EP 37
瞬殺の宴と、蚊帳の外の不死鳥
荒野に乾いた風が吹く。
ガルムの群れ5体は、本能的な恐怖に震えていた。
目の前にいる獲物は、ただの人間ではない。生物としての格が違いすぎる。
「さて、まずはご挨拶だ」
太郎は悠然と『真・雷霆』を構えた。
本来なら惑星すら破壊しかねない出力を、極限まで絞り込む。それでも、あふれ出る魔力は隠しきれない。
「頼むぞ、相棒」
太郎が必殺の矢を添える。
ドクンッ……!
『真・雷霆』が主の闘志に呼応して脈動する。
矢じりに破壊のエネルギーが注ぎ込まれ、紅く、紅蓮の輝きを放ち始めた。太郎の周囲には、制御しきれない金色の雷がバチバチと舞い踊る。
「行くぞ!! 『破邪の一矢』!!」
弦が弾かれる音と共に、紅蓮の矢が放たれた。
それは矢というより、赤いレーザービームだった。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
着弾と同時に、局地的な爆発が発生した。
先頭にいたガルム2体が、悲鳴を上げる間もなく爆炎に飲み込まれ、細胞一片残さず蒸発した。
「グルルッ!?(兄貴たちが消えた!?)」
生き残った3体のガルムがパニックに陥る。
しかし、後ろに下がれば殺される。彼らは死に物狂いで、一番隙がありそうな太郎めがけて特攻を仕掛けた。
「させるもんですか!」
サリーが一歩前に出る。
彼女は優雅に杖を掲げ、正確無比な魔力制御を見せた。
「行きます! 聖なる光よ! 眼前の敵を貫け! 『ホーリー・レーザー』!!」
杖の先から、純白の光線が一直線に放たれる。
ジュッ!
光はガルムの眉間を貫き、心臓へと突き抜けた。
外傷は最小限。毛皮を傷つけない、プロの仕事である。
「次は私ですわ!」
続いて、ライザが疾風の如く飛び出した。
手には『竜殺しの魔剣』。
彼女はガルムの懐に飛び込むと、一瞬だけ姿勢を低くした。
「剣技…… 『閃光』!!」
視認不能の抜刀術。
刀身が煌めいた瞬間、ライザはすでにガルムの背後に立ち、残心をしていた。
ガルムの時が止まる。
自分が斬られたことすら気づかず、空中で硬直する。
チンッ!!
ライザが剣を鞘に収め、鍔鳴りの音が響いた瞬間。
ズパァッ!
ガルムの体は、鼻先から尻尾まで、鮮やかに真っ二つに分かれて崩れ落ちた。
「残るは一匹……!」
最後のガルムが、恐怖で涙目になりながらヴァルキュリアに飛びかかる。
しかし、相手が悪すぎた。
「無駄です」
ヴァルキュリアは神盾『シュテル』を軽く振り上げた。
ガゴォッ!!
盾のアッパーカットがガルムの顎を砕き、巨体を軽々と空中に打ち上げた。
「ハァッ!」
ヴァルキュリアは神槍『グラニ』を突き出し、空中のガルムを串刺しにする。
そして、無慈悲な詠唱を行った。
「『ライトニング・ボルト』!!」
バリバリバリバリバリッ!!!
神槍から、家庭用電源とは桁違いの1億ボルトの電流が流し込まれた。
ガルムの悲鳴は電気ノイズにかき消され、一瞬にして炭化。
黒焦げの塊となって地面に落下した。
戦闘時間、わずか10秒。
荒野に静寂が戻る。
「ふぅ。上手く行ったな」
太郎が弓を下ろす。
「やりましたね。私の魔法も狙い通りでしたわ」
サリーが微笑む。
「えぇ! 久々に斬れて楽しかったわ」
ライザが汗を拭う。
「ふむ。準備運動にもなりませんでしたが、中々有意義でしたわ」
ヴァルキュリアも満足げだ。
四人は円になり、互いの健闘を称え合った。
完璧な勝利。完璧な連携。
……しかし、一人だけ、その輪に入れない者がいた。
「…………」
後方で体育座りをさせられていたフレアが、プルプルと震えながら立ち上がった。
その背後で、怒りの炎がゴオォォと燃え上がる。
「上手く行ったじゃ、有りません事よーーッ!?」
フレアの絶叫が響き渡った。
「私の出番は!? 私の出番はあああ!? 『最後くらい呼ぶ』って言いましたわよね!?」
フレアはドスドスと太郎に詰め寄った。
「それに旦那様! 『素材が灰になるから』って私を止めましたけど、ご自分はどうなんですの!? 爆発で木っ端微塵じゃないですか!」
「あ、いや、あれは手加減したんだけど……」
「ヴァルキュリアも! 黒焦げですわよ! あれじゃ素材になりませんわ!」
「む……確かに。焼きすぎてしまいました」
サリーとライザが仕留めた二体以外、残りの三体は「蒸発」か「黒炭」である。
フレアの言い分は正論すぎた。
「ズルいですわ! 私だって暴れたかったのに! 私だけ仲間外れなんてぇぇ!」
「ご、ごめんってフレア。帰ったら美味しいお肉焼いてあげるから」
「当たり前ですわ! 特上カルビですわよ!」
結局、ゴブリン狩りのはずが、ガルム瞬殺ツアーとなり、最後はフレアの機嫌取りに追われる太郎たち。
ギルドへ戻った一行を迎えたヴォルフは、提出された「黒焦げの何か」と「真っ二つの死骸」を見て、
「……もう、何も聞かん」
と、遠い目をしてハンコを押すのであった。




