EP 51
深海に咲く紅蓮、凍てつく海、黄金の閃光
【海底国家シーラン国・戦場中央】
オクトパス将軍を瞬殺したフレアは、優雅にヒレを動かして女王リリアーナの元へと降り立った。
「リリアーナ、フレア様!!」
リリアーナは救援に感謝しようとしたが、フレアが人差し指を立ててそれを制した。
「ねぇ、リリアーナ。申し訳ないのだけれど、魚人兵達を後ろへ引き上げさせて貰えるかしら?」
「え?」
「私って、細かい作業って苦手なのよねぇ。敵だけを狙うとか、そういうチマチマしたのは性に合いませんの」
フレアは妖艶に微笑んだが、その瞳の奥には破壊の予兆が渦巻いている。
「だってぇ、私の灼熱で魚人さん達を巻き込んじゃうからぁ♡ 全員、煮魚にしたくはありませんでしょう?」
「ひっ……!」
リリアーナは戦慄した。この方は本気だ。味方がいようが関係なく、この海域ごと焼き尽くすつもりだ。
「わ、分かりました! 直ちに!」
リリアーナは魔法拡声で全軍に号令をかけた。
『シーランの兵士達よ! 下がりなさい! 直ちに結界の内側へ退避し、防戦に徹しなさい! 巻き込まれます!!』
「え? 優勢なのに?」
「女王陛下の命令だ! 急げ!」
魚人兵たちは困惑しながらも、本能的な危機感を察知して一斉に後退し始めた。
戦場には、取り残された魔族の大軍と、巨大なアノマノカリウス、そしてたった三人の「最強種」だけが残った。
「お? 魚人兵達が居なくなったな」
狼王フェリルがニヤリと笑った。
「じゃあ、そろそろ……遠慮なくやれるね」
ブンッ! ブンッ!
フェリルの体がブレたかと思うと、左右に実体を持つ「分身」が現れ、計3体となった。
さらに、彼が生成した無数の氷狼たちが、主の周りに整列する。
「吸い込め……」
3体のフェリルと氷狼たちが、一斉に海水を吸い込むように口を開けた。
口腔内に圧縮されていくのは、物理法則を無視した「絶対零度」の冷気。
「む? そろそろ終いか」
アノマノカリウスの巨体を片手で抑え込んでいた竜王デュークも、退屈そうに鼻を鳴らした。
「ならば、我も掃除してやろう」
ゴオオオオオオ……!!
デュークの口元に、黄金の粒子が集束していく。
それは、星の核すら撃ち抜く竜王の極大エネルギー。
そして、真打ちが登場する。
「さぁ、ダンスの時間ですわよ」
フレアが海中で優雅に舞い始めた。
彼女が回転するたびに、海水がボコボコと沸騰し、八つの巨大な火球が出現する。
水の中で燃え盛る理不尽な炎。それらは鎌首をもたげ、八体の「火龍」へと変貌していく。
「消えなさい、汚らわしいモノたち」
「『不死鳥紅蓮の舞』!!」
「行きなさい!!」
フレアの号令と共に、八つの火龍が魔族軍へと突撃した。
「ギャァァァァァ!! 熱い!? 水の中なのに燃えるぅぅぅ!?」
「助け……グワァァァァ!!」
火龍が通り過ぎた場所では、魔族たちが一瞬で炭化し、周囲の海水は超高温の蒸気となって爆発した。
逃げ場を失った魔族たちに、今度は極寒の地獄が襲いかかる。
「『絶対零度ブレス(アブソリュート・ゼロ)』!!」
フェリルの分身と氷狼たちが、一斉に冷気の波動を放った。
パキパキパキパキパキッ!!!!
沸騰していた海水が、一瞬にして凍りつく。
火龍から逃げ延びた魔族たちは、恐怖の表情を浮かべたまま、永遠に解けない氷の彫像へと変えられた。
そして、最後は巨大な王の一撃。
「『アルティメット・バースト』!!」
カッ!!!!
デュークの口から放たれたのは、視界を全て白く染め上げるほどの黄金の熱線。
それは一直線にアノマノカリウスを飲み込んだ。
「ギシャァァァァ……!?」
断末魔すら残らない。
太古の魔獣は、細胞の一片に至るまで原子分解され、溶けるように消滅した。
熱線はそのまま海底の岩盤を貫き、遥か彼方の海溝まで突き抜けていった。
数秒後。
戦場だった場所には、何も残っていなかった。
魔族も、アノマノカリウスも、瓦礫さえも。
あるのは、異常な水温上昇による蜃気楼のような揺らぎと、漂う氷塊だけ。
『…………』
結界の中から見ていた魚人兵たちは、あまりの光景に言葉を失っていた。
これは戦争ではない。災害だ。神の御業だ。
だが、静寂を破ったのは、誰かの歓喜の声だった。
「か……勝ったぞおおおおお!!」
「魔族が全滅したぁぁぁ!!」
「シーラン万歳! 太郎国の援軍万歳!!」
ウオオオオオオオオオッ!!
海底都市全体が、勝利の雄叫びに包まれた。
その中心で、三柱の最強種たちは、まるで散歩でも終えたかのように涼しい顔をしていた。
「ふぅ。こんなものかしら」
「お腹すいたー。リリアーナちゃん、宴会しよー!」
「フン、準備運動にもならん」
圧倒的な力の前に、シーラン国は救われたのである。




