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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 52

月下の宴、そして深淵からの哄笑

【海底国家シーラン国】

魔族軍が消滅し、シーラン国には割れんばかりの歓声と、リリアーナ女王や魚人兵たちからの感激の嵐が吹き荒れていた。

本来なら、国を挙げての盛大な祝勝会が開かれるはずだった。

「フレア様! デューク様! フェリル様! 貴方様方は我等の救世主です! さぁ、最高の海鮮料理と美酒を用意させましたので……」

リリアーナが瞳を輝かせて宴への招待を口にした、その時である。

「さて。旦那様の元に帰りますわよ」

フレアがドレスの裾を翻し、冷徹に言い放った。

余韻など微塵もない。

「な……何!? もうか?」

デュークが目を丸くする。

「折角ご馳走が出てくるのに! シーランの魚料理は絶品なんだぞ! 食べたいぞ!」

フェリルも抗議の声を上げる。

しかし、フレアの背後には、不動明王も裸足で逃げ出すような怒りのオーラが渦巻いていた。

「お黙りなさい!!」

一喝。周囲の海水がビリビリと震える。

「こうしている間にも! あの小娘達サリーとライザが! 『寂しかったでしょう、太郎様♡』などと言って、旦那様にへばり付いているかと思うと……キイイイイイ!! 想像しただけで羽が抜けそうですわ!!」

嫉妬と妄想が暴走していた。

魔族を殲滅した直後だというのに、彼女の敵はすでに「正妻の座を争うライバル」に移っている。

「やれやれ……。色ボケ鳥め」

デュークが呆れて首を振る。

「全くだよ。何だよ、このヒステリックなオバサンは」

フェリルがボソッと呟いた。

ピキッ。

フレアのこめかみに青筋が浮かんだが、今は制裁を加えている時間すら惜しい。

「さぁ、行きますわよ! デューク、出しなさい!」

「チッ……人使いの荒い」

デュークは巨大な竜王の姿に戻ると、不満げなフェリルと、殺気立ったフレアを背に乗せた。

ズドンッ!!

海底から一直線に浮上し、空へと飛び立つ。

音速を遥かに超えるスピードで、三柱はタロウ城へと帰還した。

【タロウ城・玉座の間】

「ただいま戻りましたわ! 旦那様ぁ♡」

窓から飛び込んできたフレアが、椅子に座っていた太郎に抱きついた。

幸い、サリーとライザは業務中だったため、フレアの懸念していた「イチャイチャ」は行われていなかった。

「お、お帰り。早かったね、みんな」

太郎は苦笑いしながら、三柱を出迎えた。

すぐに表情を引き締め、報告会が始まった。

「そうか……。シーラン国でも、魔族達は領土の占領よりも、国民の殺戮を優先していたか」

太郎は腕を組み、沈痛な面持ちで唸った。

エルフの里での一件と同じだ。彼らの目的は侵略ではない。

「えぇ、旦那様。その通りですわ」

フレアが真剣な表情で頷く。

「奴等がなりふり構わず『死』を撒き散らし、その穢れた魂を集めていたとなると……考えられる目的は一つ」

「魔王の復活、か」

「恐らくは。それも、通常の儀式では足りぬほどの、強大な存在の」

広間に重い沈黙が流れる。

だが、今は最悪の事態を回避できたことを喜ぶべきだろう。

「ありがとう。デューク、フレア、フェリル」

太郎は一人一人の目を見て、深く頭を下げた。

「君達がいてくれて本当に助かった。君達のお陰で、多くの命と、僕の大切な友人たちが難を逃れられた」

「ふん。我にかかれば造作もないことだ」

デュークはそっぽを向いたが、その尻尾は満足げに揺れていた。

「楽しかったから良いんだよ! 今度はご飯も食べさせてよね!」

フェリルもニカッと笑う。

【タロウ城・中庭】

その夜。

月下の元、城の中庭では二つの勝利を祝う宴会が開かれていた。

「さぁさぁ、お肉が焼けましたわよ!」

サクヤが手際よくステーキを配る。

「エルフの里が無事で本当に良かったです……!」

ヒブネが涙ぐみながら酒を飲む。

「リリーナちゃんのお母様も無事で何よりですわ!」

ヴァルキュリアがリリーナと手を取り合って踊っている。

笑顔と笑い声。

太郎が守りたかった「普通の幸せ」が、そこにはあった。

「平和だなぁ……」

太郎はビールを片手に月を見上げた。

この平穏が、いつまでも続けばいい。

だが、風に乗って運ばれてくる微かな不穏な気配を、太郎の本能は感じ取っていた。

【魔族国・ワイズ皇国】

一方、光の届かぬ地の底。

魔族たちの総本山、デスピア城の地下深くに、その部屋はあった。

無数の蝋燭が揺らめく中、魔族幹部デデリデが玉座に座っていた。

その前で、傷ついた部下が震えながら報告をしている。

「何だと!? エルフの里も、シーラン国も敗北しただと!?」

デデリデの怒声が響く。

ベリアルも、オクトパス将軍も討たれた。戦力的な損失は計り知れない。

「も、申し訳ありません……! しかし……!」

部下は恐怖に震えながら、一つの水晶を差し出した。

そこには、戦場で集められた膨大な数の「負の魂」が、ドス黒い光を放って渦巻いていた。

「魂は……魂は集めました! 目的は達しました!」

デデリデの目が、怪しく光った。

彼は水晶を手に取ると、口元を歪に歪めた。

「ふむ……。ベリアル達は無駄死にではなかったか」

彼は部屋の奥にある、二つの巨大な「棺」へと歩み寄った。

一つには禍々しい角の紋章。もう一つには、全てを噛み砕く牙の紋章。

「これで……足りる。太郎に殺された『魔王ヴァルス』様。そして、太古より眠りし暴虐の王『魔王グレンデル』様」

デデリデは水晶を棺の上に掲げた。

魂が棺へと吸い込まれていく。

ドクン……ドクン……。

死していたはずの棺から、世界を震わせるほどの鼓動が響き始めた。

「二柱の魔王が同時に目覚める時、世界は真の闇に包まれる……!」

デデリデの高笑いが、地下空洞に反響する。

「今に見ていろ、人間共! そして太郎国! 貴様らの『平和』など、絶望の前の余興に過ぎん! フハハハハハハ!!」

二つの棺が、ギギギ……と音を立てて開き始めた。

その隙間から溢れ出すのは、かつてない絶望の気配。

世界の秩序は、今まさに崩れ去ろうとしていた。

――【世界の秩序編・完】――

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