EP 24
ランボーへの憧れと、ドワーフの巨匠ガンダフ
『銀の月亭』の一室。
窓の外が白々と明るくなっても、太郎は机にかじりついていた。
手元にあるのは、100Pで購入した『花火の仕組みと作り方』と『危険物取扱いの基礎』。
「……なるほど。黒色火薬の基本は硝石、硫黄、木炭。これらはこの世界でも手に入る。だが、それだけじゃ威力が足りない」
太郎はブツブツと独り言を呟きながら、ノートに化学式と魔導式の配合を書き殴っていた。
「この世界には、僕の知らない未知の素材がある。魔石、可燃性の魔草、爆発性の鉱石……。僕が出す『現代の知識』と、この世界の『魔法物質』を融合させたら、きっと凄いことになる」
徹夜のハイテンションも相まって、太郎の脳内では既に最強の兵器が完成しつつあった。
翌朝。宿の食堂にて。
目の下にくっきりと隈を作った太郎を見て、二人は驚いた。
「太郎さん、寝てないんですか?」
「目が血走っていますわ……」
太郎はパンをかじりながら、ギラギラした目で切り出した。
「ライザ、サリー。頼みがあるんだ」
「どうされましたか?」
「僕の矢に、爆発属性を付けたいんだ。そう! 『ランボー』の矢みたいな事をしたいんだ! 矢の先端に爆薬を取り付けて、着弾と同時にドカーンと!」
太郎は身振り手振りで説明した。映画で見た、あのド派手な爆裂矢だ。
「らんぼう?」
サリーが首を傾げる。
「『らんぼう』というのは分かりませんが……矢に物理的な爆発機構を搭載する、ということですか。面白い発想ですね」
ライザは即座にその戦術的価値を理解した。
「魔法で矢に火を纏わせる『魔法剣』のような技術はありますが、矢そのものを爆弾にするというのは聞いたことがありません。もし実現できれば、魔狼のような硬い敵も内部から吹き飛ばせます」
「でしょ!? でも、僕一人じゃ作れない。構造が複雑になるから」
「分かりました。一度、お父様に相談してみましょう。ギルドなら職人のツテがあるはずです」
三人は冒険者ギルドの執務室を訪れた。
ライザから説明を受けたヴォルフは、顎髭を撫でながら興味深そうに唸った。
「成る程。矢に爆発属性を、か……」
「はい。理論と設計図は頭の中にあります。ですが、それを形にしてくれる精密な加工技術を持つ技師が必要です」
太郎は徹夜で書き上げたメモを提示した。
「面白い。普通の鍛冶屋なら『気が狂ったか』と追い返されるだろうが……あいつなら喜ぶかもしれん」
ヴォルフはニヤリと笑った。
「分かった。ギルド専属の変わり者のドワーフを紹介してやるよ。腕は超一流だ」
「ありがとうございます!」
ヴォルフに紹介されたのは、アルクスの外れにある工房だった。
煙突からモクモクと煙が上がり、槌を打つ音が響いている。
「ごめんください!」
中に入ると、灼熱の熱気と共に、一人の小柄で筋骨隆々な老人が現れた。立派な白い髭を蓄えている。
「あぁん? 誰だ、ワシの神聖な工房に入ってくる奴は」
彼こそが、ギルド専属のドワーフ、ガンダフだった。
「ヴォルフさんの紹介で来ました。矢の加工をお願いしたくて」
太郎が設計図を見せながら、熱弁を振るう。
信管の仕組み、火薬の充填スペース、空気抵抗を考慮したフォルム。
「……何だと!? 矢に爆薬を付けろだと?」
ガンダフは最初は眉をひそめていたが、太郎の話を聞くうちに、その目が職人の輝きを帯びていった。
「ふん……。ただの魔法付与じゃねぇな。物理的な起爆装置と、魔力の増幅を組み合わせる気か。……狂ってやがる。だが、理にかなってる」
ガンダフは設計図を作業台に叩きつけた。
「成る程な……。だが、それを作るには普通の鉄じゃ持たねぇし、火力が足りん。着弾の衝撃で確実に発火させる『火花鉱』と、爆発の威力を一点に集中させる『精霊石』が必要になるぞ」
「火花鉱と精霊石……ですか」
「ああ。どちらも希少な素材だ。そこらの店じゃ売ってねぇ。調達はどうするよ?」
太郎が困り果てていると、サリーがポンと手を叩いた。
「ねぇ太郎さん。ゴルスさんに頼んだら?」
「あ!」
「ゴルド商会なら、世界中の珍しい物を扱ってるわ。ゴルスさん、『安くしてやる』って言ってたし!」
「そうか! ゴルド商会なら調達してくれるかも!」
あの巨大コネクションを使わない手はない。
「ほう、ゴルドの旦那と知り合いか。なら話は早い」
ガンダフはニカッと笑い、巨大なハンマーを持ち上げた。
「よォし、目処は立ったな。素材さえありゃあ、ワシがそのふざけた設計図を形にしてやる。破壊力抜群の、世界最強の矢を作ってやるよ!」
「お願いします! 師匠!」
太郎とガンダフの手がガッチリと握られた。
現代のアイデアとドワーフの技術。
最強のコラボレーションにより、異世界の戦場を変える「爆裂矢」の開発がいよいよスタートした。




