りついた。
サリーとライザも目を丸くする。
「き、禁止って……どういうことですか? これがあれば、もっと安全に依頼をこなせるし、強い魔物だって……」
「太郎さん」
ヴォルフの低い声が、太郎の言葉を遮った。
「君は分かっていない。その矢の存在を知れば、国々はこぞって太郎さんを狙うぞ」
ヴォルフは椅子から立ち上がり、窓の外の街並みを見下ろした。
「強力な魔法使いが放つ『爆裂魔法』は脅威だが、それを使えるようになるには何十年もの修行や、生まれ持った才能が必要だ。だが、その矢はどうだ?」
ヴォルフは振り返り、太郎を射抜くように見つめた。
「一般の弓兵でも、ただ引いて放つだけで戦略級の破壊力を出せる。そんな物が量産されたらどうなる? 子供でも城壁を吹き飛ばせるようになるんだぞ」
「あ……」
太郎は息を呑んだ。
そうだ。この武器の恐ろしさは、威力そのものよりも**「誰でも使える兵器」**である点だ。
「この大陸の軍事バランス、国々のパワーバランスはひっくり返る。そして、その矢を製造出来る鍵を握っているのは、太郎さんの『異界の知識と素材』、そして『火花鉱と精霊石』、最後に『ガンダフの腕』だ」
ヴォルフは机を指先で叩いた。
「これらが揃って初めて完成する。つまり、他国はガンダフを拷問し、太郎さんを拉致して、死ぬまでその矢を作らせようとするだろう。……分かるかね?」
「で、でも……」
太郎は反論しようとして、言葉を飲み込んだ。
自分の作ったものが、自分たちを守る盾ではなく、世界を焼く火種になり得ることに気づいてしまったからだ。
「……使うなとは言わん。命に関わるどうしてもと言う時、本当の窮地に陥った時だけの『切り札(奥の手)』にしろ。この必殺の矢の存在は、ここにいる我々4人とガンダフだけの秘密だ。絶対に他言無用とする」
ヴォルフの言葉は重かった。
それはギルドマスターとしての命令であり、年長者としての忠告だった。
「……分かりました。肝に銘じます」
太郎は深く頭を下げた。
「うむ」
ヴォルフは頷き、隣に控える娘に向き直った。
「ライザ。改めて命ずる。何としてでも太郎さんをお守りしろ」
ヴォルフの声には、親としての情ではなく、組織の長としての厳しさが宿っていた。
太郎は単なる「有望な新人」から、「取り扱い注意の戦略物資」へと格上げされたのだ。
「彼を守ることは、世界の平和を守ることと同義だと思え」
ライザは背筋を伸ばし、踵を鳴らして敬礼した。
「はい、お父様! ……いいえ、ギルドマスター。この命に代えても、太郎さんは私が守ります」
その瞳には、今まで以上の覚悟と、悲壮なまでの決意が宿っていた。
最強の武器は、最大の枷となった。
太郎たちは「秘密」という重荷を背負い、さらに過酷さを増す冒険の日々へと身を投じることになった。




